くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「余命10年」「愛なのに」

「余命10年」

原作の弱さを、岡田恵和の脚本と藤井道人監督の映像センスで映画として完成させたという感じの、非常にクオリティに高い難病もの映画でした。物語の流れは最初から見えるのですが、ストレートな展開の合間に細かいシーンを繋いで次へ進む主人公の心の変化を描写していく映像演出が秀逸。冒頭の桜のシーンの繰り返しから、季節が進み始めて主人公の心が前向きになる前半のリズムもいい。さすが藤井道人、ドラマを作らせると見事です。

 

桜が見える病室で、ベッドに寝る女性が息子の姿を映したビデオカメラの映像を見ている。傍に茉莉がいて、一緒にその映像を見ている場面から映画は始まる。時は2011年、茉莉はその女性からビデオカメラを受け継ぐ。そして時間は2013年へ移る。退院した茉莉は、日記に書いたメモらしい書き留めを見る。肺高血圧症という難病にかかっていること、生活の上の注意、そして余命が10年だということを映して物語にの背景を見せる。茉莉は自分の周りで起こることをビデオカメラに収めていく。優しい姉、真面目な両親、幸せな家族。

 

そんな彼女に、中学の同窓会の知らせが届き、父の車に乗せてもらって会場へ向かう。そこで、級友の和人やタケルと再会、彼らも東京にいるということで、後日会う約束をする。しかし、和人は両親と剃りが合わず、自堕落な生活をしていた。そして思わずベランダから飛び降りてしまう。東京へ戻った茉莉は就職活動を始めるが、病気のこともあり採用されない。そんな彼女にタケルから和人が自殺未遂を起こしたと連絡が入る。命を粗末にするような発言をする和人に、ついむきになって責める茉莉。

 

退院した和人が通院で病院へ行き、たまたま診察を受けに母ときていた茉莉を見かける。そして、和人はタケルらとの飲み会で茉莉に聞くが、和人は茉莉の母が病気だと勘違いしてしまう。茉莉は、東京での友達で出版社に勤める沙苗をタケルに紹介、四人で遊ぶようになり、それまで春の景色のまま止まっていた茉莉の時間が進み始める。ここの細かいカット演出が実に上手い。

 

次第に和人との距離も近づいてくる茉莉だが、自分の病気のことを考え、踏み出せずにいた。ある時、和人から真面目に交際を迫られ、思わず茉莉は逃げ出してしまい、倒れてしまう。そしてようやく和人は茉莉が病気であることを茉莉の父親から聞かされる。和人はタケルの行きつけの居酒屋で仕事を始め、主人からいずれは独立するようにと言われる。

 

茉莉は自暴自棄になってやけ食いをするが、そんな茉莉を和人は優しく受け止め、二人はささやかな交際を始める。前向きになる茉莉の場面が再び細かいカットで演出される。しかし、茉莉の病状は日に日に悪化して来た。そんな頃、和人は茉莉をスノボに誘う。そこで、二人は体を合わせるが、翌朝、一人茉莉は去っていこうとする。追いかけてきた和人に、自分の余命はわずかだと初めて告白、別れることを決意させる。

 

間も無くして、茉莉は入院、和人は居酒屋で独立することになる。茉莉は病室で、自らの10年を小説に描き始める。原稿を書き上げ、沙苗に手渡し、夜、いつも撮っていたビデオカメラを見直しながら、和人らとの思い出のシーンを削除し始める。そして最後の削除が終わり、茉莉は昏睡状態になる。一方、和人は新しい店を開店させる。和人の元に沙苗は茉莉が完成させた小説の原稿を届ける。

 

一時はICUに入った茉莉だが、和人への思いから一旦回復。そこへ、開店した翌朝、和人が駆けつける。そして静かに茉莉の手を握る。そんな和人に茉莉も握り返し、一瞬、和人を見る。時が過ぎ、和人は茉莉のビデオカメラを手にして、初めて二人で歩いた桜並木を歩いていた。あの時のように、風が吹いて桜吹雪が舞う。こうして映画は終わる。

 

映像がリズムを生み出していて、映画全体が映像作品としてまとまっている。可もなく不可もないストーリーですが映画として仕上げた手腕は見事でした。良い映画です。

 

