くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「殺人狂時代」(デジタルリマスター版)「黄金狂時代」(デジタルリマスター版)「チャップリンの給料日」「ドリーム・ホース」

「殺人狂時代」

テレビで見ただけの作品でしたが、これはまさしく名作、傑作です。物語の構成も見事なのでサスペンスとしても一級品で面白いし、しかも人間ドラマとして主人公の心の変遷も見事に描かれている。さらに毒の聞いた風刺も効いていて、似た話の「後妻業の女」なんて子供騙しに見えてしまいます。素晴らしい映画です。監督はチャールズ・チャップリン

 

墓地、主人公ヴェルドゥの墓がある場面から、カットが変わり南フランスワイン農家の家、セルマという娘が最近、一人の男性と結婚をした後行方不明になっているというのを家族が話している場面から映画は始まる。カットが変わると、一人のいかにもプレイボーイ風の男が庭で薔薇をいじっている。傍の焼却炉から煙が出ていて、もう三日も燃えているというメイド達の噂の声。この家を買いに一人の夫人が現れる。庭のバラを褒められたので、この男は強引に愛を打ち明けるがその場は逃げられてしまう。この夫人の心を手に入れるため、毎週薔薇を送るように画策する。明らかにこの男が裕福な女性を手玉に取っては金をせしめている悪人だとわかる。このオープニングが見事。

 

投資先のバロン証券から、至急不足分の金がいるからと連絡が入り、この男はある夫人の家に行き、銀行が危ないからと無理やり金を引き出させ、翌朝、何やら殺害したようなシーンが続く。この男は自宅に戻ると、車椅子に乗った妻と可愛い男の子がいる。銀行員という夫だが、無理をしているらしく、後二、三年で別のことをすると言っている。実はヴェルドゥは三十年勤めた銀行を不況でクビになり、裕福な女性を騙しては金を手にして妻子を養っていた。

 

次に、船長をしているという出立になったヴェルドゥはある夫人の元へ行く。そこで金を手にしようとするが用心深くてうまくいかない上に、ちょっと胡散臭いメイドがいて邪魔をされる。ヴェルドゥは、飲んだ後一時間経ったら心臓麻痺になる薬の調合を教えてもらい、まず通りがかりの若い婦人を家に招いて、薬のテストをしようとするが、すんでのところでこの婦人に心が動かされ断念する。一方、薔薇を送っていた夫人からようやく返事が来る。そんな時、一人の刑事がヴェルドゥをつけていて、逮捕するべく家にやってくるが、護送される前に飲ませた毒入りワインが列車の中で効いてきてヴェルドゥは難を逃れる。

 

船長の姿であっていた夫人を殺そうと毒入りワインを持ち込むが、メイドがたまたま、ヴェルドゥの持ち込んだ瓶を割ってしまい、夫人は難を逃れ、ヴェルドゥはそのまま田舎で夫人とバカンスする羽目になる。ヴェルドゥは夫人を湖で突き落として殺そうとするが結局うまくいかない。断念したヴェルドゥだが、薔薇を送った夫人に連絡をし返事が来て、再会、強引に結婚にこぎつけ、結婚式となる。そこへ、湖で殺そうとしていた夫人と鉢合わせして、ヴェルドゥは式場を逃げ出すことになる。

 

怪しい言動を繰り返すヴェルドゥは、ついに警察から監視されることになる。折しも世界恐慌となり、ヴェルドゥが投資していた証券会社は破綻し、ヴェルドゥは無一文になる。妻も息子も亡くなり、希望もなくなって通りをふらふら歩いていて、かつて心が動かされた若い婦人が立派な車で通りかかり、ヴェルドゥと再会。あの時のお礼をしたいとレストランに行く。若い婦人はあの後、軍需産業で大成功した男性と結婚したのだという。そのレストランで、セルマの家族と偶然再会、警察沙汰となる。ヴェルドゥは、若い婦人にもらった名刺を破り捨て、自ら警察の前に出て逮捕される。

 

公判で、潔く罪を認め、死刑宣告となる。有名な「一人を殺せば殺人で大量に殺せば英雄」というセリフを最後に司祭に告げ、死刑台へ向かうヴェルドゥの姿で映画は終わる。

 

殺人シーンが次々とサスペンスフルに変化していく一方で、若い婦人と出会い、心が少し変化、その後の大団円へ大きく畝っていくドラマティックな展開も素晴らしい。サスペンスとしても一級品かつブラックコメディとしてもずば抜けた出来栄えに見事な映画でした。

 

「黄金狂時代」

四十年ぶりくらいの見直しでしたが、こんなにお話が凝っていたのかと改めて感激。靴を食べるシーンやパンを使ったダンス、崖から落ちかける小屋のドタバタなど名シーンはほとんど覚えていました。やはり名作でしょうね。監督はチャールズ・チャップリン

 

