くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「トゥモロー・モーニング」「そばかす」「かがみの孤城」

「トゥモロー・モーニング」

曲もいいし、役者の歌唱力も抜群で、見ていてミュージカルの根本的な面白さは満喫できるのですが、ちょっとカット割りが良くないために映画としてテンポに乗ってこず、全体に緩急が見えてこない。ただ、現代と十年前を巧みに切り返す展開はちゃんとわかるように色分けされた演出がされているし、それとなくハッピーエンドが予想できる心地よさも良かった。映画としてはそれほど出来は良くないけれど、楽しいミュージカルでした。監督はニック・ウィンストン。

 

一人の男ウィルが、夜、建物から出てくる。彼は十年寄り添った妻と離婚を決意し、明日がその審理の日だった。二人にはザックという男の子がいた。ウィルはロンドン橋を望む河辺にやってきて、目の前に十年前、妻との結婚式を明日に控えた夜の二人に出会うところから物語は幕を開ける。全編歌によるセリフの応酬というフルミュージカルで、現代と十年前を繰り返しながら、ウィルとキャサリンの出会いから別れる寸前までを描いていく。

 

キャサリンは、画家として成功、一方ウィルもコピーライターとしてそれなりに成功していた。何かにつけて喧嘩をするようになった両親を見て悲しむザックの存在が、ウィルもキャサリンも辛いものがあった。どうして二人がいがみ合うようになったのかの部分がわかりにくいのは、とにかく曲の羅列で次々と展開していくためだろう。

 

明日に結婚を控えた夜、キャサリンは妊娠していることを知る。それをウィルに伝え、ウィルも大喜び。いっぽう十年後、離婚後はザックはキャサリンと一緒に暮らすことになるらしいが転校を伴うこともあり、躊躇していた。ザックはキャサリンに無断で深夜、自転車で父ウィルのところへ行ってしまい、ウィルもキャサリンも心配する。

 

やがて、審理の場、ザックを学校へ送って行ったウィルは、ザックが車から降りる時にザックに、なんとかならないのかと詰められる。ウィルは少し遅刻して、裁判所に着く。キャサリンと目を合わせ、それぞれがずっと結婚式の前夜のことを考えていたと告白、やり直そうという。場面は結婚式の日、友人たちと一緒に踊り回るウィルとキャサリンの姿で映画は終わる。ハッピーエンドです。

 

淡々と曲が進んでいく流れにちょっと緩急がついたらもっといい映画になるし、胸に迫ってきたかもしれないのが少し残念。でも楽しかった。

 

「そばかす」

凡作ではないし、面白い映画なのですが、中盤から後半にかけて微妙に歪みが見えてくる。何か一本筋を通した物がくっきり見えたら、素晴らしい秀作になった感じです。でも、なかなかの映画ではありました。監督は玉田真也。

 

海岸で一人座り込んでいる佳純の姿から映画が始まり、カットが変わり、合コンでしょうか、男性二人と女性二人の飲み会から物語は幕を開ける。この一人が主人公佳純である。どこかギクシャクした雰囲気になって、「宇宙戦争」という映画のトム・クルーズが走るのが面白いなどと言ってしまう。その場は終えて、一人いつもいくラーメン屋でラーメンを食べ、自宅に戻る途中、幼馴染の八代と会う。自宅に戻れば、母がやたら結婚しろとせっついてきてうんざり、妊娠している妹の睦美とふざけて一日が終わる。

 

母は、勝手に見合いを決めてしまい、佳純を騙して見合いの場に連れていく。そこで出会った男性木暮は、恋愛とか結婚とかどうでもいいと言われて佳純と気が合う。しかも木暮は佳純がよくいくラーメン屋の店員だったことから急接近する。二人でラーメンを食べに行き、その帰り木暮に迫られた佳純は、自分は恋愛ができないし性的な欲求も感じないと告白して木暮に嫌われてしまう。そんな佳純は八代に誘われ保育所で働くようになる。しかも八代はゲイだと告白する。

 

気を紛らわせるためにいつもいく海岸で一人座っていると、中学時代の同級生真帆に声をかけられる。真帆に誘われてキャンプに行き、二人は急速に親しくなる。真帆は元AV女優だったらしく、彼氏と別れて静岡に来たのだと言う。佳純は真帆に協力してもらい、保育所でやるデジタル紙芝居のシンデレラの声をして欲しいと頼む。二人で作りはじめるが、普通のシンデレラでは面白くないと、男性に媚びないシンデレラを描いて、保護者に顰蹙を買う。その場に県会議員でもある真帆の父もきていた。

