くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヒトラーのための虐殺会議」「母の聖戦」

ヒトラーのために虐殺会議」

不謹慎かもしれないが、非常に面白かった。人間が狂っていく様が見事に描かれている。第二次大戦下、ユダヤ人絶滅政策を決定した90分のヴァンゼー会議のアドルフ・アイヒマンが記録した議事録に基づいた作品ですが、会話劇を主体にしている展開が素晴らしく、それぞれの高官達の丁々発止の保身の言い争いから、一気にユダヤ人大虐殺に誰もが正義感を持って賛成する下が見事です。傑作とは言わないまでも、映画としてなかなかの仕上がりの作品でした。監督はマッティ・ゲシュネック。

 

1942年1月、美しいヴァンゼー湖畔の別荘にナチス高官達が集まってくる場面から映画は幕を開ける。国家保安部代表ラインハルト・ハイドリッヒを議長に、軍人、役人を交えたユダヤ人問題の最終的解決=虐殺を決定するためだった。移送手段、収容方法、労働問題などそれぞれの立場で自身の利害を持ち出しながらの議論が次第に混沌としていく。それはまるでビジネス会議のような様相だった。

 

議長のラインハルトはそれぞれの意見を取りまとめながらも、立場を尊重するかのように議事を進めていくが、彼はこの会議は90分と最初から決めていた。意見が錯綜し、途中休息をして再開した後半、内務省のシュトゥッカーは、移送、収容する対象者の血の濃さによる選別の煩雑さを持ち出した末、断種処置を提案する。ラインハルトはシュトゥッカーを別室に呼び、お互いの忌憚ない気持ちを話し、議場へ戻る。そこで、非公式だと宣言した上で、最後の全員の危惧を聞き始める。突然、人道的な意見を持ち出すクロップファーは、殺戮によるトラウマなど、実行者達への危惧を話し始める。そこでラインハルトは議事録を取りまとめているアイヒマンに、それぞれの懸念事項を説明させる。すでに熟考し、計画を具体化していたアイヒマンは立て板に水を流す如く見事に計画を説明していく。このクライマックスが実に上手い。そして、議場のメンバー達は、いつの間にかユダヤ人大量殺戮が正義であるかのように納得し会議を終えてしまう。こうして何事もなかったかのようにメンバーは平然と議場を去って、誰もいなくなる場面で映画は終わる。

 

あまりにもビジネスライクな展開に唖然とする映画ですが、そこを狙った演出が見事で、特にアイヒマンの存在感が秀逸。映画の作りとしては相当に面白い一本でした。

 

「母の聖戦」

クオリティの高い映画ですが、いかんせん暗くて重い。それは意図したものだと言うのがラストでわかりますが、ひたすら主人公の葛藤にどんどん打ちのめされていく展開は相当に体力のいる作品でした。とは言っても、画面の色合いがガラッと変わって、救いのある?エンディングで、何とか気を取り直して劇場を出ることができました。監督はテオドラ・アイダ・ミハイ。

 

シエロが、娘のラウラに化粧してもらっている場面から映画は幕を開けます。ラウラはこれからリサンドロという恋人とデートの予定でそそくさと家を出る。その後、シエロが車を走らせていると、若者が乗った車に停められ、娘のラウラを誘拐したから近くのレストランに来いという。

 

シエロが行ってみると、若者は15万ペソの金と父親の車を持ってきたら娘を返すと言う。シエロは、リサンドロに連絡して、娘と会っていない事を確認し、別居している夫のグスタポを訪ね、ことの次第を話す。グスタポは若い愛人ロシと暮らしていたが、誘拐が日常茶飯事になっているメキシコで、犯人の言う事を聞くべきだとロシに言われる。

 

シエロは、グスタポから車を手に入れ、少し足りないが身代金を持って取引に行く。犯人たちは金を確認せずに去ってしまい、墓地で返すと言われ、シエロは待つもののラウラはいつまでも戻ってこなかった。この墓地のショットが美しい。さらに残金を要求されたシエロはグスタポに再度会いに行く。そこでグスタポの友人のキケが金を貸すと言い、その金を犯人に渡すが、やはりラウラは戻ってこなかった。

 

シエロは警察に行くが、誘拐事件が多すぎて相手にしてもらえず、仕方なく自分で情報を集め始める。そして、街を巡回する治安部隊に助けを求める。治安部隊の隊長ラマルケ中尉は、本来は出来ないが、秘密にする事を条件にシエロに協力する事にする。シエロの情報を元に犯人のアジトらしいところを襲い、首謀格らしい女二人を捕まえるもラウラの居所は見つからない。

 

そんな時、シエロは、キケが大量の買い物をスーパーでしているのを見かけ不審に思い後をつける。そしてキケも犯人の一人だと判断してラマルケ中尉の軍に襲ってもらう。しかし、キケは、捕まった建物の裏手に死体を埋めたと言う情報だけで、何も話さないのでラマルケ中尉は彼を銃殺する。

 

シエロはグスタポから、リサンドロが収監されたと聞き、刑務所に会いに行く。リサンドロは、ラウラを誘拐した組織に敵対する組織に入り、情報を集めていたのだ。そして、シエロに何かを耳打ちする。シエロはその情報で一人の女性に会いにいき、その女性をつけて、かつてシエロに接触してきた若者を見つける。そしてラマルケ中尉の軍に連絡し、その若者を逮捕してもらう。しかし、その若者はシエロに何も話さない。シエロはキケに聞いていた場所をグスタポと訪れ、穴を掘ってみる。そこは危険な場所だった。グスタポが掘っていくと、人に手を発見する。

 

警察が駆けつけ、隠れ墓地がある事を確認し、遺体や骨を掘り出しDNA鑑定を始める。時間がかかったが、シエロは警察に呼ばれ行ってみると、一本だけ見つかった肋骨の骨がラウラのDNAと一致したと告げられる。納得いかないままに、葬儀を済ませる。美しいメキシコの景色のインサートカットから、今まで暗い色調だった画面から打って変わって美しい色彩画面となり、グスタポと正式に別れたシエロが一人座っている。

 

彼女に当たる光もこれまでの光と違って美しい絵である。しばらくするとシエロは、彼方からやってくる何かを認める表情をする。誰かが近づいて来る様子から、シエロの表情が緩んで、やってきた誰かを迎えて暗転。果たして、ラウラが戻ってきたのかははっきり見せないが、おそらくハッピーエンドだと思いたい。こうして映画は終わる。

 

絵作りをストーリー展開に巧みに利用した演出が秀逸な一本で、ストーリーは非常に暗いし、シエロ以外の登場人物がほとんどクソばかりなので見ていて心が殺伐として来るが、時折、目を見張る美しいカットがあり、ここに何かがあると思いながら見ていると、ラストで、自分たちの心に光が当たるようにエンディングを迎える。なかなかクオリティの高い映画でした。