くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「偶然と想像」「私はいったい、何と闘っているのか」

「偶然と想像」

淡々と演劇の本読みのように繰り返す台詞の応酬と、まるで舞台を見ているような長回しとフレームを意識した演出、その中で繰り広げられる偶然が生み出すドラマですが、決して奇抜さを狙ったものではない。その空気感が非常に知的な雰囲気を醸し出してくる。リアリティではないリアリティ、三本のオムニバスに引き込まれていく作品でした。好みでは一本目の「魔法(よりもっと不確か)」が大好きです。古川琴音の抜群の演技力を堪能しました。監督は濱口竜介

 

魔法(よりもっと不確か)

モデルをしている芽衣子が仕事で写真を撮っているところから映画は始まる。親友でヘアメイクのつぐみとタクシーで帰る中、つぐみが先日会った一人に男性と意気投合した話を延々とする。カメラはタクシーの中の二人を長回しで捉え、セリフが途切れることはなく、ほとんどカットが変わらない。このオープニングの掛け合いに引き込まれます。つぐみはその男性は元カノのことが忘れられないこと、仕事のことなどを話す。

 

やがてつぐみは自宅の前で降り、芽衣子はそのままタクシーを走らすが突然引き返してほしいという。そして、彼女はある会社のオフィスへ入っていく。残業していた社長らしい男性の所にずかずかと進んでいく。その男性は芽衣子の元カレで、つぐみが話していた男性その人だった。芽衣子はその男性をカズと呼び、さっきまでつぐみと話していたことを延々と話す。ここの長台詞シーンも圧巻で、しかも、画面のフレームの人物の配置が演劇的なのである。

 

芽衣子はカズに悪態をつく一方で、実は好きなのだと暗に伝えていく。そして二人は抱きしめ合うが、そこへ先に帰らせた女性従業員が忘れ物を取りに戻ってくる。芽衣子は飛び出すがカズは後を追おうとして従業員の女性に止められる。そして三日後。

 

芽衣子はつぐみとお茶をしている。つぐみはウキウキしている。今夜、先日の彼と会うのだという。ところが窓の外をカズが通りかかる。つぐみに誘われ、店内に入ってくるカズ。そして芽衣子はカズの名前を呼び、二人のうちどちらを選ぶのか問い詰める。いたたまれなくなったつぐみが出ていき、顔を覆って芽衣子が泣く。そしてカメラが寄って再度引くと、知らぬふりをしている芽衣子。そしてそっとその場を立ち去り、芽衣子が窓からつぐみとカズを見送って映画は終わる。

 

とにかく、長台詞のシーンが見事な作品で、たわいない三角関係をたわいなく終わらせる展開が面白い作品でした。

 

扉は開けたままで

大学のゼミ室から映画は幕を開ける。向かいの教授室に一人の学生が土下座をしている。どうやら落第を堪えてほしいと訴えているが、瀬川教授は受け入れない。彼の部屋はあらぬ疑いを避けるために常に扉が開いたままだった。そして五ヶ月後。

 

土下座していた学生佐々木のところにセフレの奈緒がやって来てSEXする。テレビでは瀬川教授が芥川賞を取ったニュースが流れてた。佐々木は自分を落第させた瀬川を逆恨みし、奈緒にハニートラップに協力してくれと頼む。

 

渋々受けた奈緒は瀬川教授の部屋に行く。そして、瀬川教授の本の一番エロティックな部分を朗読し、瀬川をその気にさせようとするが、扉は開かれたままで一向に瀬川はその気にならない。耐えられなくなった奈緒は真実を告白し、これまでのことを録音していたと瀬川に言う。瀬川は奈緒の声に惚れ込み、朗読した声のデータが欲しいと言う。そして大学のドメインのメールに送ってほしいと頼む。

 

奈緒は自宅のパソコンから瀬川にデータを送ろうとしていたがそこへ幼い娘が帰ってくる。さらに夫も戻って来て、慌てて送信ボタンを押す。彼女は家庭のある女性だった。そして5年が経つ。

 

奈緒が通勤帰りのバスに乗っているとスーツ姿の佐々木が声をかけてくる。出版社の編集長になっているのだと言う。そんな佐々木に、奈緒はろくに文学も知らずにと詰め寄るが、無責任そのままの発言をしてはぐらかす佐々木。瀬川に送ったはずのメールが誤送信してしまい、瀬川は大学を辞め、奈緒も離婚していた。校正の仕事をしていると言う奈緒に佐々木は名刺を求めるが奈緒は応じない。佐々木は近々結婚すると言う。馴れ馴れしい佐々木に、奈緒は名刺を渡して、キスをして突き放すようにバスを降りる。こうして物語は終わります。