 

その事件を聞いた真帆は真帆の父の街頭演説でくってかかる。そんな姿を見た佳純は、真帆に一緒に住もうと提案。二人で部屋を探し始めるが、まもなくして真帆から結婚することになり東京へ戻ると言われる。佳純は真帆の結婚式に呼ばれる。家では睦美からレズではないかとさえ言われるも、鬱で自宅にいる父はいつも佳純の味方で、佳純が音大時代からしていたチェロを手入れしていた。

 

佳純は真帆の結婚式でチェロを引くことにし、それを最後にすると父に告げる。翌朝、いつもより元気な父は、救命士の仕事を辞めてやりたいことをしてみると宣言する。真帆の結婚式で、佳純はチェロを奏でる。

 

保育所で新入りの天藤に映画に誘われるが、その帰り、自分は恋愛に興味がないと告白、天藤は、佳純のシンデレラが好きだったのだと答える。佳純は自分と同じ考えの人間がいることでなんだか嬉しくなり、街を駆け抜ける場面で映画は終わる。

 

エピソードが次々と前に進んでいくのですが、そのどれもが同じ配分で強弱がないために、肝心のメッセージが浮き上がってこない。舞台劇と映画との違いをもう少し上手く処理すればいい作品に仕上がる気がするのが微かに残念ですが、いい映画でした。

 

かがみの孤城

原作のファンとしてはかなり不安でしたが、十分期待通りの出来栄えでした。原作の複雑な真相を鮮やかにラスト処理した脚本は絶品。アニメの技術的には実に素朴な作りですが、映画は技術ではないと言わんばかりの丁寧な演出と、ストーリー展開のテンポの良さは最高でした。監督は原恵一

 

中学生の主人公こころは不登校で、この朝も、突然お腹が痛くなる。そんなこころの気持ちを汲んでかどうか母は事務的に学校へ連絡をするところから映画は始まる。クラスメートのモエちゃんが学校のプリントなどを届けてくれるが、こころは引きこもった毎日である。そんなこころの部屋の鏡が突然光り、こころは不思議な城に引き込まれる。目の前にいるのは女の子の格好をし狼の仮面を被ったオオカミさまと言う少女だった。そしてこころ以外に六人の中学生もその城に連れてこられていた。時は五月だった。

 

オオカミさまは、この城で願いを叶える鍵を見つけたら一つだけ願いが叶うと言う。しかし、五時までにこの城を抜けないと狼によって食べられるという。期限は三月三十日で、この日までに鍵を見つけて願いを叶えたら、ここでの出来事は全て七人の記憶から消えてしまう。こころたちは、訳もわからないままこの城を行き来するようになるが、七人には何か謎めいたものが見え隠れしていた。物語は原作のエッセンスを巧みに取り出してテンポよく展開していくので、どんどん引き込まれていきます。

 

時が過ぎ、その間に、こころのことを気にかけてくれる喜多島先生のエピソードや七人の学校での生活が描かれていく。三月の期限が迫った日、こころがモエちゃんに誘われて家に行って、いつもの鏡を抜けられなかった時、アキがルールを破ってオオカミに食べられたというメッセージが半分破れた鏡から届く。こころは急いで城に入り、鍵の謎を解く。そして願いの鍵を手に入れ、アキを元に戻してほしいと願う。無事七人が元に戻ったが、そこにはさらに真相が待っていた。

 

七人は雪科第五中学の生徒だが皆時代が違っていた。リオンの姉はリオンが幼い時に病気で死んだが、その姉が大事にしていたドールハウスの城が七人が招待された城だった。そしてオオカミさまこそ、リオンの姉だった。それぞれの謎が一つづつ明らかになり、こころが頼る喜多島先生もアキの成長した姿だったりする。こころが意を決して学校へ向かうと、出迎えたのは七人のうち唯一こころと同じ歳のリオンだった。こうして映画は終わっていきます。

 

原作を知るものにも十分期待に応える出来栄えで、シンプルな絵作りが余計な感情を生み出さずに素直にストーリーに入り込める。アニメは技術だけではないと言わんばかりの作劇のうまさにラストは素直に涙してしまいました。いい映画でした。