くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「七人樂隊」「耳をすませば」(実写版)

「七人樂隊」

七人の香港の監督が描くオムニバスドラマで、1950年代から未来までを描く。それぞれの個性というより、それぞれが香港へ想いを寄せる姿を描く感じの映画でした。

稽古 サモ・ハン監督

必死にカンフーの稽古に励む若き日のサモ・ハンをモチーフにした作品で、ある意味微笑ましい一本。

校長先生 アン・ホイ監督

教育熱心な校長と彼を慕う女教師ウォン、そして彼に感化される教え子達。やがて時は経ち、老年となった校長先生だが、ウォンは病で亡くなり教え子達は校長先生を誘ってウォンの墓参りをする。心温まる作品。

別れの夜 パトリック・タム監督

若き恋人達、女性は香港を離れるのか恋人との最後の一夜を過ごそうとするが、男は、自分を捨てて身勝手な行動だと責める。しかし、結局二人は体を合わせる。

回帰 ユエン・ウーピン監督

カンフーの選手権で優勝したこともある老人のところへ孫が訪ねてくる。孫はいかにも今時の若者で、間も無く香港を離れる。香港を去る孫娘を送り出し、時が経つ。老人は戻ってきた孫娘と再会する。

ぼろ儲け ジョニー・トー監督

香港の飲食店で、大儲けを夢見て株価や不動産価格に一喜一憂する市民達の姿をコミカルに、また皮肉まじりに描く。

道に迷う リンゴ・ラム監督(遺作)

香港の姿が様変わりし、子供達と待ち合わせするのだが、道に迷ってしまう父の姿。時が経ち、時代が移り変わっていく香港を描写していく。

深い会話 ツイ・ハーク監督

精神病院で患者と医師が面談をしている。それを見ている二人の医師、実は患者と医師は本当は逆の立場なのだと呟く。面談が終わり医師と患者は出ていくが、二人を見ていた二人の医師も実は患者。さらにそれを外から覗き見る大衆がいて、彼らが賞狙いの作品だなと騒いで映画は終わる。

それぞれの話が古き良き香港映画のようで、ノスタルジックでさえあるが、古き香港映画は過去のものなのかというどこか一抹の思いが伝わらないわけでもない。そんなオムニバスドラマ集でした。

 

耳をすませば」(実写版)

アニメ版の知名度は今更なのですが、それはさておいて、とっても丁寧に書かれた脚本と演出、さらに役者陣の演技にラストまで引き込まれて泣いてしまいました。映画の出来不出来以前に、私はとっても良かったです。原作とアニメ版は中学時代の物語ですが、それを10年後に膨らませたオリジナルストーリーで、決して完成度の高いストーリーではないのですが、演技演出とそれに応えた俳優さんに拍手したいです。監督は平川雄一朗。

 

小さな編集者に勤める主人公雫が、中学時代の思い出の曲を口ずさむところから映画は幕を開けます。時は1999年。そして1989年に遡ります。中学時代、大の本好きだった雫は、いつも図書館で借りる本の貸し出しカードに書かれた聖司の名前が気になっていた。そしてある時、たまたま友達の夕子とおしゃべりしていて借りた本を忘れたことから、それを見つけた聖司と知り合うことになる。この辺りはアニメ版のストーリーで、電車の中で見かけた猫を追っていくと地球館という雑貨屋に辿り着き、そこでバロンという猫の人形と出会う。

 

映画は、出版社で奔走する雫の姿、そして十年前チェロの勉強にイタリアに旅立った聖司の姿、さらに遠距離恋愛で雫と聖司が交際しているという話を絡めて、過去と現代を交互に描いていきます。自分の心を素直に出せない雫は仕事で担当の作家に嫌われて落ち込み、イタリアの聖司の元を訪ねる。遠距離恋愛の寂しさはそれとなく癒やされるが、聖司が遠い存在になったように感じた雫は聖司と別れた風な態度で日本に帰ってくる。一方、聖司もかつて夢見ていたチェロ奏者の夢がどこか違っている気がして悩んでいた。聖司の苦悩場面の描写はやや弱いのは残念です。

 

イタリアから帰ってきた雫は、仕事にも改めて取り組み始める。夕子が結婚することになり、雫も今の部屋を出ることを決めたが、そんな雫に聖司からの手紙が届く。中学時代、聖司は最初から雫が好きだったことなどが綴られた内容に、雫はもう一度小説を書く夢に向かい始める。そして最初に読んでもらいたいと聖司に手紙を出す。

 

小説が完成した朝、聖司が雫に目の前に現れる。そして、かつて中学時代お互いが告白した丘に向かう。イタリアで勉強してきたものの何かが違うと感じる、それが日本でチェロ奏者として世界を目指すことを知ったと告白、さらに雫にプロポーズする。こうしてハッピーエンドで映画は終わります。

 

非常にストレートなお話なのですが、そして良くある展開なのかもしれないのですが、原作の味をさりげなく残した上で、オリジナルの物語に未来への再生のドラマを盛り込んだ脚本、それを倍以上に昇華させた役者陣の力量と監督の演出に拍手。決して完成度が高いわけではないかもしれないけれど、私は素直に泣いてしまいました。好きな映画です。