くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「親愛なる君へ」「明日に向かって笑え!」

「親愛なる君へ」

嫌いなゲイ映画でしたが、思いの外丁寧に組み立てられたストーリー構成と、静かに訴えかけてくるような力強い演技と演出に最後まで見入ってしまう作品でした。監督はチェン・ヨウチエ。

 

ジェンイーが留置所から法廷に向かう場面から映画は幕を開ける。場面が変わる。ジェンイーが料理を作っている。今日は正月、ヨウユーという少年が傍にやってくる。ヨウユーの父の弟である叔父さんのリーガンが来ていてヨウユーにお年玉をあげたりする。ヨウユーの祖母シウユーは、何かにつけ金の無心にくるリーガンに説教をしていた。リーガンの兄リーウェイは5年前に亡くなり、ジェンイーがシウユーとヨウユーの面倒を見ていた。ジェンイーとリーウェイはゲイカップルだった。

 

半年後、シウユーが亡くなる。駆けつけたリーガンはシウユーの死体を見、疑念を抱く。そして解剖の結果、違法薬物が見つかる。警察はジェンイーを疑い、捜査を進める。そして、ジェンイーが買った娼夫から、薬物をジェンイーが購入したことを突き止め逮捕状を取る。そんな頃、ジェンイーはヨウユーと山に来ていた。ジェンイーとリーウェイは付き合っていた頃から山登りが趣味だった。警察の手が迫る中、ジェンイーはヨウユー宛に何やら手紙らしいものをノートに書き、警察に捕まる。やがてジェンイーは、違法薬物を手に入れたこと、シウユーを殺害したことを自白する。

 

時間が遡る。シウユーは長年糖尿病で、最近は透析も必要な上に、足もその病気で痛みが酷かった。病院でも足の切断が必要だと言われていたが、処方される薬以外に勝手にネットなどで鎮痛剤を頼んだりしていた。そんなシウユーを献身的に世話をするジェンイー。ジェンイーはリーウェイを死なせたのは自分だと思っていた。かつて二人で山に登った時、ジェンイーはリーウェイの妻のブログでリーウェイが結婚したこと、子供ができたことを知った。そして嫉妬のあまりそのブログにリーウェイがゲイであることを書き込んだのだ。その告白の翌朝、姿の見えないリーウェイを探しに出たジェンイーは、リーウェイが高山病で倒れているのを発見する。それは、自殺だったのかもしれないが、まもなくしてリーウェイは死んでしまった。その罪の意識でジェンイーはシウユーとヨウユーの面倒を見ていたのだ。

 

痛みがひどくなるシウユーを見て、ジェンイーは付き合っている娼夫から強い鎮痛剤を手に入れる。年寄りには半錠までにするようにとアドバイスを受け、洗面所に保管していたが、ある夜、ジェンイーが寝ている間にシンユーはヨウユーを呼ぶ。目が見えなくなったシンユーはヨウユーにジェンイーが手に入れた薬を持ってくるように頼み、ヨンユーに頼んで3錠飲んだのだ。そして彼女は亡くなる。

 

法廷で自白したジェンイーがどこか腑に落ちないと検察官はヨウユーの家を訪れる。ジェンイーが逮捕されてから部屋にこもっていたヨウユーだったが、検察官が押収した証拠品の中に見つけたジェンイーからの手紙を渡す。そこには自分とヨウユーの父リーウェイとの関係や、リーウェイがなぜ死んだかが書かれていた。

 

部屋から出てきたヨウユーは検察官に、自分が薬を飲ませたと話す。そして数ヶ月後、勤め先のピアノ教室に戻ってきたジェンイーはヨウユーからの手紙を受け取る。そこには、かつてジェンイーが作曲した曲をヨウユーが弾いたCDが入っていた。途中までの曲だったので、後半はヨウユーが自ら歌詞と曲をつけていた。その歌詞には「また戻ってきてほしい」というような内容が書かれていた。こうして映画は終わります。

 

それぞれの人物にそれぞれの思惑を交錯させて描きながら、次第に全てが明らかになる終盤は胸が熱くなります。激しいシーンもセリフも排除して、淡々と静かに流れる物語ゆえに、心が打たれる。そんな力強さが伝わる秀作でした。

 

「明日に向かって笑え!」

面白いのですが、作り込みすぎた終盤がかえってテンポを狂わせたところが実にもったいない仕上がり。アルゼンチンという国柄ゆえに成立する物語ですが、それなりに楽しめました。監督はセバスティアン・ボレンステイン。

 

かつて穀物倉庫だった建物をフェルミンらが見ている場面から映画は始まる。これを買い取って農協を作ればいいのではないかと考えた彼らは早速資金集めを始める。時は2001年。この物語の登場人物を出資者として巡りながら紹介する導入部はなかなかよくできています。そして、資金も揃い、貸金庫に保管した上で、残金を銀行からの融資でと段取りをする。そんなフェルミンに銀行からの融資についての連絡が入り行ってみると、預金残高を見せた方が本部も融資決済を出しやすいと言われフェルミンは貸金庫のドルを預金として入金する。ところが翌日、政府の経済危機で預金封鎖となる。さらに、フェルミンが預金をした日、弁護士のマーシーと銀行の支店長が今回の混乱に乗じて、封鎖直前にペソで融資を起こしドルに両替したことがわかる。銀行と弁護士があらかじめ仕掛けたものだった。

 

それから数ヶ月して、たまたま一人の男がある病院に入院、その患者を訪ねてきたのがマーシーで、その話の中で、その男はマーシーの農地のど真ん中に巨大な穴を掘ってほしいと依頼されたことがわかる。フェルミンらは、それがマーシーの隠し地下金庫と判断し、確認する。しかし金庫に間違いないが厳重なセキュリティが施されていた。そこで、「おしゃれ泥棒」のアイデアをもらい、何度も警報を鳴らして、マーシーが予備電源を落とすように仕向ける。そして嵐を待って、落雷の停電と見せかけて主電源を落とし金庫を開ける計画を立てる。

 

やがて決行日、変電所の一部を破壊するはずが変電所全部を破壊することになったものの金庫の電源は落とされる。そしてまんまと金庫を破壊して金を取り戻したフェルミンらは、駆けつけたマーシーの裏をかいて計画は大成功。やがて農協も作られて当初通り大団円。

 

とはいえ、終盤の変電所爆破はやりすぎに思えるし、あれだけ厳重なのに金庫は最も簡単に溶接で溶かされ開く。さらに、いくらアルゼンチンだからといって変電所爆破はあのままでは済まないだろうにと思うし、フェルミンの妻が前半で事故で命を奪うのもちょっとやりすぎに見える。フェルミンの息子ロベルトとマーシーの秘書にエピソードも結局ラストで消えてしまうなら挿入する意味がなかった気もする。さらに、奪った金をそのまま持ち逃げしたグループの存在も映画を妙に濁ったものにした感じで爽快感を失ってしまった。練りに練ったストーリーなのですが、作り込みすぎたという感じが実にもったいないなと思う作品でした。