アラスカでの金採掘ブームの場面から主人公チャーリーが雪山を進むカットへ。熊との散歩シーンから、吹雪に見舞われて一軒の小屋にたどり着く。そこには悪漢ラーセンがいて、ドタバタしているところへ、金鉱を発見したものの吹雪を避難してきたジムがやってくる。食料が尽きて、それぞれが疑心暗鬼になるコミカルなシーンの後、ラーセンが食糧調達に出かけて、彼を追ってきた警官隊を殺して食料を手にして、その帰りにジムの金鉱を発見、

 

一方、迷い込んできた熊を食べて落ち着いたチャーリーとジムはそれぞれ別れて帰る。ジムが金鉱に戻るとラーセンがいて、争いの末殴られて気絶。ラーセンは下山途中崖下に落ちて死亡。ジムは記憶を失って麓の村に降りてくる。一方チャーリーは麓の村で美しい娘ジョージアと出会い恋に落ちるが、からかっただけのジョージアは、チャーリーを相手にしない。それでも真面目にジョージアに尽くそうとするチャーリーは、探検家の家で留守番をしていてジョージアと再会、大晦日にパーティを約束するがジョージアは本気でなく、チャーリーのところへ行くのを忘れる。準備していたチャーリーはショックのままバーにやってくると、金鉱のありかを探していたジムと再会、二人はかつての小屋に向かう。

 

そこで吹雪に会い、小屋が崖から落ちそうになるが、落ちた後に金鉱の場所が見つかり二人は大金持ちになる。一等船室でくつろぐチャーリーとジム。三等船室にはジョージアがいて、密航者を探す役人達もいた。たまたま写真を撮るために昔の格好をしていたチャーリーは階段を踏み外して三等船室の甲板に落ちジョージアと再会するが、密航者を探していた役人に咎められる。しかし駆けつけたジムらにすぐに疑いを晴らされ、ジョージアとともに一等船室へ上がっていくシーンでエンディング。ハッピーエンドです。

 

独特の風刺はほとんど見られない良質のスプラッターコメディ。チャップリンの名人芸を堪能する作品です。面白かった。

 

チャップリンの給料日」

給料日の一日を描いた短編作品で、チャップリンのドタバタ劇を堪能する一本でした。監督はチャールズ・チャップリン

 

建築現場で働くチャーリーの軽妙なコミカルシーンから映画は幕を開ける。その後給料をもらって、財布を握る妻の元に帰る。途中、仲間とすっかり酔い潰れて朝帰りしたチャーリーは、妻に責められながらも最後はハッピーエンド。軽いタッチの短編コメディでした。

 

「ドリーム・ホース」

いい映画なのですが、出だしのクオリティがどんどん俗物に変わっていく展開がちょっと残念。音楽センスというか映像のリズムセンスのなさがこういう作品になったのでしょう。ただ、物語の構成はしっかりしているし面白い。なので、ラストまでどんどん引き込まれていくので、とっても好感。監督はユーロス・リン。

 

暗闇、馬の息遣いから、ウェールズの片田舎の夫婦の寝室、ジャンの夫ブライアンのいびきに画面が繋がる。早朝に起きたジャンはパート先のスーパーへ向かう。途中、街にポニーがうろついていたり、動物や鳥がうろついているいかにもない片田舎。いつものように掃除をしてレジ打ちをするジャン。夜はバーで働いている。ここまでのオープニングは秀逸です。バーでは賑やかに仲間と酒を飲むハワードという男達の姿に目が止まる。最近、店に来るようになったらしく、かつて馬主組合の一員だったが、失敗して破産した会計士なのだという。興味を持ったジャンは馬主になることを考える。

 

一週に10ポンド集めて資金を募り、牝馬を手に入れて子馬を産ませて調教すればいいと計画を立てる。ハワードにもアドバイスをもらうようになり、村のメンバーも集まって具体的に動き始める。やがて牝馬を手にして種付したものの、子馬を産んだ後母馬は死んでしまう。子馬はドリームアライアンスと名付けて育て、名調教師ホッブスにあづける。そしてまず地方でのレースに出るが、スタート遅れしたにも関わらず大健闘したドリームアライアンスは、次々とレースに出て少しずつ順位を上げていく。

 

ところが、大レースに出た時に、大怪我をしてしまう。その場で撃ち殺すかどうかという判断をホッブスに迫られるが、一か八かで手術にかけ、一晩かけてとりあえず手術を成功させる。そして時が経ち、奇跡的に蘇ったドリームアライアンスはホッブスの提案でウェールズ1の大レースに出ることになる。そして見事優勝する。こうして映画は終わっていきます。

 

ジャンを始め、メンバー達が、一頭の馬によって希望を見出していくという肝心のドラマ部分があまり描けておらず、無用な歌のシーンが作品のレベルを下げてしまっていますが、馬の活躍を中心にした作劇自体はそれなりに成功しているかと思います。オープニングの絵作りは面白いのにどんどん平凡になっていくのはちょっと勿体無い。でもいい映画でした。