くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヘカテ」(デジタルリマスター版)

「ヘカテ」

これは良かった。一級品の映画に久しぶりに出会いました。映像の美しさ、構図の完成度、ストーリー展開のリズム、そして映画らしい雰囲気を匂わせる名台詞、名場面の数々、めくるめくようなファム・ファタールの醸し出す情熱的な男女の物語に圧倒されます。これこそ名作。監督はダニエル・シュミット

 

1942年スイスの首都ベルンのパーティ会場へカメラが入っていきます。テーブルに座る一人の外交官ロシェル。彼は一点を見つめるようにかつて燃えるほどに愛した一人の女性へ想いを巡らせていた。グラスに注がれるシャンペンの泡にカメラが寄っていくと物語はロシェルの若き日、北アフリカの地に領事として赴任した日々に遡る。現地のパーティで彼は、不気味なほどに魅力的な一人の女性クロチルドと出会う。彼女の夫はシベリアに赴任している軍人だった。ロシェルは一眼で彼女の魅力に取り憑かれてしまい、ことあるごとにクロチルドと逢瀬を重ね、SEXに溺れていく。

 

時に従順に時に突き放すようにロシェルと交わるクロチルド。ロシェルと濃厚なSEXを交わしたかと思えば、子供にような男の子を侍らせてロシェルに嫉妬心を与える。衣服を全て脱ぐことなく交わされる愛の行為に、見ている私たちも、二人の愛の姿に取り憑かれていきます。麻薬の巣窟のような怪しい路地や、娼婦たちや男色、が支配するカフェなどのシーンを交互に挿入し、時に一つの出来事が終わった後に、少し前にフラッシュバックする映像などテクニックで見せる手腕も見事。ロシェルの衣装はクリスチャン・ディオールが専属でデザインしただけあって、暗闇の中でも浮かび上がるように見える。さらにブルーの色ガラスを通して描く色彩演出の美しさ、ラウール・ヒメネスの美術とレナート・ベルタのカメラが織りなす映像美の世界にも引き込まれます。

 

ロシェルとクロチルドの恋は永遠かと思われた矢先、突然クロチルドが姿を隠してしまう。狂ったようにクロチルドを求めて彷徨うロシェルは、ようやく見つけたクロチルドに冷たくあしらわれ、一人の少年を犯してしまう。仕事もないがしろにしてクロチルドにのめり込んでいたロシェルは、次第に世間の非難に目にさらされ始め、とうとう本国へ召喚されてしまう。

 

時が流れ、ロシェルは戻ってからは平穏に仕事をしたことが評価されて、どんどん出世していく。時の流れをモノクローム映像で描くこの辺りからの展開も素晴らしいです。そして、次の赴任先の希望を聞かれたロシェルは、シベリアへの特殊任務を希望します。シベリアにやってきたロシェルはそこで、かつて愛したクロチルドの夫と出会います。

 

時がたち、冒頭のパーティーシーン、部屋に入ってきたロシェルの前に一人の女性が振り返ります。それはクロチルドでした。すっかり大人になったロシェルは、シベリアで一人の軍人に会ったことなどを話し、ゆっくりとクロチルドの前から去っていきます。別れ際に二人がさりげなく交わす一言が素晴らしくて、これこそ映画とうなってしまいます。本当にいい映画でした。一級品の名作とはこう言うのを言うのでしょうね。