くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「決戦は日曜日」「マクベス」(ジョエル・コーエン監督版)

「決戦は日曜日」

それほど期待もしていなかったし、出だし部分は非常にスケールも小さいしょぼいオープニングだったのですが、さりげなく良くなってくる感じで、風刺を効かせながら、みんなが言いたいことがズバズバと出てくる中盤から後半は見ていて小気味良かった。特に窪田正孝宮沢りえの存在感というか表現力に引っ張られていく感じでした。監督は坂下雄一郎

 

とある地方都市、古参の衆議院議員川島昌平の公演会場で私設秘書の谷村が泥で濡れないように川島を背負っていく場面から映画は幕を開ける。時は2016年。それから三年、突然川島昌平が倒れ入院することになる。選挙を控えた選挙事務所や後援会らは地盤を守るために全くの素人で川島昌平の娘である有美を出馬させることにする。しかし、やる気だけはあるがちょっとおバカな有美はチグハグなスタートを切り、谷村らベテラン秘書たちはその尻拭いに奔走し始める。

 

しかし、自分がやっている事と実際の政治の世界の食い違いに気づき始めた有美は、とうとう切れてしまう。そんな彼女を巧みに宥めながら前に進もうと必死で取り繕っていく谷村。新聞記者にリークしてしまう有美の姿に、そんなことをしても結局有耶無耶になると言う現実を切々と説明する谷村の長台詞のシーンが見事。

 

やがて公示の日が来るが、次々と起こってくる問題を谷村らは手慣れたように片付けていくのを見た有美は、谷村に相談。一方谷村もそんな有美を見ているうちに、自分達が当たり前にやってきていることに疑問を持ち始める。

 

そこで谷村と有美が考えたのは、世論を敵にして落選する事だった。しかし、どんな不利なリークをしても、それ以上の事件が起こって次々と有美らの思惑から離れていく流れに、二人も呆れ始める。そして、谷村は最後の手段と裏金の内部情報までネットに流したのだが、北朝鮮のミサイル発射の事件で有耶無耶になる。そして投票日、世論調査はほとんど揺るがないままに、川島有美は当選する。

 

政治家になりたくないと本音を漏らす有美に、政治家になってやってみませんかと決意を向ける谷村。祝福に来た地元有力議員たちの声がかぶる中映画は終わります。

 

北朝鮮問題や女性蔑視問題、外国人労働者問題など、さりげなく毒を散りばめて言いたい放題の本音を見せる脚本が実に小気味良く、決してよく練られた脚本ではないのですが、ちょっと魅力を感じてしまう作品に仕上がっています。小品ながら佳作でした。

 

マクベス

モノクロスタンダードの画面で、CGによる造形美術が作り出したシェークスピアの世界を淡々と描く高級映画という空気の作品でしたが、映像作品の面白さはないわけではないものの舞台劇を映し出しただけのような演出は正直しんどかったです。監督はジョエル・コーエン

 

空に舞う三羽の不気味な鳥を捉えるカットからカメラが下がると、ダンカン王の元に戦勝の報告が次々と来る場面から映画は始まる。シンメトリーな左右対称の構図を徹底し、縦の構図の彼方からこちらへ移動してくる演出が繰り返される。勝利を収めたマクベスらが戻ってくると、鳥のような姿から人間に変わったもののけのような人物が立つ。そして、いずれマクベスは王になると予言する。

 

マクベスが戻ってくるとダンカン王の祝福、さらにその祝宴にマクベスの屋敷に王を迎えることになり、先に屋敷に戻ったマクベスマクベスの妻は、ダンカン王を殺して、それを見張り番のせいにすれば王になれると提案をする。乗り気でなかったマクベスだが、森での予言を思い出し、行動を起こす。ところが、罪悪感を伴った重圧から次第に暴君へと変化していく。まもなくして、不気味な預言者が、森が動くまでは心配はいらないと告げて消える。

 

一方、マクベスから逃げたダンカンの息子らはイングランド軍と一緒にマクベスを撃つべく戻ってくる。城を囲む森の枝を兵士が手に手に持って姿を隠しマクベスの城に迫るイングランド軍。狂気と変わったマクベスに味方する兵士もいず、妻も狂った中で死んでしまう。そして迫る兵士たちの姿はまるで森が動いているかのようにみたマクベスはついに殺されてしまう。こうして映画は終わっていきます。

 

光と影の造形で、おそらくCGで作り上げたのかと思われ、マクベスらが安定していた場面ではシンメトリーな安定した構図をとり、次第に狂気に変わっていく中では斜めの線を多用した光と影の無味乾燥な美術の中を動き回る展開へ変わっていきます。凝った映像ではありますが、人物のアップが多い上に、シェークスピア戯曲独特の台詞の多さに、正直みていてしんどい映画でした。