くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「走れロム」「デッドロック」「狂ったバカンス」

「走れロム」

斜めのアングルを多用した構図、ハイスピードなカメラワーク、突然挿入される俯瞰映像が、狭いアパートの通路や屋根の上、雑多な室内という空間演出も加わって独特の映像世界を作り出す緊張感に引き込まれる作品でした。ストーリーテリングをもう少し工夫したら全体がまとまって見えてくる気がしなくもありませんが、なかなか面白い映画だった。監督はチャン・タン・フイ。

 

ベトナムの底辺層で流行っているデーと呼ばれる違法宝くじ、その二桁の数字を予想する予想屋で生計を立てる主人公の少年ロムの姿から映画は幕を開ける。胴元の存在は全く不明で、賭け屋という仲介人に金を預けて当たった時は分配に走り回るのがロム達の仕事だった。予想が当たれば手数料を稼ぎ感謝されるが外れれば袋叩きになる。この日もバーというアパートに住む老婦人に上手く取り入って大金を賭けさせたが失敗、老婦人は首を吊ってしまう。

 

アパートの住民達は、一攫千金のために借金をしてまでデーにはまるが、アパートは地上げ屋によって立退が迫られている。ロムと同じく予想屋をするフックは何かにつけロムの邪魔をする。ロムはそんなフックと金と顧客を奪い合いながら、自分は金を貯めて親を探すつもりをしていた。映画は、ロムとフックが必死で走り回りながら、丁々発止に奪い合いをしたり、借金取りから狙われたりを追っていく。

 

狭いアパートの路地を駆け抜けていくロムとフックの姿を、時にシュノーケルカメラのようなもので追いかけ、時に、二人の取っ組み合いを真上から捉える。ダンサーを目指すフックは縦横無尽に飛び跳ねながら逃げ回り、そんなフックをロムは追いかけ回す。せっかく貯めた金を見失うロム、詐欺師のような金貸から金を借り、アパートに火をつけるロム。逃げ回り追いかけ回し、必死で生きる少年達の姿とは対照的に都会を走る車やバイクのシーンも交錯。結局、ラストシーンというものはなく、壁にしゃがみ込むロムの傍にフックがきて映像は終わっていく。

 

ベトナムの闇の社会を映し出す映像世界で、物語に起承転結もなく、ただただ殺伐とした現実を走り回る少年の姿で表現していく独創的とも言える演出が心に残る逸品でした。

 

デッドロック

行きつ戻りつのストーリーがどこか変な感じを受けてしまう作品で、イスラエルの砂漠で撮影されたドイツ映画。今までカルト映画として公開されていなかった一本を見る。監督はローランド・クリック。

 

ジュラルミンケースを持ってフラフラ歩く一人の男、左手に怪我を負って銃を持っている。そこへ一台のトラックが通る。乗っているのはこの鉱山デッドロックの監督官のダムで、ジュラルミンケースの中身が大金だとわかり、そばに倒れている男を殺そうとするが躊躇い、金だけ持って去る。しかし気を取り直し、やはり殺そうと戻ってみると、男は車に乗り込んでダムを脅す。男の名はキッドと言った。

 

ダムは、鉱山の飯場へ戻りキッドの傷を治してやる。ダムは元娼婦コリンナ、その娘ジェシーと暮らしていた。まもなくしてキッドの相棒で殺し屋のサンシャインがやってくるとキッドに言われたダムは列車を待ち伏せるが逆にキッドの元へ案内することになる。

 

サンシャインはダムをいびり、結局殺してしまう。サンシャインはキッドと金を山分けし、一人去ろうとする。ジェシーはキッドに気がありサンシャインが去る前夜体を合わせる。やがてサンシャインはキッドをここに残し、金を独り占めして一人去っていくが、かなり行ってからジュラルミンケースを確かめると中に何も入っていなかった。サンシャインは仕返しするために飯場へ戻ってきて、コリンナもジェシーも撃ち殺すが結局キッドに撃ち殺される。

 

こうして映画は終わっていきますが、ダムにしてもキッドにしても、サンシャインにしても戻らなければ上手く行ってたやろという展開が繰り返される変な脚本で、悪く言えばダラダラした物語です。これという驚くような演出も映像も見られない作品ですが、その奇妙さがこの映画の魅力なのかもしれません。

 

「狂ったバカンス」

カトリーヌ・スパークレトロスペクティブの一本。たわいのないバカンス映画ですが、どこか甘酸っぱい切なさと気だるいようなノスタルジーに浸った感じの面白い映画でした。青春を懐かしむと共に、老いた自分を知る主人公の姿は、なんか切ないものを感じてしまいました。監督はルチアーノ・サルチェ。

 

それなりに事業も順調で、プレイボーイでもある主人公のアントニオが、友人たちと野外演劇を見ている場面から映画は始まる。友人の恋人をさりげなく褒め、何気なく女慣れした姿を見せる主人公。寮に入っている息子に会うために車を走らせていたアントニオは、ふざけながら走っている2台の若者達の車に追い抜かれる。今時のと思いながらやり過ごしたアントニオだが、間も無くして、ガス欠で止まっている彼らの車を発見、アントニオの車を止めたキュートな女性に惹かれ、ガソリンを分けてやる。

 

あまりに無謀な彼らにお灸を据えようと警察を呼ぶも藪蛇になり、自分がガス欠になってスタンドまでたどり着いたところで若者達の食事代を払う羽目になる。その上、置いてきぼりになった一人を乗せて行ったところは彼らの海辺のコテージ。アントニオは、何故か最初に車を止めた女性が気になり、何かと若者達と遊び始める。彼女の名前はフランチェスカと言った。

 

悪ふざけで大騒ぎする若者達に混じって、若き日に戻らんばかりに一緒に騒ごうとするがどこかチグハグ。しかもフランチェスカにはいいように手玉に取られてしまう。そんなアントニオも、いつの間にか若者達に混ざって遊び始める。フランチェスカにはピエロというグループリーダーの男性が彼氏としていたが、アントニオは、フランチェスカにプロポーズし、さらにピエロに戦いを臨んで倒してしまう。

 

アントニオとフランチェスカは浜辺で愛を確かめようとするが、ふざけてきた他の若者達に囲まれ、煽てられるままにリーダーにされてしまう。夜が明けて、若者達は帰り支度をして去っていく。フランチェスカもピエロと抱き合って車へ。カメラは浜辺で眠るアントニオを捉える。一人取り残されたことを知り、車に戻り、バカをした自分を振り返りながら、息子の寮を目指し車を走らせて映画は終わる。

 

一夜の夢という形の作品で、アントニオが妄想を浮かべる様々なシーンはコミカルだし、極端に描かれた若者達の描写とアントニオの対比も面白い。そんな中で、キュートなフランチェスカの存在がキラキラする作品でした。