「愛なのに」

脚本に今泉力哉が参加しているからというわけではないけれど、この脚本ならもうちょっと透明感のある作品になるところではないかと思います。そこは演出の違いと言えばそれまでですが、少し脚本の理解を間違えたのではないかと思いました。映画自体は面白いし、不思議な空気感も伝わって来るのですが、どこかバランスが歪んでいます。それが残念。監督は城定秀夫。

 

古本店を営む多田のカット、一人の女子高生が本を取っていて、多田と目があった途端に逃げ出す。多田が必死で後を追うが息切れして立ち止まると、女子高生は自販機で水を買って渡し、また逃げ始める。そして古本店、結局捕まった女子高生が多田に反省文を書かされている。女子高生の名前は岬と言い、多田のことが好きだから逃げたのだという。そして結婚して欲しいと訴える。当惑する多田。岬はまた明日も来ると言って帰る。

 

多田に、友達から、友人の一花が結婚するという連絡が入る。実は多田はかつて一花のことが好きでメール連絡したりしたが無視されていた。一花はフィアンセの亮介と結婚式場で打ち合わせをしていた。無関心な態度を見せる亮介をじっと式場のプランナーの美樹が見ている。場面が変わると、亮介と美樹がSEXしている。美樹は遊びで亮介と付き合っていた。亮介もこんな経験は初めてながら、繰り返し美樹と寝ていた。一花は、式の段取りで忙しい思いをしているが、亮介は何かにつけ手伝おうとしないのでイライラしている。

 

多田の店には毎日のように岬が現れ、結婚して欲しいという手紙を置いて帰っていた。そんな時、岬は学校で告白されたと多田に話す。複雑な態度を取る岬に多田も戸惑ってしまう。さらに、岬は告白された男子学生がまた告白してきたので、好きな人がいるからというと会いたいと言われ多田の店に連れてくる。感情的になった男子学生は多田を殴る。岬は、最後の手紙を多田に渡すが、それは白紙だった。そして必ず返事が欲しいと帰っていく。

 

毎晩イライラしてくる一花は、涼介にあたるが、少しやり過ぎたと思った翌朝、亮介のスーツからラブホテルのライターを見つけ問いただす。亮介はかつて自分のことを好きだった女性に絆されてホテルに行ってしまったという。切れた一花は自分も同じことをしてみると亮介に宣言、多田に連絡を入れる。

 

多田は、一花と会ったものの戸惑ってしまうが、割り切って欲しいと迫る一花に仕方なくSEXをする。そして、寝てきたことを亮介に告白する。なんとか式場の段取りも進み始めるが、ドレスのことで式場を訪れた一花は、トイレに立つ。そこへ、オルガンの響きが聞こえてきたので覗いて見ると、神父が弾いていた。一花はおもわず神父にこれまでのことを打ち明ける。しかも、多田とのSEXが気持ち良すぎて自分が許せないのだという。そんな一花に神父は御心のままにしなさいとアドバイスする。

 

一花は再度多田の家にやってくる。そして、自分の気持ちを話し、もう一度SEXしたいと頼む。その上で、一花は、亮介のSEXが下手なのではないかと考える。多田は、はっきり答えられず、これまでにしようと一花を送る。亮介は美樹と今日もSEXしていたが、これで最後にしようという涼介に、美樹は、亮介のSEXは相当に下手だとはっきり言う。

 

何かが吹っ切れた多田は岬に返事を書いていた。そして岬を呼び出し、返事を渡す。そこには、今はまだ引きずっていることもあるのでダメかもしれないが、将来結婚しようと書かれていた。ところがしばらくして、多田が夕食を食べていると、岬の両親が押しかけてきて、手紙を見せ、罵倒する。多田は、岬のカバンを勝手に見た上で娘の気持ちを無視して怒鳴り込んできた父を殴ってしまい警察の捕まってしまう。しかし、事情を察した取調官は多田を釈放する。

 

しばらくして、一花から結婚式の招待状が届く。結局亮介と結婚することになったらしい。多田の店に岬が現れる。多田は岬にこれからも手紙がほしいと話す。そこへ、一花の式の引き出物を届けにただの友達がやってくる。多田が引き出物を開けると夫婦茶碗だった。多田はその一つを岬に与えて映画は終わっていく。

 

透明感あふれる話のはずがどこか濁った印象を受けるのは、SEXシーンが少しくどいからか、カメラアングルのせいか、演出の微妙な感性の違いか、なんとも言えないけれど、これはこれ城定秀夫監督の色調の作品なのだろう。その意味で面白い作品でした。