くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヒルコ 妖怪ハンター」「ラブ・レター」「クリーン、シェーブン」

ヒルコ 妖怪ハンター」(デジタルリマスター版)

少々荒っぽいものの、相当に面白かった。テンポがいいし、話がシンプルだし、しかも閉鎖空間というホラーの常道をしっかり踏襲している。妖怪ヒルコが廊下を駆け抜けてくるスピード感も最高。楽しい一本でした。監督は塚本晋也

 

考古学の稗田教授が遺跡発掘をしている。カットが変わると一人の少女月島が颯爽と自転車に乗っている。そして洞窟を進む八部先生、そこへやってくる月島、やがて二人の前に何者かが現れ、二人は何かに引きずられる。

 

かつて有名を馳せていた稗田教授は、その突拍子もない説で、今は干されていた。アパートに帰ってみると一通の手紙を見つける。それは友人の八部先生からだった。稗田教授は妖怪ハンターグッズを持って、八部の元へ向かう。一方、月島の同級生で月島を慕う八部の息子まさおは友人と学校に来ていたが、渡辺という用務員に追い返される。まさおの元にやってきた稗田は、八部と月島が行方不明だと知り早速学校へ向かう。そこで、次々とまさおの友達が凄惨な死を遂げていく。そして、何やら不気味なものが迫って来るのを知る。

 

稗田とまさおは八部の机から、学校の敷地内にあるという石室を探すことになる。その石室は妖怪ヒルコを閉じ込めるためのものだったらしい。次々と蜘蛛に人間の顔がついた化け物ヒルコが迫る。二人は渡辺から、60年前の出来事を教えられる。学校が火事になった時、一人の少年が三本の角を生やし、大声で何かを叫びと火事が収まったという。その時の少年がまさおの祖父だった。まさおの背中にも人間の顔が浮かび上がってきていた。そして、三本の角というのは八部の家に伝わる兜で、それを持ち出した八部先生を見つける必要があることを知る。

 

学校内の石室を開く呪文と閉じる呪文を見つけたものの肝心の石室が見つからない。しかし、ふとしたことから、学校自体が巨大な古墳の上に立っていて、石室はその用具倉庫の場所だと発見する。そして、洞窟を進み石室にたどり着いた稗田らは呪文で中を開き、八部が持ち込んだ兜を回収し、石室を閉じ脱出するが、最後のヒルコが彼らに襲いかかる。危機一髪で、まさおは兜を被り呪文を唱え、石室を開いてヒルコらを炎で燃やして再度石室を閉じる。無事脱出した二人は、学校内の池から、月島らの影が天に向かっていくのを見つめる。仕事を終え帰る稗田をまさおが見送り映画は終わる。

 

とにかく、テンポが良くて楽しい。ストップモーションアニメのヒルコの造形も面白いし、次々と前に進むシンプルな展開にどんどん引き込まれました。

 

「ラブ・レター」

これは良かった。一見、社会問題をテーマにしたドラマに見えるオープニングからどんどん素朴な人間ドラマに変わっていく様がとっても良い。クライマックスは素直に涙が溢れてきてしまいました。監督は森崎東

 

東南アジアや中国からの移民船のニュースから映画は幕を開ける。雑多な民族が住む安アパートで暮らす吾郎は、この日、別れた妻の娘と過ごすことになっていて、勤め先の社長に車を借りようといそいそ出かける。勤め先といっても、難民を風俗や水商売に斡旋する人材派遣会社で、事務所に行くと、穴吹という、刑事上りで、外人の女を斡旋している男を紹介され、ある女と偽装結婚してほしいと頼まれる。慌てていた吾郎は返事も適当に娘のところへ行くが、娘は今後実父に会わないと決めたといってドタキャンする。

 

面白くもなく戻ってきた吾郎は、店番をしているアダルトビデオの店にいると穴吹がやってくる。吾朗は何気なく印を押し大金を手に入れる。穴吹の言われるままに中国人の不法移民白蘭を紹介される。間も無くして、一人の女が現れダイヤのノルマがあるからと買わされるが、それは偽ダイヤだった。吾郎は白蘭の勤め先に出向き、その偽ダイヤの指輪を彼女にプレゼントする。

 

間も無くして、吾郎は刑事に逮捕される。刑事は不法移民のことを聞くつもりだったが、吾郎は喋らず釈放される。ところが釈放された途端、白蘭が肝硬変で急死したことを知らされ、さらに遺体を引き取りに行く羽目となる。吾郎は弟分のサトシと、場末の田舎の売春斡旋する店のある街へ行く。そこで遺体を引き取るが誰も来ない。帰りに白蘭が勤めていた店により、そこで吾郎宛の手紙を読む。白蘭は吾郎に感謝していて、もらったダイヤの指輪を大切にしていたと書かれていた。事務的に処理する店の女将ミサオに当たり散らした吾郎は、白蘭の最後の頼みである、吾郎と同じ墓に埋めてほしいという望みを叶えるために遺骨を持って自分の故郷のオホーツクへ行く決心をする。サトシと別れ北海道へ向かう吾郎。そして、久しく会っていなかった兄に出迎えられて映画は終わっていく。

 

正義感のようにミサオに当たり散らす吾郎に、不法移民してくる人たちの現実を浴びせかける口喧嘩シーンも圧巻だし、柔な理想主義を表立って描写しようとしない辛辣さも好感な一本で、そこに描かれるあまりに悲しい人間ドラマに涙せずにはいられません。本当にいい映画でした。

 

「クリーン、シェーブン」

落ち着いた色彩で、淡々と描く一人の精神異常者の物語という雰囲気の一本で、決して秀逸な作品ではないが、内容の割に奇妙な上品さが窺われる作品でした。監督はロッジ・ケリガン

 

頭に受信機が指先に送信機が埋め込まれていると信じている一人の精神分裂症の男ピーターが、母の暮らす家に帰ってくる。来る日も来る日も部屋から出ない息子に、母は外に出た方が良いと忠告する。彼の妻は亡くなっていて、壊れていく息子のそばに置けないからと娘のニコールは養子に出されていた。

 

そんな頃、この地域に少女を殺戮する事件が起こり、刑事が捜査を始める。当然、ピーターも疑われ、彼の周辺の聞き込みをはじめる。ピーターは母の忠告通り外に出ることにしたが、常に雑音のようなものが頭に入って来るので、車のガラスやバックミラーに新聞紙を被せた。そしてニコールの居場所を突き止めようと探すが、役所では教えてもらえず、自分で図書館で手がかりを探し始める。異常なくらいの行動に周囲も彼のことを不信人物のように見る。

 

ようやくニコールの住まいを突き止めたピーターは彼女を連れ出し、彼女が行きたいというビーチに連れて行き、自分の頭には受信機が埋められていると告白する。そんなピーターを刑事が追っていた。そして、二人を見つけた刑事は、ピーターがニコールを殺したと勘違いし、銃を向ける。慌ててショットガンを取り出したピーターに刑事は発砲、ピーターは死んでしまう。

 

バーで一人飲む刑事だが、どうもスッキリしない。一方、ニコールは、港の漁船の無線で父親に話しかけていた。こうして映画は終わる。結局、殺人事件の犯人探しの話ではないので、その結末は描かれず、ピーターという精神異常者だが、娘への純粋な思いだけが募る様子を描いていくだけにとどめる。淡々とした展開と、異常な行動を繰り返すピーターの姿が独特の空気を生み出す作品で、カルト映画というよりレアな作品というイメージでした。