くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「詩人の血」「美女と野獣」(ジャン・コクトー版)「仕掛人・藤枝梅安」

「詩人の血」(4Kリマスター版)

トリック撮影を駆使して、映像で描く詩表現という感じのシュールな作品で、アヴァンギャルド映画の傑作の一本ですが、流石に明確な感想が書けるほど私の感性は研ぎ澄まされていないかもしれません。とりあえず見ました、という感じです。監督はジャン・コクトー

 

工場の煙突が倒される映像から、窓の外を眺める一人の男、彼は女性の顔の絵を描いている。こうして映画が始まる。中世ヨーロッパのかつらを被った彼の背中にも刺青がある。絵はイラスト調の線画である。絵を消そうと手でこすると手に唇が移る。来客があり、彼が迎えるが、握手をしようとすると手に唇がある。どうやら絵の中の女性の唇らしく、来客は帰ってしまう。男は水で洗おうとするが、唇は男に話しかける。傍の彫刻の口を手で塞ぐが、空気が欲しいという唇の言葉に窓の外に手を出す。

 

彫刻が鏡に飛び込めというので、傍にある鏡の中に男が飛び込むと、ホテルの廊下、次々と部屋をのぞいて行くと、両性具有の人物がソファに座っていたり、影絵をしていたり、空を飛ぶ練習をしている少女が天井を這ってみたりする。廊下の端まで行き、男はピストルでこめかみを撃つと、傷口から柊が現れる。そして再度鏡から元に世界に戻る。

 

外の階段下では雪合戦、一人の男が投げた雪玉で男が倒れて血を流す。そして死んだ男のそば、階段下にテーブルを置く。動き始めた彫刻とカードをしている。上の方に観劇場所があり、雪合戦からカードの様子を見物している人たちがいる。黒人の天使が現れ、死んだ男に覆い被さると消えてしまう。天使は再び階段を登って行く。彫刻が牛を引いて歩いて行く。場面が最初の男の部屋に戻ると彫刻が立っていて、その彫刻を叩き壊す、そして映画は終わりであると告げると、外の煙突が崩れ落ちてエンディング。

 

四つの物語で描かれる作品で、どう読み解くにかわからないのですが、ペンと紙をカメラに持ち替えて詩を描いたというもので、映像表現として鑑賞すべきものなのでしょう。

 

美女と野獣」(4Kリマスター版)

光と影を効果的に使ったファンタジックな画面がとにかく美しい。むかしむかしと始める御伽噺形式で始まるオープニングも素敵な一本で、物語はいまさらの話ですが、楽しめる作品でした。監督はジャン・コクトー

 

姉二人にすげない扱いを受けている末娘のベル。父は船を沈ませてしまって、大変な借金を負わざるを得なくなり困っている。そんなベルに兄の友人がプロポーズするがベルは受け入れられなかった。ある時、父は役所の帰り森で道に迷って、野獣が住むという城に迷い込んでしまう。そこで父は庭に薔薇の花を摘んでしまう。ベルが土産に頼んでいたものだった。怒った野獣は父を無事返す代わりに娘を一人よこすようにと命令し、ベルは父の代わりに野獣の城に出向くことにする。

 

野獣がよこした白馬に乗ってベルは野獣の城へ。光と影を使った美しい蝋燭の灯りの演出などが素晴らしい。ベルはそこで、姿は恐ろしいが心が優しい野獣の姿を見る。しかし、ベルは父が恋しくなる。そこで一週間の約束でベルは家に帰ることを許される。野獣は信頼の証として宝物をおさめた部屋の鍵をあづける。

 

ベルは自宅に戻るが、姉たちは野獣を殺して宝物を手に入れようと画策する。兄や兄の友人らは、ベルを連れ戻すために来た白馬を使い野獣の城へ向かう。一方、ベルも、野獣にもらった魔法の手袋で城に戻る。兄たちは宝物の屋敷を見つけ、屋根を破って忍び込もうとするが、女神の像が動き出し、弓を放って兄の友人を射殺す。その瞬間、瀕死の状態だった野獣は人間の姿になりベルの前に現れる。そしてベルと一緒に王国に向かうところで映画は終わる。

 

フワリと舞う布のスローモーションや、光を効果的に使ったアンリ・アルカンのカメラが実に美しい。全体がいかにもファンタジーという感じの仕上がりが秀逸な一本で、とっても楽しめました。

 

仕掛人・藤枝梅安

こんな真面目な時代劇を久しぶりに見た感じです。少々脚本も演出もくどすぎる気がしますが、池波正太郎の世界観が丁寧に出ているようで、見ていて好感。淡々と進む物語は、必殺シリーズで出来上がった仕掛人のイメージを完全に払拭した上で、運命に翻弄されてきた市中の人々の悲哀を真っ直ぐに描いて行くタッチもいい。良質の作品でした。監督は河毛俊作

 

一人の女性が好色な男の毒牙にかかる場面から映画は幕を開ける。そして仕掛人の仕組みが手短に語られ、藤枝梅安が川中から船に乗る男を川に引きづり込んで殺してしまう場面となる。元締めの嘉兵衛が現れ、新たな仕事を依頼する。今度の相手は料理屋の女将おみのだった。おみのはこの料理屋の後妻にはいり、女中に強引に客の相手をさせて荒稼ぎをしていた。早速、梅安はおみのを調べるためにこの店の女中おもんに近づく。実は、この店の前妻を殺したのも梅安だった。

 

そんな奇縁を仲間の彦次郎に話す。彦次郎は別の元締め田中屋からある仕事を頼まれていた。それは、大工の為吉で、彦次郎は為吉の姿を見て昔を思い出す。彦次郎が十数年前押し込み強盗の中にいた時の仲間だった。彦次郎はその首領を殺して逃げたのだ。彦次郎は為吉を見事殺してしまうが、田中屋は次の仕事を依頼して行くる。それは、石川という若侍だった。そんな頃、梅安は旧知の住職から寺に匿っている女を治療してほしいと言われ出向いた際、その女性が嶋田大学という藩主に手込めにされたことを知る。その女お千枝を助けたのが腕の立つ若者石川だった。

 

石川を亡き者にしたい嶋田は、田中屋に頼んで仕掛人に石川を殺してもらうように依頼していたが、たまたま寺で会った梅安と彦次郎は、どうも利用されていると判断し、ことの次第を調べ始める。しかも、おみのは、かつて彦次郎がいた盗賊団の狩猟の娘だというのだ。さらに、おみのは梅安が幼い頃自分を捨てて出て行った母が連れて行った妹のお吉だった。なんという人生に巡り合わせかという展開から、梅安は本当の悪人、嶋田大学を殺し、自分の利益のために仕掛け人を使った田中屋を殺す。一方、彦次郎は石川を助ける。そして梅安は、最後におみのに針を刺して殺すことになる。しかしさらに、おみのの亭主も実は悪人だとわかり最後に殺してしまう。

 

年も暮れ、梅安と彦次郎は晦日蕎麦を食べている。年が明けたら京へ行こうと約束して映画は終わる。エンドタイトルの後、梅安と彦次郎が伊勢参りに来ていた。通りかかった侍を見た彦次郎はそれが自分の妻を手籠にして殺した男だと知り、後をつけて映画は終わる。

 

脇役が弱いので。映画が今ひとつ厚みが出なかったのは非常に残念ですが、丁寧な時代劇の良作という空気感がとってもいい映画でした。