くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「太夫さんより 女体は哀しく」

太夫さんより 女体は哀しく」

さすがに日本映画黄金期の名作だけあって、本当にいいものを見たという感動に包まれました。京都島原遊廓を舞台に繰り広げられる群像劇で、誰に焦点を置いた物語では無いですが、太夫たちの悲哀が見事に描かれています。クライマックスの、古式通りの太夫道中のシーンは圧巻で、これを見るだけでも値打ちのある作品でした。おそらく二度と敵わないシーンだと思います。監督は稲垣浩

 

戦後間も無くの京都島原遊廓、一軒の遊廓宝永楼の主人おえいは外の騒がしい様子に気を揉んでいた。遊廓のそばのガス工場でストライキが起こったのだという。共産党員をまだまだ疎ましく思っていた時代、共産党員だという客光太郎に贔屓になっている玉袖は客を送り出していた。そんな玉袖は、太夫たちの労働環境に物もうさんとおえいに要求書などを出すが、ベテランの仲居のお初に言いくるめられてしまう。そんな頃、妊娠してしまった喜美子は、夫に騙されて宝永楼に売り飛ばされてやって来る。何事にも鈍臭い喜美子だが間も無く赤ん坊を産み、一人前の太夫になっていく。光太郎は別件で警察に逮捕されてしまう。

 

玉袖は、ちりめん丼屋の番頭の佐七に見受けされ幸せに暮らし始める。何事にも要領よかった深雪は、近くにできた洋風のバーに行ってしまう。昔のようにがんじがらめにして太夫たちを働かせている時代とは違い、世の中は明らかに変化しつつあった。おえいも昔の情夫で、輪違屋の主人になっている善助とデートをしたりもしていた。映画はそれぞれの太夫たちのドラマを描きながら、次第に変わっていく一歩手前の遊郭の姿を群像劇で描いていきます。

 

そして、観光の必要もあり、長らく廃れていた太夫道中を再現するという企画が持ち上がり、遊廓内は大騒動になる。そして古式同様にしきたり通りに太夫道中が行われる。誇らしげに練り歩く太夫たちだが、一方で、過去の遺物だという視線も浴びるようになっていた。そんな人混みに、玉袖は、佐七との幸せを壊しにきた光太郎を刺殺し、自らも首に包丁を当てる。玉袖は一命を取り留め病院にいた。おえいも喜美子も見舞いにやって来る。夜明け、島原遊廓の一日が始まって映画は終わっていく。

 

とにかく、今や再現できないシーンの数々に引き込まれてしまう名編で、しかも役者陣の層の厚さと、丁寧に描かれていくそれぞれの人間ドラマが秀逸。カメラも美しく、まさに日本映画黄金期の名作という映画でした。