素朴な景色に中に、まっすぐな男女の恋愛模様を、これまた純粋そのものに描いていく。なんの飾り気もない映像と、繰り返されるカット、延々と捉えるカメラ、これは職人技というほかない映画です。なんの変哲もないのに心にしんみりと残ってくれる一本でした。監督はアッバス・キアロスタミ。
モハマッド監督がコケル村で映画を撮影するために地元の女性からキャストを選んでいる場面から映画は幕を開ける。ヒロインに選ばれたのはタヘレという女性で、早速撮影が始まるが、相手役の男性と何度やってもうまくいかない。聞いてみると、男性は女性の前で言葉が出ないのだという。監督は、アシスタントのシヴァに頼んでもう一人の男性ホセインをつれてくるようにいう。
そして撮影は再開するが、今度はタヘレが相手にしない。聞いてみると、かつてホセインが働いている時、向かいの家でタヘレを見かけ惚れたのだという。そして結婚を申し込んだが、家を持たないホセインに対し、タヘレの祖母は断固反対して許してくれないのだという。タヘレの両親はイランの地震の際に死んでしまって、祖母が決定権を持っていた。そんなタヘレに必死で求婚するホセイン。
やがて撮影が再開し、それぞれのセリフを順調に繰り返しながら進んでいく。そして撮影も終わり、みんなが引き上げることになるが、車に乗り切れず、タヘレは一人近道を帰っていく。そんなタヘレを見た監督はホセインも若いのだから歩いて帰るようにと進言、ホセインは必死でタヘレを追っていく。そして、必死でタヘレに語りかけるがどんどん歩いていくタヘレ。
ジグザグの丘の道を登り、オリーブの林をぬけてどんどん去っていくタヘレをさらにホセインは追いかける。カメラは丘の上から二人が点になってもカメラは動かない。そして、彼方に消える寸前、ホセインは大喜びした風にこちらへ駆け戻ってくる姿で映画は終わる。
映画とはリズムである、というのを見事に映像表現で見せていく演出力に圧倒される一本で、撮影シーンでフィックスで捉えたホセインの演技を何度も何度も繰り返す場面は、まさにホセインの気持ちを絵に変えている感があります。そしてそれにつづく延々と語りかけるホセインの姿からラストシーン、本当に素朴な映像なのですが、完成されています。良い映画でした。
この監督の映像センスというには、見事なものだと思います。ドキュメンタリータッチで描かれたロードムービーですが、あくまでフィクションのお話を前作「友だちのうちはどこ?」をモチーフに展開していくストーリー作りが秀逸。ラストシーンのコミカルながら余韻を残すエンディングも素晴らしかった。監督はアッバス・キアロスタミ。
1990年のイラン大地震直後、かつて制作した「友だちのうちはどこ?」の監督親子は、作品で主演してくれた少年の安否を確認するためにコケルの村を目指して車を走らせているところから映画は始まる。
コケル村への幹線道路が大渋滞で、脇道を逸れて、なんとかなるだろう的な考えで車を走らせる。途中の村々が瓦礫の山になり、いく先々で、肉親を失った人たちと遭遇する。やがてコケルの村が間近になったテント村に辿り着き、安否が不安な少年たちがコケルの村に向かったと聞いて車で後を追う。途中の坂で車が行きつ戻りつしながら、彼方を歩く少年を見つけた監督は必死の思いでジグザグの坂を車を走らせ、フレームアウトして映画は終わる。
ドキュメンタリータッチで淡々と描いていくのだが、悲惨な目に遭いながらも逞しく生きようとする人たちをしっかりと捉えていくカメラが素晴らしいし、ラストのジグザグの坂のショットからのエンディングもうまいの一言につきます。たまたま先に見たこの作品の後に作られた「オリーブの林をぬけて」の撮影場面で使われたシーンの実際?のような場面もあり、才能のある監督の映像というのはどこか違うと納得してしまう一本でした。