くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ゴヤの名画と優しい泥棒」「ドリームプラン」

ゴヤの名画と優しい泥棒」

若干脚本が弱いのが残念ですが、ゆるゆるほのぼのした心地よい映画でした。実話とはいえ、本当に昔は良かったななんて感じてしまいました。ロジャー・ミッシェル監督の遺作。

 

時は1961年、絵画の窃盗で捕まったケンプトンが法廷に立っている場面から映画は始まる。そして時は半年前に遡る。イギリスロンドン郊外、自称劇作家のケンプトンが、この日も、BBC放送の受信料を拒否して、役人から責められている場面から映画は始まる。そんな時、テレビで、14万ポンドの大金を払って、政府がゴヤの名画「ウェリントン公爵」を購入したというニュースを見る。そんなニュースを見て、テレビで孤独に暮らしている高齢者の生活を少しでも良くしようと受信料無料化の運動をするケンプトン。

 

理想論ばかり言うケンプトンは、仕事もうまく続かず、自作の戯曲も認めてもらえず、妻のドロシーからも責められる中、人生の区切りにと二日間だけロンドンへ行く許可を得る。ケンプトンはロンドンで、受信料を含めた諸問題の訴えを起こそうとした。しかし、どこでも疎まれてしまう。ふと、ナショナルギャラリーにある「ウェリントン公爵」の絵画を盗み出そうと考え、深夜に忍び込んでまんまと絵画を盗み出してしまう。

 

警察は、手口などからプロの仕業に違いないと捜査を始めるが、ケンプトンと息子のジャッキーは箪笥の奥に隠して、この絵画で公共放送の受信料を肩代わりしようと考える。しかし、ふとしたことから息子の彼女に見つかってしまう。窃盗で逮捕されたくないと考えたケンプトンは美術館に返しに行こうと荷造りを始めるが、そこを妻のドロシーに見つかってしまう。ケンプトンは、包んだ絵画を堂々とナショナルギャラリーへ持ち込み、返還をするのだが、警察はあっけに取られる。

 

やがて裁判が始まるが、ケンプトンは終始、絵画は借りただけだと主張し無罪を訴える。そんなケンプトンに傍聴席も陪審員も微笑ましく接し始め、やがてケンプトンは、盗んだ時に忘れてきた額縁の窃盗だけが罪として有罪が確定する。しかし、実は絵画を盗んだには息子のジャッキーだった。

 

結局、一ヶ月ほどの刑務所暮らしでケンプトンは出てくる。テロップで、四年後、ジャッキーが真実を告白するが今更、やり直しはできないと警察もうやむやにする。こうして映画は終わる。

 

18歳で自転車の事故で死んだ娘のことで罪悪感を拭えないケンプトンのエピソードが今ひとつ効果的にストーリーを彩っていないのが物足りないし、話に展開にもうちょっとキレがあれば面白かったのですがゆるゆる感を重視したのか、全体がふんわりとした仕上がりになってしまいました。スプリット画面を多用した工夫や、レトロ感のある風景の描写に癒されるのですが、作品としては普通の仕上がりになった感じでした。

 

「ドリームプラン」

テニス界のチャンピオン姉妹、ビーナス&セリーナ・ウィリアムズ誕生の秘話。この映画は本当に良かった。まだまだ現役の姉妹の物語なので、ちょっと美談的なところもなきにしもあらずですが、父親であるリチャードが一生懸命娘を守りながら育てる熱意がスクリーンから伝わってきて、何度か胸が熱くなりました。監督はレイナルド・マーカス・グリーン。

 

娘二人をテニスのトッププレイヤーにするというプランを娘が生まれる前から作っていた父親のリチャードが、テニスの指導をしている場面から映画は始まる。時代はまだまだ黒人差別が普通に行われていた時代、若い頃にはKKK団から逃げ回っていた経験もあるリチャードは、みんなから憧れられるためにはトップを目指すしかないと娘二人をトッププレイヤーにするべく、78ページにわたる計画書を作成していた。あちこちのトップコーチに指導を頼みにいくも断られたリチャードは、独学でテニス指導を始める。

 

ギャングが蔓延るカルフォルニア州コンプトンのコートで練習を続けるが、周囲の環境は最悪で、黒人の不良たちが何かにつけて邪魔をしにくる。それでもリチャードは娘たちの才能を信じて練習を続ける。そしてある程度のレベルになった時、有名選手を育てたこともあるポールの元を訪れ、強引にヴィーナスとセリーナを売り込むが、ポールが引き受けたのはヴィーナスだけだった。

 

ポールの元で練習を始めるヴィーナスの姿をリチャードはビデオに撮り、それをもとに母のオラシーンがセリーナに練習をさせる日々が続く。そして、ヴィーナスはついにジュニアの大会で優勝をする。しかし、優勝にはしゃぐ娘たちにリチャードは謙虚であれと戒める。次々と試合に出るヴィーナスだがセリーナも試合に出たかった。そしてセリーナも勝手に参加した試合で圧勝をするがリチャードはもう少し待てと言う。

 

ジュニアの大会で注目され始めたヴィーナスにスポンサーが近づいて来るが、リチャードは、娘たちが燃え尽きるのを懸念して、しばらくジュニアに大会に出さないと断る。そして、次の段階としてリック・メイシーをコーチに選ぶ。ヴィーナスとセリーナをリックに預けることにし、自分達家族もカリフォルニアに移り住み、リックとの契約で、裕福な生活をするようになるが、リチャードは娘たちには普通の教育を優先させ、将来プロになった後も潰されないように育てるという計画を崩さなかった。

 

試合参加を封印して3年が経つ。限界がきたヴィーナスの姿を見た母のオラシーンはリチャードに、そろそろ逃げることをやめるべきだと諭す。リチャードはいつの間にか娘を守ることを優先して、成長してきたことから逃げるようになっていたのだ。そして、ヴィーナスは14歳でプロとなり、デビュー戦に登場、次々と勝利して決勝を迎える。

 

前半、圧倒的に強かったヴィーナスだが、相手がトイレ休憩としてタイミングをずらしたことで一気に闘志をくじかれたヴィーナスはとうとう負けてしまう。しかし、彼女を称えたファンが彼女を出口で迎える。こうして映画は終わる。この試合中、セリーナは切なそうにコートを見ていたが、リチャードは、セリーナはこれからこの舞台に立つのだと諭す。実際、2年遅れてセリーナもプロとなり、次々と偉業を立て、ヴィーナス同様、世界最高の女子テニスプレーヤーとなったというテロップで映画は終わり。

 

よくあるスポーツ映画のようであって、父親リチャードの子育てへの信念を丁寧に描いている脚本が素晴らしく、ただ、試合シーンだけで感動を呼ばせるのではない作りが実に好感な映画で、人間を育てることの本当を勉強させられるような作品でした。本当にいい映画でした。