くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ローラとふたりの兄」「成れの果て」

「ローラとふたりの兄」

始まった途端、またいつものような平凡なフランスコメディかと思いきや、どんどん胸に伝わって来るものが感じられてラストはほのぼのと感動してしまいました。小品ですがなかなか良かったです。監督はジャン=ポール・ループ。

 

ビルの解体作業をしているピエールが相棒のロミオと作業をしている場面から映画は幕を開けます。無事ビルは解体されたものの近くの建物に亀裂が入っていることに気が付き、それが深刻なものだと判断されてピエールは焦ります。この日、兄ブノワの結婚式で、一人息子のロミュの車で向かわなければならなかった。途中、トラブルがあって、かなり遅れてしまう。

 

そんなピエールを罵倒しながらも式が始まるが、ピエールは祝辞でブノワの新婦の名前を忘れてしまい大失態、新妻のサラはショックを受ける。何事も不器用な二人の兄を母親のように支えているのが妹のローラだった。彼女は弁護士で、この日も離婚の調停をしていて、無事離婚は成立、その顧客ゾエールからデートに誘われてしまう。一方ブノワは眼鏡店を経営しているが最新の機械がいつも緑を顧客に薦めるので悩んでいる。

 

ブノワ、ピエール、ローラは木曜日に両親の墓参りに行くことが習慣になっていて、いつもお互いに素直な気持ちで会話をするのだが、いつも喧嘩腰になっていた。ピエールは工事の責任を取って会社を辞めるが、誰にも内緒にしていた。ローラはゾエールと結婚することになる。ブノワの妻サラは妊娠するがふとした一言で、サラは家出をしブノワの元妻二人に相談している。三人三様にそれぞれの人生が進むが、ローラは体調不良で診療に行き妊娠できない体だと知る。ピエールの息子ロミュは父が失業しているのを知りブノアたちに知らせる。ブノワはメガネの機械の取り扱いがわかる。

 

三人はいつものように両親の墓の前でそれぞれの本音、悩みを告白、お互いに頼ってほしいと確認し合う。一旦は家を出たローラをゾエールが迎えに来る。ブノワとサラも順風満帆に生活が進む。ピエールは、ロミュが突然大学を転校すると言い出した自分に気を遣ったのかと学校へ行くが、ロミュの言うことが本当だと知り、その帰り、ロミオが独立したので一緒に家を建てる仕事をしようとピエールを誘う。

 

それぞれがそれぞれに幸せへと向かい始め、ゾエールとローラは外国から養子を迎えることになる。この養子が黒人というにはちょっとあざとい展開で鼻につくが、こうして映画はハッピーエンドを迎え、冒頭でピエールが壊したビルが逆回しで立ち上がって映画は終わっていきます。

 

なかなか書き込んだ脚本が次第にその力を発揮していく展開で、傑作とは言えないまでも小品ながら良作でした。見てよかったです。

 

「成れの果て」

ノーマークでしたが、相当クオリティの高い傑作を見ました。傑作舞台劇の映画化なので脚本が良いのは解っているのですが、それよりカット割が見事なのと、この手の作品の割にカメラが実に美しい。内容は辛辣なドラマですが映像で魅了していく面白さがある。人間の表と裏をストレートに表現した脚本を映像として昇華した才能、さらに、画面から一瞬も目を離せないほどの迫真の演技を堪能してため息さえ出てしまいました。エンドクレジットが終わるまで微動だにしなかった映画に久しぶりに出会った感じです。監督は宮岡太郎。

 

昔ながらの家の一室、カメラが隣の部屋からじっと見つめる。一人の女性あすみがプリンを食べ終わり、おもむろに電話をかける。相手は妹の小夜である。そして、あすみは近々結婚することを報告しその相手が布施野だと告げると電話の向こうで激しい息遣いが聞こえる。チャイムの音がして電話を置くあすみ。玄関に布施野が、先輩の今井に連れられ酔っ払って帰って来る。そして、夜の街に佇む小夜のカット。こうして映画は幕を開ける。

 

物語が進むとわかるが、妹の小夜は高校生の時に布施野にレイプされた過去があり、今は都会に出てファッションの仕事をしているらしい。布施野がレイプする流れを作ったのは今井らしい。あすみは地元で図書館員として働いている。昔ながらの田舎らしく、小夜のことはいまだに村の話題の一つであるようだ。

