くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アナザーラウンド」「くじらびと」

「アナザーラウンド」

もっとコミカルな軽い映画かと思っていましたが、思いの外深みのある人間ドラマに仕上がっていました。いい映画ですが、アカデミー賞国際長編映画賞受賞ということですが、そこまでかなとは思いました。監督はトマス・ビンターベア。

 

湖の周りをビールを飲みながら回って競争するイベントに若者たちが大騒ぎしている場面から映画は始まり、そのまま暗転してタイトル。真面目で冴えない高校教師のマーティンの授業から物語は始まる。生徒の親が集まって、マーティンの授業がわかりにくいという子供達の声をマーティンに伝えにくる。卒業試験を控えた生徒たちは皆不安だった。家に帰れば妻のアニカは夜勤ばかりで夫婦の会話もない。この日、同僚で友人のニコライの誕生パーティーにマーティンは出かける。集まったのは同僚で同じく友人のトミー、ピーター。

 

彼らは、ノルウェー人の哲学者が提唱した、血中アルコール濃度を一定にした方が仕事と想像力が豊かになるという理論を試すため、授業前に酒を飲んでみることにする。最初は0.05%から始めるが、授業の空気が一変したマーティンの講義に生徒たちは嬉々とし始める。少年サッカーのコーチをしているトミーも、日頃目立たない引っ込み思案の少年を勇気付けることに成功する。ピーターたちもプラスに作用したことを実感。マーティンは疎遠だった家族との絆も取り戻しかける。

 

気を良くした四人はさらに濃度を上げ、次のステップの実験をする。思うように好転していくのを見たものの、度を越してはいけないとマーティンはこの辺でやめようと決意するが、ピーターたちは、限界を試そうと自宅で集まり度数の高い酒を飲み、マーティンも交えてバーに繰り出して大騒ぎをしてしまう。翌朝、マーティンは思わずアニカに不満をぶつけ追い出してしまう。ニコライも家族とギクシャクしてしまう。

 

反省した彼らは、しらふで職員会議に参加していたが、トミーが酔っ払ったまま遅れてやってくる。マーティンが彼の家に行くと酒瓶が氾濫していた。マーティンは後片付けをし、もう酒を飲まないようにとトミーに告げる。トミーはマーティンとアニカのことは応援しているからと送り出す。

 

やがて卒業試験、ピーターやマーティン、ニコライらが教える生徒たちは無事卒業を決める。そんな頃、トミーは一人愛犬と船に乗り海に出て帰らぬ人となった。マーティンたちはトミーの葬儀を送り出して、感慨に耽りながら飲んでいると、マーティンの携帯にアニカから、また会いたいとメールが来る。ニコライの家族も落ち着いてきた旨話す。外に卒業生たちが大勢乗ったトラックがやってくる。港で彼らが騒ぎ出すのに便乗するマーティンたちはやがて一緒になって大騒ぎし映画は終わる。

 

コメディかと思って見ていたが、次第に四人の教師たちの人間ドラマ、家族のドラマへと昇華していく流れが実にうまい。アカデミー賞で評価されるほどの傑作とまでは思いませんがいい映画でした。

 

「くじらびと」

クライマックスの鯨を捕獲する場面の迫力を見るだけでもこの映画を見た値打ちがあるというものです。壊される船から乗り移り、銛を刺された鯨の血が海に広がり真っ赤になっていく臨場感、スピード感、そしてドローンを多用したダイナミックな空撮と村人を正面から捉える静止画の対照的な動き、映像がうねっていく。ドキュメンタリーながら、ドラマティックな物語を感じてしまいました。監督は石川梵。

 

インドネシアのラマレラ村で400年以上伝統的に受け継がれる鯨漁。浜に打ち上げられた鯨のアップから映像が始まり、この村での捕鯨漁、それを担うラマファと呼ばれる銛打ちの姿を前半は描いていきます。そしてラマファの一人ベンジャミンが事故で亡くなり、舟造名人の父イグナシウスは新たな船を建造する一年後へ物語は進んでいく。

 

そして新造船を交えての久しぶりの鯨漁。発見した鯨に襲いかかる村人たちの船、それを船上から、水面下から、空から捉えるカメラが素晴らしい。鯨の突き立てられた銛により血が水面に広がっていく様、真っ赤に染まる中で反撃する鯨の姿、そして力尽き、鯨は村へ引かれていく。

 

村人たちが鯨を引き上げ、みんなで解体し、それぞれ決められた配分で分けられていく。一つの漁が終わり、静かになった浜辺の場面、そして打ち上げられた鯨をドローンカメラがどんどん上昇していって映画は終わる。

 

ドキュメンタリーですが、物語性もしっかり表現され、しかも、長期間にわたって撮り続けているそのリアリティに圧倒されます。まさに力作、そんな言葉が当てはまる一本でした。