 

佐々木の存在が鼻につくので好きな物語ではありませんが、瀬川を演じた渋川晴彦と奈緒役の森郁月との教授室での延々とした長台詞シーンが素晴らしい。お互いの間が全く変化せずに物語が前に進んでいく緊張感が見事でした。

 

もう一度

女子校の同窓会、夏子は、目当ての友達の姿を見かけずポツンとしている。一人の同級生が声をかけてくるが、盛り上がらずに会を後にする。

 

後日、エスカレーターに乗っていて逆方向に降りていく女性に気がつく。彼女が高校時代に親しくしていた友達に似ていると思い、相手もその雰囲気に夏子に声をかける。その女性あやは、夏子を自宅に招くが、実はあやは夏子のことを知らないと言う。そして話をしてみると、知っているのではないかと言う仕草が偶然お互いに一致し知り合いだと勘違いしたらしいことがわかる。

 

夏子が勘違いした女性は、高校時代のパートナー、つまり夏子はレズだった。あやは、それなら自分がその友達のふりをするから、20年ぶりの再会を想像して話しかけてみてはと言う。そして想像の中で夏子はあやに思いの丈を話し、あやも夏子のパートナーのつもりで受け答えする。やがて、あやの息子が帰って来たので、夏子は帰ることにする。駅まで送るとあやも夏子と共に歩く。そしてエスカレーターのところに来て一旦別れるが、あやは夏子を追いかけ、今度は夏子にあやの友達になって、エスカレーターで偶然あったことにしようと言い出す。そして今度はあやが夏子に、かつての友達への思いの丈を話す。そして、お互い20年間の思いを語り終え、最後に抱き合って別れる。

 

偶然が偶然を呼ぶ不思議なワンシチュエーション作品で、前ニ作同様淡々と繰り返す台詞回しが独特の空気感を生み出します。こう言うことは日常あるような気がするが起こらない。そのリアリティと非リアリティの狭間の世界が面白い作品でした。

 

「私はいったい、何と闘っているのか」

いいお話なのですが、ちょっとエピソードの配分が悪い。90分くらいにまとめるようにしたら、前半のテンポ良さがクライマックスの感動へ一気に持って行けたと思います。愚痴と独り言ばかりで流れる前半から終盤近くまでが、次第に耳障りになってくる上に、その時間が長すぎて、ぽんぽんと流れるコミカルシーンや、個性的な登場人物の面白さが全部吹っ飛んでしまいました。残念な一本です。監督は李闘士男

 

スーパーの主任を務めるベテランの伊沢春男は、この日も、休みに息子の草野球の試合に流しソーメンのセットを作ってウケ狙いをしようとしていた。ところがボールが飛んできてセットは壊れ、そこへ店で誤発注したソーメンの処分に上田店長が伊沢を呼べと指令が降り連絡が来る。伊沢は休み返上で店に行き、見事処理するが、その夜、上田店長が急死する。てっきり店員たちにもウケがいい伊沢が次期店長と思われたがやって来たのは若い出来の悪い新任店長だった。

 

家では愛妻律子や、長女小梅、次女香菜子、長男亮太が慰めてくれる。まさに良い子、良い妻、幸せ家庭であるが、小梅と香菜子は律子の連れ子だった。まもなくして小梅は彼氏を連れてきて結婚が決まる。物語は、何をやっても良い方向に進んでいかない伊沢春男の奮闘する姿を愚痴と独り言で延々と描いていく。この描写がだんだんうざくなってきて、見ている自分達が情けなくなって来る。

 

スーパーでは、品物を無料で処分している事件が起こったり、新店舗への店長話が持ち上がったりと展開していくが、どのエピソードもちょっとしつこい。そんな時、小梅たちの実父から沖縄に来ないかという航空券が届いているのを春男は見つける。小梅と香菜子は律子の実家に行くためにその航空券を使おうとするが、春男も一緒に沖縄に行くことにする。金城正夫という律子の元カレに会いたいと思ったからだが、結局一日中探しても見つからなかった。

 

小梅と香菜子が遊び疲れ、春男と帰るのにタクシーに乗り込むが、なんとそのタクシーの運転手が金城正夫だった。春男は巧みに小梅たちのことを話し、先に小梅たちを下ろした車内で、東京へ帰る飛行機の便を教える。しかし、金城正夫は来なかった。東京へ戻り、いつもの生活が始まる中、春男は新しい店で主任として赴任、こうして映画は終わる。

 

ラスト数十分ほどが見事なのですがそこへ行くまでの小ネタやエピソードの配分が本当にチグハグで、おそらく意図しているようにできていないと思う仕上がりでした。良い作品になる一歩手前の一本で、残念な作品でした。