くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「子供はわかってあげない」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」「うみべの女の子」

子供はわかってあげない

めちゃくちゃ良かった。映画全体がクスクス笑っているのに、いつの間にか胸がキュンとなってきて、父の娘への想い、何気ない一夏の初恋、清々しいほどの青春ドラマ、そして、平穏な家族の幸福が画面全体に散りばめられています。沖田修一監督の真骨頂を見たという感じです。本当によかった。

 

いきなり始まるアニメ、なんかコテコというヒロインが、父を訪ねてきた子供達との物語を線路脇の屋台で話す。どうやらセメントとかコンクリートとかをネタにしたドラマみたいですが、カメラが変わるとこのアニメが大好きな一人の女子高生美波の姿になる。そこへフレームインしてくるのが同じくアニメ好きな父。二人で一緒にエンディングテーマを踊り、涙している。そこへ、風呂上がりの裸ん坊の弟がパンツ一丁で飛び込んでくる。母は寿司飯を扇いでいる。さりげないオープニングをカメラは奥行きのあり縦の構図で延々と撮る。そしてみんなは部屋の奥に消えて誰もいない室が映る。この出だしにまず引き込まれる。

 

美波は水泳部の高校二年、この日も練習が終わってふと見上げると、校舎の屋上で、大好きなコテコを描いている男子を見つける。思わず走り出す美波は、屋上で筆でコテコを描いているもじくんと出会う。アニメ好き同士意気投合し、美波はもじくんの家を訪ねる。もじくんの家は書道家の大家で、大きな家、その座敷で待っていた美波は片隅にあるお札を入れた箱を見つける。そのお札は、美波が先日実の父親から送られたものと同じだった。美波の実父は三歳の時に出て行っていた。

 

そのお札はある新興宗教の教祖の札で、もじくんの父が代筆していた。美波はもじくんと相談する中もじくんも兄でかつて探偵をしていた明大に頼んで父を探してもらうことにする。明大は、ゲイで、家を追い出され古本屋の二階にいた。明大は仕事を引き受けると、まもなくして居場所を見つける。そんな頃、夏の水泳大会で、美波らの学校は予選敗退となる。

 

美波の実父友充は、新興宗教の教祖だった。美波は、夏合宿の日程をごまかして友充に会いにいくことにする。明大に連れて行かれた浜辺の町で、美波は人の頭の中が見えるといういかにも胡散臭い友充に会うが、今は教祖を休んでいるのだという。友充は、美波を歓迎すると共に、少しでも美波が気にいるようにと、テレビをさりげなく買ってきたり、好きなものをおかずにしたりし始める。近所の小学生仁子がよく遊びにきていて美波と仲良くなる。

 

いつまでも合宿に合流しない美波を心配すり親友のミヤジは、美波のことが心配になる。ある時全く携帯が繋がらなくなり慌てたミヤジはもじくんに相談、もじくんは明大のところに行くが彼は山登りで留守だった。古本屋の主人が友充のことをネットで探し、もじくんは一人友充の所へ。

 

友充は、美波を迎えにきたもじくんを、美波を連れて行かれるという父親心でベロベロに酔わせるが、それが二人の仲を繋いでいく。この流れが実に微笑ましい。一方、美波は仁子に泳ぎを教えていたが、友充も、教えて欲しいと美波に接触。美波は頭の中を見る方法を教えてもらう見返りに友充の申し出を受ける。実は友充は、娘ともっと一緒にいたいのである。しかし、友充の力はすでにほとんどなかった。

 

まもなくして合宿も終わりにの日程になり、美波はもじくんと帰ることになる。名残惜しく見送る友充。皆が帰り、友充は家に入り、しばらく誰も人のないショットが映される。このシーンが冒頭同様に実に上手い。

 

学校に戻った美波は、母に呼ばれ、何もかも話す。学校のクラブの後、屋上を見上げるとそこにまたもじくんがいた。美波は屋上へ駆け上がり必死で、笑いを堪える。彼女は緊張すると笑いが止まらなくなるのだ。泳いでいる時も、予選落ちした時も何故か笑っていた。そんな美波の目をもじくんが塞いでやると、美波はやっと「もじくんが好き」と言う。そしてもじくんも美波のことが好きだと答える。友充はというと仁子と海で泳いでいる。こうして映画は終わる。

 

テンポの面白さ、誰もいない画面を有効に使う演出、クスクス笑いが絶えない小ネタを散りばめた展開。そして、父の気持ちや、家族の話、一夏の恋の物語が実に清々しいほどに微笑ましい。とっても素敵な物語、そんな言葉がぴったりの一本でした。

 

ストレンジャー・ザン・パラダイス

シーンごとに暗転を繰り返すリズム作りと、ラストのウィット溢れたエンディングに、そのオリジナリティの面白さを堪能できる作品でした。さすがジム・ジャームッシュ監督の代表作。

 

