くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「くれなずめ」「アチャコ青春手帖 東京篇」

「くれなずめ」

これは良かった。本来が舞台劇なので、終盤舞台的な演出は見られるものの、延々と長回しを繰り返す冒頭のシーンから次第に物語が動き始める中盤から後半、じわじわとその真相がはっきりしてきて、それでいてありきたりの切ない展開へと流れるのを堰き止めるようなラストの演出、そしてやっぱり泣かせるラスト。上手いです。映画ってこういうもんなんだと改めてすごく楽しかった。特筆するのは前田敦子が抜群に良かった。監督は松井大悟。

 

友人の結婚式の余興をするために5年ぶりに集まった6人が、その準備のため会場で打ち合わせしているところから映画は始まる。ああでもないこうでもないと盛り上がった後、じゃあカラオケに行くことに。吉尾がマイクに、「俺5年前に死…」と言って場面は変わる。

 

カラオケボックスで、余興の練習を兼ねて盛り上がる6人。赤フンで踊りまくるという余興の予定である。カメラは冒頭から延々と長回しを繰り返して描いていく。時間は流れて一気に披露宴の後、余興は大顰蹙で、メンバーらは落ち込む反面開き直る。二次会まで三時間あるということで、時間潰しに喫茶店を探し始める。

 

そして物語は12年前の高校時代、文化祭での余興での盛り上がり、ゴミ捨て場で前田敦子扮するマドンナミキエとの出来事や、いじめっ子の松岡とのエピソードなど描かれていく。

 

映画は12年前、6年前、2年前と遡っては現代に戻りながら、大学生時代、社会人時代が描かれる。しかし、次第に吉尾の存在に疑問が見えてくる。そして6人は吉尾と最後にあった日に遡る。この日、劇団で役者をしている明石とその演出家欽一の舞台があり、仙台で住む吉尾も見に来ていた。そこで仲間達と再会。しかし、その後飲みに行こうというのを仙台に戻らなければならないからと吉尾は帰っていく。万が一新幹線乗り損ねたら電話をくれと明石は言うが、みんなで飲んでいて、吉尾からの電話に気がつかず、吉尾は高速バスで帰ってしまう。

 

家庭持ちの曽川が妻とスーパーに来ていて突然メールが入る。吉尾の父からで、吉尾が急死したという。メンバーたちに連絡を取る曽川。仲間が吉尾と最後に会って半年が経っていた。現代のメンバーはなぜ吉尾がここにいるのかと突っ込む。なぜか吉尾の記憶は誰からも消えていない。そこへ披露宴に来ていたミキエが通りかかる。吉尾はミキエが好きだった。ここでミキエに告白する吉尾。そして「幸せになれよ」と見送るがミキエは戻ってきて啖呵を切って去っていく。ミキエを演じたのが前田敦子だが、抜群に良い。アッちゃんは女優に戻ってからみるみる良くなっていきます。

 

5人はぶらぶらして二次会の会場を目指すが、ふと吉尾の引き出物をどうするかということになり、道端の畑に埋めることに。そこへ百姓姿の吉尾が現れ揉み合ってるうちに、メンバーの体から心臓が取り出される。いきなりの展開。さらに吉尾は不死鳥となって燃えながら舞い上がる。メンバーが心臓を投げつけて、その場に倒れる。気がつくと一面の花畑。そこへ、吉尾愛用の鞄だけが現れ仲間と会話をする。そして、5人は記憶をもう一度塗り替えようと5年前に戻る。劇場前で吉尾と再会する5人、そして吉尾を涙で見送る。

 

何度めかの二次会場へ向かう5人。タクシーに乗るか、このまま歩いていくかと繰り返して映画は終わっていく。映画を作るというのは面白いね。この作品の仕上がりの切なさはまさにその思い入れから生まれたものだと思います。松井大悟の実体験をもとにしたストーリーだけにその思い入れが乗り移ったのでしょうね。良かったです。

 

アチャコ青春手帖 東京篇」

たわいのない量産された時代の娯楽映画。それでも、肩の凝らない気楽な展開にひとときの喧騒を忘れることができます。これが映画の本当のあるべき姿なのでしょうね。監督は野村浩将

 

主人公アチャコがこの日も大学の卒業生の発表の場に友人でボンボンの北村ときている場面から映画は始まる。今年こそ卒業をと思っていたが案の定北村と共に落第。北村は、こんな世の中で社会人になるのは良くないと落第を歓迎するが、貧乏なアチャコにとっては下宿代も払えない苦境に陥る。しかも、息子の卒業を楽しみに母みどりが田舎から出てくる。正直に話せないアチャコは、卒業したと嘘をつき、下宿でもお祝いに席が設けられてしまう。

 

母が帰った後、アチャコは、さまざまなアルバイトをしてその場凌ぎを始めるのが物語の本編となる。サンドイッチマンや絵のモデルなどを経て、女社長のボディガード役の仕事につく。そして、社長の父親役や夫役、恋人役をこなす中、やがて社長は取引先との恋に落ちアチャコはクビになる。そんな頃、息子との同居を夢見て母が再び田舎から出てくる。下宿の親父が詰め寄られて真相を話し、母は、息子に何年かかっても大学を卒業するようにと手紙を残して帰りの汽車へ。帰ってきたアチャコは北村の車で母を追いかけ、一言謝り、母の激励を受けて母は帰っていく。こうして映画は終わる。

 

全くたわいのない話で、アチャコに気がある下宿の娘愛子のエピソードで彩を加えながらも、アチャコら芸達者の役者の演技に負うところが大きい量産された娯楽映画という感じ。でもそんな気楽な映画の装いが見ていてとっても楽しい。そんな一本でした。