くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「不都合な理想の夫婦」「アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ」(監督自己検閲版)

「不都合な理想の夫婦」

ちょっと面白い映画なのですが、今ひとつインパクトに欠けるのは、淡々と作りすぎたのでしょうか。それが意図したものなのはわかるのですが、その中に力を感じさせないと映画が弱くなる。いわゆる不条理劇という感じの心理サスペンスで、結局全員がふりをしていたというエンディングは面白いのに、その面白さに迫力がなかった感じです。監督はショーン・ダーキン

 

ニューヨークで裕福に暮らすローニーと妻のアリソン、息子のベン、娘のサムと四人で暮らしている。毎朝、コーヒーを妻のベッドの脇に運ぶローリーの場面が繰り返される。ある時、ローニーは、ロンドンで会社を経営しているかつての上司アーサーの誘いがあったのでロンドンへ移ろうという。

 

家族がやってきたのは豪邸ともいえる大邸宅。アリソンが飼っている馬を六頭でも飼えるような土地を買って、分不相応という家に移り住む。アリソンは、調教しているリッチモンドという馬と何不自由なく暮らし始めたが、何か微妙ばギクシャクを感じ始める。娘のサムは何かにつけ反抗するし、ベンもどこかおどおどしている。ローニーは、アーサーに会社を売って合弁企業になるように提案その手続きに奔走する。

 

ある時、アリソンは、いつまでたっても馬小屋が出来上がらないのに不審を持ち業者に尋ねると、支払いがされていないという。銀行の貯金もほとんどなく、全てローニーの仕業だとわかる。一方、ローニーはアーサーから、会社売却の契約を破棄した旨を告げられる。リッチモンドが突然病気で死んでしまう。サムはすっかりアリソンに反抗してしまう。何もかもが崩れ落ち始める中でもローニーは必死で裕福であろうと努めているが、その勢いも次第に崩れ、アリソンもそんなローニーから心が離れていく。

 

ローニーとアリソンが、取引先と食事に行った夜、ベンは埋めてあったリッチモンドの体が表に出ているのを見つける。サムは友達を集めて、ドラッグパーティを始める。アリソンは、食事の席で裕福なふりをするのをやめる。そして、ローニーを放っておいて一人帰ってくる。ローニーは、乗ったタクシーに途中で降ろされ歩いて戻ってくる。

 

夜明けに家に戻ったアリソンは、殺伐となった家の中を見る。そしてベンに、馬の遺体が表に出てしまっている現場に連れていかれ泣き崩れる。サムはベンと朝食を作る。そこへローニーが歩いて帰ってくる。話があるというローニーにアリソンは子供たちの前で話そうという。サムはローニーを食卓へ誘う。ローニーが次の事業の話をやりかけるので、アリソンは、もうやめましょうと言って暗転してエンディング。ああそうなのかというラストでした。

 

多分ですが、この家族全員が裕福なふりをしてきたのでしょうか。それがどんどんエスカレートしていって結局破綻して、元に戻ろうという締めくくりかと解釈したのですが、前半の必死でふりをする流れがやや弱いので後半の展開とメリハリがつかなかったのが残念。面白い映画でしたけど、もう一歩もの足りませんでした。

 

「アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ」

映画は娯楽であって遊びでもあるのだからこういう作品があって然るべきだと思いますし、面白い作品としての位置付けは構わないと思います。ただ、これはノリで見る作品であって、ベルリン映画祭で金熊賞を取らせる作品ではないし、そういう選択肢をした審査員の悪ノリ感はちょっと認められない。監督はラドゥ・ジューデ。

 

主人公で名門校の教師をしているエミが夫と大胆なSEXをしている場面をまともに写しているところから映画は始まる。と言っても、完全に画面を隠していてわからないのですが。そしてこの動画がネットに広まり、学校で保護者の前で聴聞会が開かれることになる。

 

第一部はエミがひたすら街を歩き続ける場面を捉え、第二部は、風刺コメントを入れていくカット映像の繰り返しを延々と見せ、第三部は、延々と聴聞会でのやりとりが描かれる。正直、奇を衒った映画ではあるが、それを狙っただけにしか見えなくもない。

 

結局、論点があちこちに飛んでいく皮肉な流れをあざ笑う流れでラストを迎える。そして、エミが教師として残る、退職させられる、さらにエミがヒーローコスチュームで変身して男たちに大人のおもちゃを咥えさせるという三つのエンディングで映画は終わる。

 

コロナ禍ということを正面にして、全員がマスクをしているし、言いたい放題の差別セリフが飛び出すのだが、爽快感よりも、呆れ感の方が前面に出る。映像表現としてはこれはこれで面白いのですが、果たして、最高賞をとらせて然るべきなのだろうかと思わなくもなかった。