くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「赤い唇」「デッド・オブ・ナイト」「ニトラム/NITRAM」

「赤い唇」

ストーリーに緩急のリズムがほとんどないので、ちょっとダラダラ感が感じられなくもないですが、スタイリッシュな映像と美しい構図、赤と青のフィルターを多用した画面はなかなかのホラー映画でした。監督はハリー・クーメル。

 

列車の中、新婚カップルのバレリーとステファンがSEXしている場面から映画は始まる。バレリーは、ステファンの両親に会うべく向かっているが、なぜかステファンは乗り気でないようである。列車が事故になり遅れたこともあって、途中のホテルに滞在することになるが、そこでも、ステファンは実家に行くことをわざと遅らせようと画策する。ステファンの実家のミステリアスさが最後まで明らかにならない。

 

そのホテルに妖艶なエリザベート伯爵夫人とキュートなレオーナの二人がやってくる。コンシェルジュのピエールは四十年前に夫人に会っていて、今も容貌に変化がないのに驚愕してしまう。実は二人は吸血鬼だった。エリザベート伯爵夫人は、泊まっているステファンたちに興味を持ちターゲットに選ぶ。ここから物語はつかず離れずの展開となる。

 

ある夜、ステファンは、ベルトでバレリーを打ち、本性を表す。バレリーは一人去る決意をするが、エリザベート伯爵夫人は、彼女を駅まで追いかけて引き止める。そんな頃、レオーナはステファンに迫り体を重ねる。しかし、ステファンがレオーナをシャワーに無理矢理引き入れたので、水が苦手なレオーナと争いとなり、誤ってレオーナは剃刀で死んでしまう。そこへエリザベートとバレリーが帰ってくる。実はバレリーは既に吸血鬼と化していた。

 

三人はレオーナの遺体を浜辺に運んで埋めてしまう。しかし戻ったステファンは、出て行くという。しかし、バレリーもエリザベートもステファンを押しとどめ、争いの末殺してしまう。そして遺体を浜辺に投げ捨てるが、慌てて車で戻るエリザベートたちに朝日が迫ってくる。そして、必死で走るが、事故を起こし、車から飛び出したエリザベート伯爵夫人は枝に体を突き刺されてその場で死んでしまう。そして数ヶ月が経つ。なんとか逃げ、吸血鬼となったバレリーが次のターゲットを狙っている。こうして映画は終わる。結局、ステファンが行くのを躊躇っていた実家の真相がわからないままである。

 

赤と青を基調にした画面、構図にこだわった奥の深いカメラアングルなどが見所の作品ですが、ストーリーの展開が次第にダラダラとなって行くくだりから、終盤の締めくくりがちょっと雑なのが残念。でも、見て価値にあるホラー映画でした。

 

「デッド・オブ・ナイト」

五話のオムニバス形式で展開するストーリーですが、相当に面白い。オムニバスそれぞれに長弱があってリズムがある上に、それぞれがラストで一つにまとまる手際良さに思わず食い入ってしまった。なかなかの秀作ホラーでした。監督はチャールズ・クライトン、ベイシル・ディアデン、アルベルト・カバルカンティ、ロバート・ハーメル。

 

建築家のクレイグがビルの紹介でフォーリーの屋敷にやってくる。しかしクレイグはここに来ることも、フォーリーに迎えられることも、そして六人が待っていることも既に悪夢の中で知っていたという。そして、それぞれが語る物語も予知していたというのだ。こうして、物語は始まる。

 

最初の話は、自動車レースで大事故を起こし、瀕死の中、病院で、深夜に外で霊柩車に呼ばれる話。次は一人の少女がかくれんぼをしていて、かつて姉に殺された弟の部屋に迷い込んでしまう話。次は、間も無く新婦となる女性が恋人に古い鏡を買ったが、その鏡は、かつての所有者の男が妻の不貞を疑って嫉妬のあまり殺した過去があり、それが鏡に映され、恋人が狂って行く話。さらに続いて、ゴルフ好きの男が恋人を競ってイカサマ試合で女性を手に入れ、恋敵は自殺するが、のちに恋敵は取り憑いてきて、消える手段を忘れてしまう。そして試行錯誤するうちに、取り憑かれた男が消えてしまい、恋敵が復活してしまう話。最後は、腹話術士が次第に人形と自分の二重人格になって犯罪を犯してしまう話が語られて行く。

 

