「暴力脱獄」
一見どうやって展開していくのかと思いましたが、どんどん映画が動き出していって、只者ではない流れに乗ってしまうと、あとは圧倒される連続になっていきます。評価されるだけはある傑作でした。これが映画を作るということですね。監督はスチュアート・ローゼンバーグ
酔っ払ってパーキングメーターを壊しているルークの場面から映画は幕を開けます。駆けつけた警官に逮捕され、留置所ならぬ作業場に送り込まれる。収監された囚人達は道端の草をただひたすら刈り取っていく。このルーティーンな映像を繰り返しながら、物語らしからぬストーリーが進む。
ルークは囚人の中で一際でかいドラグラインにボクシングで挑戦し、コテンパンにやられる。倒されても倒されても起き上がるルークにドラグラインは一目を置くようになる。さらに、ポーカーで、無謀な賭けをしてさらに男を上げる。卵を50個食ってやると豪語し、ふらふらになりながらやりきったルークはすっかり囚人達から尊敬されるほどになってしまう。
体の不自由な母がやってきて、家の跡継ぎは決めたと言って唯一の遺産でルークはパンジョーをもらう。間も無くして母が亡くなるが、身内に不幸があると脱走するからと懲罰房に入れられる。理不尽な処置ながら囚人達は何も言えない。出てきたルークは床下を抜けて最初の脱走をする。間も無くして捕まってしまうが、続いて、道路作業の途中で再度脱走、今度はうまく逃げたかと思われる。
ドラグライン宛に、よろしくやっている写真が送られてきて、囚人達もルークをヒーローのように扱うが、結局、再び捕まってしまう。看守たちはいじめに近い態度で執拗にルークを痛めつけ、とうとうルークは改心したと絶叫して許してもらう。看守達に媚を売っているような振る舞いをし始めるルークだが、今度は作業の途中でトラックを盗んで脱走。その際、ついドラグラインもトラックに乗ってしまう。
夜、ルークはドラグラインと別れて、寂れた教会へ入るが、しばらくしてパトカーがやってくる。ドラグラインが、話をつけたからとルークのところへくるが、窓から外を見たルークに銃弾が浴びせられる。瀕死の状態のルークを抱えてドラグラインは警官達の前に出ていき、ルークは救急車で警察病院へ搬送される。その後はわからないまま、ドラグライン達は以前と同じく道路の脇の草刈りをしている場面で映画は終わる。
淡々としたリズムの中に、主人公の人間ドラマが沸々と描写されていく。一見、囚人達の心がルークに傾いて暴走するかに予測されるが、そんなドラマティックなものはなく、現実はこうだと言わんばかりに普通の日常に戻るラストが恐ろしくすごい。これが映画史に残る一本と言える所以でしょう。
「明日に向っ撃て!」
10年ぶりくらいの見直しですが、まあこの手の名作は何回見ても損はないですね。新たな発見こそなかったものの、やはりいい映画です。青春の一瞬というか、人生の一瞬を捉えたかのような瑞々しさに感動してしまいました。監督はジョージ・ロイ・ヒル。
ホームムービーのようなレトロなフィルム画面から映画が始まり、ブッチ・キャシディ、サンダンス・キッドの強盗団の活躍が説明されて、この日も次の強盗ターゲットに向かうブッチ達の姿へ移って本編。しかし、部下による裏切りなども生まれて、彼らもそろそろ晩年に近いと自ら感じている。凄腕の保安官に追われて方法の体でサンダンスの恋人エッタの元に逃げ込み、エッタを伴って南米ボリビアを目指すが、着いたところはアメリカとは比べ物にならない寂れた田舎町。
一時は三人で銀行を襲ったりしたものの、まもなくしてエッタは彼らの元をさる。ブッチとサンダンスは、山賊まがいのことをするものの何処か虚しさを感じる。そんな時。たまたま襲った馬を連れていて、どこかわからない村で突然襲われた挙句、軍隊まで動員され、二人は覚悟を決めて銃弾の中へ飛び込んで行って映画は終わる。
四十そこそこで死んだ二人ですが。当時は四十代なら人生の後半に近い。そんなさりげない寂しさも感じられる一本でした。やはり名作ですね。
「熱いトタン屋根の猫」
典型的な戯曲的ストーリー展開と、機関銃のような台詞の応酬の作品。テネシー・ウィリアムスらしい人間の愛憎劇を徹底的に追求しながら最後にふっと気持ちを和らげる手法は見事だし、役者達の熱演にも頭が下がります。映画の密度、物語の緻密さに息苦しくなる作品ですが、その分見応えが半端ではありませんでした。監督はリチャード・ブルックス。
深夜、競技場にハードルを並べるブリック。誰もいない観客の声援の中飛び始めるが、すぐに倒してしまい足を怪我する。カットが変わると、今日はブリック達の父ビッグ・ダディの誕生日でかつ病院での検査結果を聞く日だった。兄のグーパーと妻のメイは仰々しくビッグ・ダディを出迎えようとしているが実は遺産目当てだった。一方ブリックは、過去のスポーツでの挫折と親友の自殺を引きずっていてアル中になっている。妻のマギーとも険悪な関係のまま、言い争いが絶えない。しかし、ビッグ・ダディはそんなブリックとマギーが可愛く、遺産は彼らにと密かに考えている。
ビッグ・ダディが帰宅してパーティが開かれるが、ブリックは部屋から出ようとせず、マギーと喧嘩するばかり。実はビッグ・ダディの病気は末期の癌で余命いくばくもない状況だった。グーパーらは知っていたが本人には隠していた。映画はブリックとマギーの喧嘩、何かにつけ取り入ろうとするグーパー夫婦、どこかおかしいと気づくビッグ・ダディの姿を延々と会話劇として描いていく。
剛を煮やして帰ろうとするブリックをビッグ・ダディが止めに入り喧嘩になった拍子にブリックは病気のことを口走ってしまう。最後を知ったビッグ・ダディは地下室に篭る。一方グーパー達は母に、遺産に関わる書類のサインを巧みな嘘で求めてる。そんな虚偽が氾濫する現状を必死で作ろうとするマギー。さらに地下室ではブリックが切れて暴れ回るが、苦しみ出したビッグ・ダディは、なんとか堪えて一階へ登ってくる。そこで、グーパー達の醜さを知り、必死でつくろうマギーを見て、ブリックの心も緩み始める。
ビッグ・ダディは、ブリック達に資産の見学に行こうと言い、マギーはつい妊娠していると言ってしまう。それは嘘だったが、その余りの純真な心にビッグ・ダディも信じ、ブリックは絆され、寝室に誘って映画は幕を閉じる。
耳が痛くなるほどに叫び回るような台詞の応酬と、ブリックのだらだら感、グーパー夫妻の胡散臭さ感がラスト近くまで鼻についてしまいますが、それくらい密度の高い作品に仕上がっています。好きか嫌いかというと難しいですが、見て損のない傑作でした。