一人の女性エヴァが飛行機を見上げている。カットが変わり、ニューヨークの住むウィリーのところに叔母から電話が入る。従兄弟のエヴァブダペストから訪ねてくるからよろしくということ。めんどくさく思いながらやってきたエヴァを迎える。ウィリーの友人エディも彼女を見かけて、一眼で好きになってしまう。やがて、エヴァクリーブランドの叔母の家に帰る。

 

ウィリーとエディは、いかさまカードで金を手に入れ、エヴァに会いにいくことにする。そしてクリーブランドにやってきてエヴァと再会するが、クリーブランドでは退屈で仕方なく、ウィリーたちは車で帰ろうとするが引き返してエヴァを乗せフロリダへ向かう。

 

フロリダのモーテルで、バカンスを楽しむつもりがドッグレースで文無しになったウィリーたちは、再度残りの金を競馬にかけるため出ていく。呆れたエヴァは、一人散歩に出て、人違いに遭い、なぜか大金をもらう。エヴァは部屋に少しの金と書き置きをして一人空港へ。そこへ競馬で儲けたウィリーたちが戻ってくる。慌てて空港へ行くがエヴァはすでに飛行機に乗ったらしいとわかる。ウィリーは自分だけ切符を買ってエヴァを連れ戻そうと飛行機へ向かう。それを待っていたエディだが、まんまと騙されたと知り、一人車で帰る。ウィリーは飛行機に乗って行ってしまう。カットが変わると、飛行機に乗るのをやめてモーテルに戻ってきたエヴァのシーン。こうして映画は終わる。

 

シーンとシーンの間の暗転で観客に見えない場面を想像させながら淡々と展開していくシンプルな物語が独特のリズムを生み出していく。オリジナリティあふれる一本で、なかなか面白い作品でした。

 

「うみべの女の子」

もっと気楽な軽い映画かと思っていたら、ものすごく重たい暗い映画でした。もうちょっと焦点を定めて、思い切って削ぎ落としたらもっといい映画になったろうに、方向性が全然わからないままにエピソードが繰り返されて、ものすごく長く感じてしまった。明らかに脚本の弱さです。監督はウエダアツシ

 

田舎町の港町の浜辺、一人の中学生小梅の独り言から映画は始まる。思いを寄せていた三崎先輩に振られ、自暴自棄に、好きでもない磯辺という同級生に迫っていく。そして、流れのままにSEXをする。何かにつけて磯辺と体を合わせる小梅だが、いつのまにか磯辺に恋心を抱いていることに気がつく。しかし、磯辺にはそんな気は全くなかった。磯辺には1年ほど前にいじめが原因で自殺した兄がいた。兄への思いが、磯辺に悪夢や傘をさして立つ亡霊のようなものを見せていた。

 

関係を繰り返す小梅と磯辺だが、磯辺が海岸で見つけたSDカードに知らない女の子の画像が入っていて、磯部が大事にしていることに小梅が嫉妬してしまう。そして、磯辺が寝ている隙に、パソコンから画像を全て削除する。それからしばらくして、磯部はどこか小梅に冷たくなっていた。そんな磯辺にさらに思いを募らせていく小梅。

 

小梅には幼馴染の鹿島がいた。鹿島は野球部で、部は県大会出場が決まっていたが、磯辺が小梅と付き合っているらしいことを知り、問い詰めていく。しかし磯辺の反応にキレた鹿島は磯辺と取っ組み合い、階段から落ちて骨折してしまう。小梅の親友の桂子は鹿島のことが好きだった。

 

兄への贖罪に苦しむ磯辺は、ある夜、夜遊び帰りの三崎を待ち伏せてリンチに合わせる。その日は学校の文化祭で、ちょうど台風も直撃してきた。小梅は、なかなか返事の来ない磯辺に手書きの手紙を書き、CDをプレゼントしようと学校で待つが磯部が来ないので、雨の中磯辺を探しに出る。そんな頃磯辺は、喫茶店に入り濡れた体を乾かし、天気も良くなったので店を出ると、なんとそこに、かつてSDカードに入っていた女の子を見つける。そして磯辺はその子のいる学校を目指すことにする。後日、小梅は磯辺に、SDカードの女の子に会ったこと、高校受験を目指すことを聞かされる。しかし、学校の帰り、磯辺は警察に捕まってしまう。

 

時がたち、小梅は高校に入り、大津という彼氏もできていた。鹿島は相変わらず小梅と友達で、野球部のマネージャーで楽しいと告げる。浜辺、かつては浜に落ちているさまざまを見つけるのが好きだった小梅が今は女子高生となっていた。そして海に入り、大声で叫んで映画は終わる。

 

結局、何を描かんとしたかが散漫となってしまった感じで、やたらSEXシーンの続く前半から中盤のいじめからの暗部の話、そして、なんの解決もなく仕上がるラストと、どうも今ひとつできあがらない映画でした。