「ラストサマーウォーズ」
ほのぼのしたお子様ローカル映画ですが、少ない予算で一生懸命映画を作っている爽やか感満載の作品で、そのひたむきさがとっても気持ちの良い映画でした。監督は宮岡太郎。
小学校最後の夏休みが迫ったある日、教室で、主人公陽太が密かに恋焦がれる明日香が夏休み中に引っ越しをし、海外に行くという二つの噂話を耳にする。陽太は思わず明日香を追いかけ、自分の映画に出て欲しい、ヒロインになって欲しいと声をかけてしまう。と言っても陽太は映画は好きだが映画の撮り方までは全く知らず困ってしまう。しかし、担任の先生が映画マニアであったことから、基本的なやり方を教えてもらい、陽太はクラスメートを集めて撮影を始める。
あとは、普通の流れの如く、親たちの妨害を乗り越えて映画は完成する。そして夏休みが終わった日、明日香は普通に登校して来る。海外へ行くというのはただの旅行で、引っ越すのは学校の近くに家を建てて引っ越しただけという落ちで、クラス中が陽太の映画をタブレットで見る場面でエンディング。まあほのぼのしたラストシーンです。
クライマックス、なんとか最後のシーンを撮り終えるために陽太たちが親たちを遮りながら撮影する場面で、陽太の兄が和太鼓を打ち鳴らすとってつけたようなシーンがあるが、これが映像作りということで、十分に楽しめる。主人公よりも脇役の子役に力を入れた配役も良かった。低予算ではあるが工夫を凝らして仕上げたのはさすがにプロの作品と言える一本でした。決して完成された映画とは言えないけれど、一生懸命さを感じられる気持ちのいい映画でした。
「アトランティス」
2025年終戦直後のウクライナを舞台にした2019年の作品というなんとも不思議な映画です。シンメトリーな画面と長回しを徹底した映像で淡々と描く物語はある意味単調でしんどいですが映画のクオリティはなかなかのものでした。監督はバレンチヌ・バシャノビチ。
サーモ映像のような画面で死体を運んできたらしい兵士たちが死体を埋葬しているのを真上から捉えて映画は幕を開けてタイトル。主人公のセルヒーは、埋葬された兵士の遺体を検死している。次々と運ばれる、あるいは現場で検死を繰り返している。時は2025年、ロシアとの戦争が終結し、戦争の傷跡が残る建物を見て回るセルヒーは、外で地雷を踏んでしまった車を見つけ、中から一人の女性カーチャを助け出す。
シンメトリーな構図と長回しで淡々とセルヒーの姿を捉えるのを繰り返す。回復したカーチャを車で送っていく途中車が故障する。カーチャとセルヒーは、お互いに心が通じ合い、間も無く体を交わす。こうして映画は終わっていきます。
大きな物語のうねりはなく、主人公が淡々と兵士の死体を調べる様を描くのみの作品ですが、徹底した構図とカメラワーク、それを生かすための美術は、なかなかのクオリティです。ただ、退屈な映画です。
「リフレクション」
2014年ロシアによるクリミア侵攻後の物語で、ウクライナ市街がまさに近代的な繁栄に彩られているかに見える景色が複雑な気持ちにさせます。「アトランティス」同様にシンメトリーな構図と長回しを徹底した映画作りですが、物語が異様なうねりと不気味な空気感が漂うのはなんとも独特の映画でした。監督はバレンチヌ・バシャノビチ。
主人公で医師のセルヒーが、娘ポリーナの何やらシューティングゲームの場所にやって来るところから映画は始まる。建物内で擬似バトルをするスポーツのようなものらしく、ポリーナの母とセルヒーは別居しているようである。ポリーナは父が恋しくてセルヒーに懐いている。今の父はアンドリーという名前らしく、戦地へ出ていた。折しもこの年2014年ロシアによるクリミア侵攻が始まっている。
病院で仕事をしているセルヒーは、ある夜、飛行場へ向かう車の中でGPSが圏外になって道に迷ってしまう。そして、ロシアが占領するドンバス付近の共和国の敷地に近づいてしまい、捕虜として拉致される。医師であるということで、拷問した捕虜の生死を見極めるのに利用され始めるが、たまたま、アンドリーが拷問される現場に出会わし、瀕死で横たわるアンドリーを安楽死させてやる。
捕虜の死体はロシアの人道支援団体と称する焼却車で焼却しているのだが、セルヒーはその担当者に金を与える代わりに郊外に埋めて欲しいと依頼する。一方、捕虜交換の対象者に選ばれたセルヒーは無事ウクライナに戻って来る。
アンドリーの安否を気遣う元妻やポリーナと生活する中、間も無く郊外に埋めたアンドリーの遺体が発見される。ポリーナはセルヒーの家で体操をしている時に窓ガラスに鳩がぶつかって死んでしまい、生き物の生死にこだわり、鳩の死骸をセルヒーと焼いてやる。やがて、元妻、ポリーナとの絆を改めていき映画は終わっていく。
「アトランティス」に続く物語のような一本で、画面の構図やカメラワークが全く同じなので混同してしまいます。物語の展開は、ポリーナの落馬や、セルヒーが野犬に襲われるエピソードなど、ややエピソードのてんこ盛りになって間延びしてしまいますが、クオリティはなかなかのもので、映像作品として見応えは十分な一本でした。