くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ジュゼップ 戦場の画家」「喜劇 特出しヒモ天国」

「ジィゼップ戦場の画家」

非常に面白いアニメなのですが、いかんせん静止画を繰り返す動きの流れと、断片的に見えるストーリー展開が、わずか70分余りなのに長く感じてしまいました。アニメーションというより静止画映画という感じで、収容所の場面、孫に語り聞かせる場面、ラストのメキシコの馬面と絵を描き分けているように見えますが、全体が非常に暗く、物語と相まって、ちょっと受け入れにくい作品でした。監督は風刺画家のオーレル。

 

一人の今時の青年が両親と祖父のいる家にやって来るところから映画は始まる。両親が外出し、孫が一人でベッドに横たわる老人のそばにいたが、突然老人が起き上がり、孫の書いた絵を見ながら、そして壁にかけてる男の絵を見ながら、過去を語り始める。

 

スペインがフランコ独裁政権で圧政がつづく中、大勢のスペイン人がフランスへ逃げてくる。彼らは収容所に収監されるがそこでの生活は過酷を極め、フランス人ら憲兵の横暴が横行していた。一人のスペイン人ジュゼップはそこで過酷な毎日を暮らしていたが、一人の新人の憲兵セルジュは、そんな彼らを人として扱うようになる。そして、ジュゼップに紙と鉛筆を与えてやる。二人は次第に親しくなる。

 

映画は収容所での悪徳憲兵二人とスペイン人らの毎日を中心に、ジュゼップが体験する出来事を綴っていく。彼にはマリアという婚約者がいるというので、セルジュは一人探しに行く。そして、半身麻痺のように横たわる女性を発見、その女性は船上にいるのでジュゼップを連れていくが、ふとした隙にジュゼップは逃亡し、海に飛び込む。そこまで話したところで、孫に語っている老人がセルジュだと語る。

 

ドイツの参戦で、戦況は変わり、終戦ののち、セルジュはメキシコでジュゼップと再会。こうして物語は終わっていくが、ストーリーの連続性がうまく見えないために、最初は混乱してしまった。やがて老人の話は終わり、セルジュが収容所でジュゼップにもらった男の絵を孫がもらって帰る。時を移して、ジュゼップの個展が開かれていて、訪れた孫は、祖父に貰った絵を勝手にかけて出ていき映画は終わっていく。

 

ストーリーテリングに若干難のある作品で、静止画を繰り返すアニメーションとしての出来栄えはそれほど秀でたように思えないけれど、これがオリジナリティだと言われればそれまで。やたら長く感じたのはどこかに無理があるのだろうし、第二次大戦下のスペインの歴史にも疎いので、もう一度ゆっくり見たらもっといいところが見えてくるかも知れません。

 

「喜劇特出しヒモ天国」

これは傑作でした。ストリッパーたちと彼女を取り巻くヒモ男連中を中心に入り乱れる人間模様の群像劇ですが、バイタリティあふれる展開と映像、背後に流れる住職の諸行無常の説教話や歌謡曲の効果も見事。決して高級品の映画ではないけれども、泥臭い庶民を描いた素晴らしい一本でした。監督は森崎東

 

京都のストリップ劇場から映画は幕を開けます。この日、車のローンが未回収だからとディーラーの松下=山城新伍がやってくるところから映画は始まる。そして座長にいいようにあしらわれて気がつくとストリップ劇場の支配人になっている。そんな時、刑事で侵入していた大西=川谷拓三の捜査で、特出しが見つかって公然猥褻でストリッパーが逮捕される。ステージを空けられないからと、ストリッパーを探していて、座組みの古参の善さんが見つけてきたのが、乞食のようなアル中の女ヨーコ。みるみる人気が出て、小屋は盛り返す。

 

そのほか、おかまのストリッパーサリーを恋人義一=川地民夫が訪ねてきて、大騒ぎの末、義一もサリーのヒモになるし、松下もジーンというストリッパーのヒモになる。子供を作りたいからと聾唖者夫婦の女性がストリッパー志願してきたり、大西も刑事を首になり、ストリッパーのヒモになる。こうして、二転三転の人間ドラマがところ狭しと展開して行く様は圧倒されます。このあとそれぞれの男と女の愛憎劇が泥臭く描かれていきます。

 

南国へ巡業に行ったところが、小屋が火事になり、座員の一部が死んでしまう。やがて京都へ戻ってきた座組は、今日も華やかなステージ。ところが潜入していた刑事に摘発され、ストリッパー全員逮捕されてしまう。その上、隠れていた松下は、女を取られた大西に刺されるし、大騒ぎ。松下が病院のベッドにいると、かつてヒモだったジーンが訪ねてくるが、松下がローズの名前を出したので愛想をつかし出ていく。そこへ聾唖者夫婦の旦那が来て、妻が出産するのだという。赤ん坊の声が大丈夫か心配する夫に赤ん坊の鳴き声が聞こえる。冒頭から何度も出てくる、老婆を集めての説教をする住職のアップ、逮捕されて搬送されるストリッパーたちの顔で映画は終わります。

 

いやあ、面白かった。ラストは拍手したくなりました。群像喜劇の傑作ですね。しかも、あんな俳優があんな役を演じている。というのがいっぱいあって、役者層の厚さを改めて実感してしまいました。