くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「最後にして最初の人類」「カトマンズの男」「相続人」(フィリップ・ラブロ監督版)

「最後にして最初の人類」

オラフ・ステープルトンのSF映画の古典を2018年に早世した作曲家ヨハン・ヨハンソンが監督したまさに最初で最後の一作で、シネマコンサート作品です。

 

16ミリフィルムを駆使したモノクロ映像で、何やらオブジェクトが画面上部から現れるところから映画は始まる。そして、20億年先の人類にして、最後の人類から現在の人々へメッセージを伝えるというナレーション、そして、1960年代から1980年代にかけてユーゴスラビアに作られたスポメニックと呼ばれる様々な近代オブジェクトを順番に映しながら、20億年後、太陽に接近した惑星によって太陽が死滅し、間も無く人類が滅んでいくことをテレパシーで語ってくる形で物語が進む。

 

いわゆる「2001年宇宙の旅」のモノリスが現れる場面が延々と続く感じで、現れる様々なオブジェクトは、時に前史的で、時に超モダンな姿を見せ、遥か彼方の人類が宇宙によって滅ぼされていく最後のメッセージが展開していく。背後に監督自らの曲が延々と流れ、71分間の映像詩を見ることになる。時に急に途切れて画面に点だけが写り、それが音声によって動きながらまたオブジェクトを映し出す。

 

滅びゆく太陽のイメージか、円形の真っ赤なそして次第に紫に変化する映像だけがカラーとなるが、あとは全編モノクロームである。単なる陶酔感に浸るだけかと思いきや、意外に物語に引き込まれている瞬間があったりするというなかなかの作品、面白かった。

 

カトマンズの男」

脚本も何もあったものではないその場その場の思いつきかと思うような展開と、無駄に派手なアクション、これがジャン=ポール・ベルモンドの世界といえばそれまでのどたばたコメディでした。お世辞にも良くできた映画とはいえませんが、これもまたこの時代色かもしれません。ジュール・ベルヌの原作があり、それはしっかり書き込まれているみたいですが完全に無視している感じです。監督はフィリップ・ド・ブロカ

 

大金持ちの主人公アルチュールが車に細工をして崖から落ちるところから映画は始まる。裕福すぎて退屈な彼は自殺未遂を繰り返していた。そこへ友人の東洋人ゴオは、彼を世界一周へ連れて行く。ところが資産の管財人が株の大暴落で破産したと告げにくる。ゴオは、アルチュールに多額の保険金をかけ、一ヶ月以内に殺してあげるといい、アルチュールは殺し屋に追われる羽目になる。

 

たまたま逃げ込んだストリップ小屋でアレクサンドリーヌという女性と出会い彼女に一目惚れしたことから、命が惜しくなり、逃げ回ることに。ここからは、執事のレオンと共にインドへ向かったりしながらのド派手で、思いつきだけのアクションが次々と展開。さらに、フィアンセ、アリスの母親も殺し屋を雇い、アルチュールに迫ってくる。

 

建築の足場や、吊り橋、などなど、なんでもありで、どこからきたのかわからない大勢の殺し屋たちに、ガトリング銃や、果ては大砲まで飛び出し応戦、アヘンを積んだ船で逃げたり、もう何が何かわからないので、かえって退屈になってくる。さらにいつの間にかアレクサンドリーヌのストリップ小屋に戻って彼女も連れて逃げ、留置所に放り込まれるし、市場の中を逃げ回るし、果ては飛行機に飛び移る曲芸的な展開へ進んで大団円へ。

 

やがて保険の契約期限が終わり、追いかけてきた資産管財人が実は破産は誤報だったと告げたことから、また退屈な日々になるとがっかりするアルチュールのカットでエンディング。

 

まあ、適当そのもののZ級のアクションコメディですが、のちにボンドガールになるウルスラ・アンドレスがヒロインというもは見ものでした。

 

「相続人」

これは面白かった。細かいカットをジグソーパズルのように時間と空間を前後させてつなぐ編集がちょっと錯綜する感じで人間関係や名前が混乱することもありましたが、普通に楽しめるポリティカルサスペンスという感じの作品でした。監督はフィリップ・ラブロ。

 

鉄鋼会社と新聞社を経営する巨大企業コーデルグループの社長ユーゴが飛行機事故で亡くなり、アメリカにいた息子のバートがフランスに戻ってくるところから映画は始まる。機内で知り合った女性ローレンにはめられて、空港で麻薬所持の疑いをかけられ、彼が相続する会社の背後に潜む陰謀の始まりを予感させられる。部下の機転でその場を逃れたバートは、早速探偵に父の飛行機事故を調べさせるが、間も無くして父が乗った飛行機の整備士が殺される事件が起こる。

 

会社を引き継いだバートは良きパートナーのダビッドと共に会社で見込みのあるリザという女性役員を味方に引き入れ、コーデル社にうずまく陰謀を調査していく。そして調べて行くうちに見えてきたのはコーデルグループを乗っ取ろうとする意外な黒幕の正体だった。その黒幕とは義父である妻の父親だった。ネオファシストを名乗る義父らは、ナチス時代にユダヤ人の迫害にも手を貸していたらしいこともわかるが、この辺りの描写が曖昧。

 

父が残したマイクロフィルムによる証拠も手に入れたバートは、全てを明るみにするべく自社の新聞に記事を掲載する準備をリザに指示し、テレビでの暴露も準備、息子を妻の元から奪取して、自分の相続人の立場であることを認識させ、そして愛するローレンの元に向かうが、突然現れた義父らの一味に撃たれてしまう。すんでのところで間に合わなかったダビッドがバートの死を確認し、バートの息子のカットで映画は終わる。

 

バートの軍隊時代のカットなどなどの細かいフラッシュバックや、父の事件を調べる探偵の場面とバート本人の行動、ローレンやリザとのラブストーリーなどてんこ盛りのエピソードを細かいカットの交錯で見せて行くので若干目まぐるしく、登場人物が混乱しそうになるが、核になる物語は見えるので、ラストのあっけない大団円がインパクトがあって面白かった。