最後まで話が終わるが、クレイグはこのあと惨劇が起こるからと最初に予言していた。そして、ドクターの眼鏡が割れ、発電機の故障で暗闇となり、最初の予言通りの展開が起こる。クレイグはドクターと二人きりにしてほしいと頼み、誰もが出て行ったあと、クレイグはドクターを締め殺す。そしてこれまでの物語が全て絡んできてドクターは死んでしまう。その瞬間ベッドで目を覚ます。電話が鳴っていて、電話に出ると、フォーリーの家の改装をお願いしたいという。何か気になりながら、フォーリーの農場へ向かうクレイグ。全てが悪夢に見たそのままだと思いながら映画は終わって行く。

 

物語の緩急が見事で、最後に全て一つに絡んでいく構成仕立てが秀逸な一本で、フィルムノワールを思わせる影を多用した画面作りなども見応え十分、とっても面白い映画だった。

 

「ニトラム/NITRAM」

オーストラリア、ポートアーサーで起こった銃乱射事件を扱った実話でもあり、この犯人にみじんも同情など寄せるものではないけれど、映画としては、一人の男の追い詰められる人間ドラマを見事に描いたなかなかの作品だと思いました。ただ、銃規制を厳しくすることが主旨というより以前に、こういう異常者を監視し事前に犯罪抑止を行うという問題にも触れるべきだと思います。もちろん、偏見等々の難しい問題が出てくるのはわかりますが、そこをメッセージとして描写すれば一級品になったかもしれないと思います。監督はジャスティン・カーゼル。

 

花火で火傷した少年たちへのインタビューから映画は幕を開ける。のちにわかるが、この時にインタビューを受けた少年の一人が事件の犯人であるらしい。そして、幼い頃からニトラムと呼ばれた馬鹿にされてきた主人公の今の姿が映される。精神的に不安定で、すぐにキレたような行動をとる。小学校の外で花火を立てたり、常識はずれな行動をして、両親からもどう扱うべきか戸惑われる日々だった。それでも、異常に厳しい母と違って、父はニトラムに対して、真正面から向き合おうとし、海辺のペンションを購入して事業を始めるにあたり、共同でやろうと持ちかけたりする。

 

そんな頃、芝刈りのバイト先を探していたニトラムは、裕福だが孤独で、犬や猫たちと暮らす中年の女性ヘレンと出会う。ヘレンはニトラムを可愛がり、なんでも買ってやるようになる。やがてニトラムはヘレンと一緒に暮らすようになる。一方、融資に工面がついたニトラムの父はニトラムを伴ってペンションの契約をするべく不動産屋へ行くが、条件の良い顧客に先に売却されていた。落胆する父はその日から家に引きこもるようになる。

 

ニトラムは、浜辺でサーファーの若者とも親しくなるが、どこかよそよそしく扱われる。ニトラムは、引きこもっている父を無理矢理連れ出して、気持ちを晴らそうとするが、しばらくして、父は自殺してしまう。ヘレンはニトラムと良い雰囲気で毎日を暮らし、夢だったアメリカ旅行を一緒にしようという。そして、嬉々としてニトラムとドライブしていたが、ニトラムがいつものようにはしゃいでハンドルを触り事故を起こしてしまう。そしてヘレンは死んでしまう。拠り所のなくなったニトラムはさらに追い付められて行く。

 

ヘレンはニトラムに五十万ドルの大金と、家など全ての財産を与えるようにしていた。ニトラムは、ヘレンの夢だったアメリカ旅行に一人で行く。そして、何かを決心したように家を掃除し、母を呼んで食事をする。そして、子供の頃父にもらったエアライフルで遊んでいたが、物足りなくなり、銃器を購入し始める。大量の銃器を自宅に揃え、それを持って、父が購入する予定だったペンションへ行き、所有者を射殺して、続いて観光地であるポートアーサーへ向かう。そしてもおもむろに銃器を取り出す。

 

カットが変わると、ポートアーサーで起こった銃乱射事件のニュースが流れている。外でニトラムの母がタバコを吸っているカットで映画は終わる。

 

乱射シーンをカットした演出は見事だし、次第に追い詰められて行くニトラムのドラマは緊張感が半端なくて素晴らしい。ただ、なぜポートアーサーに決めたのか、父は何を仕事にしていたのか等々、若干分かりづらい部分もあることも確かで、そのあたり脚本の弱さかもしれません。内容が内容なので、決して好きな作品ではありませんが、クオリティはそれなりの作品だったと思います。