くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「AVA/エヴァ」

「AVA エヴァ

普通のアクション映画だろうと思って見に行ったのですが、これがなかなかな秀作でした。まず絵作りが美しく、背景に拘った映像が見事、さらに音楽に乗せたテンポづくりがうまい。そして、人物それぞれの描き方が深みがあって脚本が練られているのと、主人公がプロの殺し屋に見えるほど丁寧な描写が行われています。最近で、ここまで細部に手を抜かない映画も珍しいですが、いい作品でした。監督はテイト・テイラー

 

一人の男性ピーターが空港を出てきて、ある女性の運転する車に乗り込むところから映画は始まります。実はこの女性はプロの殺し屋で、ターゲットはこの男性。鼻の下を伸ばして口説きにくる男性に話を合わせ、巧みに車を止めて、なぜあなたは殺されるのか身に覚えがあるかと尋ねる。訳のわからないままに、一瞬で撃ち殺されてしまう男性。女性の名はエヴァ。そんなエヴァの仕事を一台のバイクに乗った女性がつけていて、車に仕掛けた盗聴マイクで会話の様子を聞いている。仕事の前にターゲットに話しかけるのは組織の規約違反なのだ。

 

続いてのエヴァは極秘潜入して一人の人物を殺す仕事を依頼される。そんな頃、組織の上層部のサイモンはエヴァを見晴らせるためにアランという男を張り付かせる。エヴァの仕事が成功する直前、いきなり兵士が突入してくる。当初は心臓麻痺を装うつもりを一気にターゲットを殺した上で、兵士を迎え撃つエヴァ。この手際の良さとスピード感が実にうまい。なんとか脱出したエヴァだが、ターゲットの名前を間違えていたという連絡が組織より入る。しかも、夜ジョギングをしていたエヴァはアランに襲われる。しかし反撃して殺してしまう。

 

エヴァは自分を殺し屋に育てたデュークの元を訪れ、真相を迫るが、うまくはぐらかされる。エヴァにはジュディという妹がいた。彼女の婚約者マイケルはエヴァの元カレだった。アルコール依存症で苦しんでいたエヴァは8年前マイケルの元を去って行方不明だった。たまたまジュディの元を訪ねたエヴァは母が心臓発作で入院したことを知る。母を見舞いに行ったエヴァだが、ジュディの態度も冷たかった。しかし、ジュディはマイケルがかねてからのギャンブル依存症が治っていないと泣きついてくる。この辺りがやや雑。エヴァはかつて自分も入り浸っていたマイケルが入り浸っている裏賭博場へいき、マイケルを助け出し、敵のボスに啖呵を切って去る。

 

一方デュークはかつての教え子であるが今は上司の地位にいるサイモンを訪ねる。実はエヴァの仕事のミスは全てサイモンが仕掛けたもので、エヴァを亡き者にするつもりだったという。デュークは、サイモンに釘を刺し、エヴァを狙わないように言いくるめる。

 

間も無くして、サイモンの家族のパーティに出かけたデュークは、そこでサイモンに殺されてしまう。そしてその映像をエヴァに送る。エヴァはデュークが殺されたことを知り、覚悟を決める。そして退院した母の元を訪れ、自分の正体を話そうとするが母から話さないようにと諭される。この場面が実にいい。カードをやりながらさりげなく母が娘を諭すくだりは絶品の場面です。さらにエヴァは貯蓄していた金を持ち出し、マイケルの借金をチャラにすべく裏賭博のボスに会いにいき、殺す寸前までして脅して帰る。エヴァは自分が組織に狙われていると判断し、身内も危ないと考え、マイケルの元を訪れ、ジュディと一緒に国外に脱出するように金を渡す。ジュディは妊娠していた。

 

そしてエヴァは自宅に戻るが、耐えきれずにとうとうアルコールを飲んでしまう。そして自殺を決意して銃を喉に当てた途端、サイモンが突入してくる。そして、エヴァとバトルを繰り返すが、形勢が不利と判断したサイモンは手を止める。その時、ホテルの不審者侵入の警報がなる。サイモンは巧みに脱出するが、エヴァもまた部屋を出てサイモンを追う。そして、追い詰めたエヴァはサイモンを撃ち殺す。この作品全体に言えることですが、エヴァが実に鮮やかになんの躊躇もなく銃を撃ち人を殺す。どこか冷たいようですが、これがプロの姿ではないかと思う。しかも、ピンチになることなく常にやたら強いのもいい。

 

全てを終えたと思ったエヴァは、一人部屋を出て街に出る。いつのまにか冒頭の女がエヴァの後をつけている。彼女はサイモンの右腕なのだ。カメラがゆっくり引いて二人のカットを映して映画は終わる。うまい。実にうまい仕上がりである。所々にやや甘さはないわけではないが、エヴァとデュークの師弟関係もしつこくないし、サイモンのキャラクターも組織の上層部としてありきたりの狡猾さではないリアリティがある。さらに、サイモンの右腕の女の存在が組織の不気味さを見事に描写している。エヴァの母のキャラクターも、一見よくある女のようで、娘への親としての温かさがしっかり描かれている。一番弱いのはジュディとマイケルだが、これもさりげなくかわして描くので、あまりアラが目立たない。ここまで書き込まれた脚本は珍しいと思う。非常によくできたアクション映画だったと思います。