 

翌日、幼馴染のマー君があすみの家の給湯器を治している。実はマー君はあすみのことが好きらしい。あすみは友人の友里恵を同居させていて、友里恵はマッチングアプリで知り合った男性と今夜デートの予定をしていた。マー君が帰ろうと玄関に行くと小夜がメイクの仕事をしている友人の江本と玄関に立っていた。小夜はマー君に執拗に質問を浴びせ、友里恵にも疑念の視線を送る。あすみがなんとか取りなしてマー君を帰らせ、その場を取り繕うように江本は遠慮なく上がり込みます。

 

小夜と江本はあすみの家で過ごし始め、ある夜、いつものように戻ってきた布施野と今井は小夜と遭遇します。緊張が走る中、そそくさと今井は去り、布施野は小夜に執拗に攻撃されますが、そこへ江本が帰ってきて、その場は収まります。小夜は一人村の工場のソファのところに行きます。カメラのカットからおそらくレイプ現場なのでしょう。

 

江本は東京で小夜が過去の事件のせいで婚約者も失ったことなどをあすみに話し、あすみのメイクをしてやって自分のメイク道具をあすみにやります。友里恵はデートの相手からの連絡が途絶え苛ついていました。そこへマッチングアプリの請求連絡が来て、隣室へ行き何かを持ってきますがそこへ小夜が帰ってきて問い詰めます。友里恵は家の権利証を持っていたので小夜は友里恵を責め、出ていくように言います。友里恵は逆ギレするものの仕事できていたマー君に止められます。小夜は幼い頃からモテて、あすみの彼氏もとったことがありそのことを友里恵は責め、さらに金がいるからと詰め寄る友里恵にマー君がなんとかしようかと声をかけたりします。小夜は何かにつけて、地元の情報を流して人間関係に馴染もうとしてきたマー君を責めます。

 

一人になった小夜に布施野が会いにきます。そしてなんでも言うことを聞くと言われた小夜は死んでくれと言いますが、布施野は黙ってしまいます。布施野だけが幸せになっていくのは許せないと小夜は責めますが、布施野も必死で生きているうちにこういう幸せになったのだと反論します。このあたりのリアリティが見事です。そこへ江本がやってきて布施野を罵倒します。

 

夜、今井と今井の彼女絵里が布施野とあすみのいるところへやってきます。絵里は小説家の卵らしいですがいかにも頭の弱そうな女で、布施野に過去のレイプ事件の話をしてほしいと不躾に頼み、今井も高飛車に頼み、とうとう布施野は切れてつまみを投げつけます。そのあと、あすみは布施野に抱いてくれと迫りますが電話がかかってきて布施野は出ていきます。

 

布施野が行った先は、事件現場の工場でそこに小夜が居ました。布施野は小夜と一緒に暮らすのは無理だと告げますが、小夜は、それなら同じ目にあってくれと言います。背後に江本がいました。彼はゲイだったのです。江本が布施野を襲いますがすんでのところで小夜がバットで江本を殴りことなきを得ます。

 

後日、布施野は出張で出かけるとあすみに告げます。そして、家を後にしますが、工事に来ていたマー君があれは嘘で、会社も辞めているのだと話します。そして、自分もあすみが好きだったと迫りますが、あすみは態度を変え、そこまで落ちぶれていないとマー君を罵倒します。あすみはなぜいつも小夜に取られてしまうのかと泣き、布施野なら大丈夫だと思ったのにと崩れます。この展開も素晴らしいです。一人残ったあすみは、江本にもらったメイク道具でメイクをし始め映画は終わります。

 

全く、圧倒されるとしか言いようがありません。人間は誰しも表と裏、善人と悪人が住み着いているものであり、それぞれが鎧をかぶって隠すことで生きている。そんな人間の赤裸々な姿を描きながらも、過去の過ちに苦しむ人物たちを抜群の演出力で描いていきます。少々カメラワークはオーソドックスで古臭いところも見られますが、それは逆に相当に映画を勉強してきた結果ではないかともとれます。編集のリズムが見事だし、緊張感を全く途切れさせない迫力に圧倒されます。傑作です。