くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「オルフェ」(ジャン・コクトー監督版)「ブローニュの森の貴婦人たち」「生きててごめんなさい」

「オルフェ」(デジタルリマスター版)

これは傑作でした。ストーリー展開のリズム、逆回しを多用したシュールな画面、鏡を抜けるファンタジックな映像、などなど、魅了される作品でした。監督はジャン・コクトー

 

パリのカフェ、有名な詩人のオルフェが店で飲んでいるのをカメラが捉えて映画は幕を開ける。そこへ高級車に乗った女性が酔っ払いの青年を支える運転手のウルトビーズと一緒に現れる。青年の名はセジェスト、彼もまた詩人である。一緒の女は女王と言われる編集者である。カフェで暴れたのでウルトビーズが警察に連絡するが、暴れたセジェストは、道路に飛び出し、走ってきた2台のバイクに撥ねられる。倒れたセジェストを車に乗せるウルトビーズだが、女王は見物人の一人オルフェに車に同乗してくれと命令する。

 

女王の館についたオルフェは、セジェストがすでに死んでいること、城にさっきひき逃げしたバイクの男たちがいることに気がつく。そして、女王はセジェストをつれて鏡の中に消えて行く。オルフェはウルトビーズに連れられて自宅に朝帰りするが自宅では妻のユリディスが、夫の帰りをヤキモキして待っていた。

 

浮気をしているのではという疑いがスッキリしないまま、ユリディスは夫を迎えるが、オルフェは忙しそうに寝室に姿を消してしまう。ユリディスは妊娠がわかり夫に報告するのをたのしみにしていたが興を削がれてしまう。

 

ウルトビーズはそんなユリディスを哀れに思う一方、いつの間にかユリディスに惹かれ始める。オルフェは、女王のことが忘れられなくなり始め、さらに、ラジオから流れてくる言葉を自らの詩に取り込むことに夢中になる。毎夜、オルフェのベッドの脇に女王が現れる。女王は死神でもあり、しかもオルフェを愛していた。

 

ラジオからの言葉を詩にしていたオルフェだが、聞こえていたのはセジェストの詩だった。それが非難され、マスコミからも攻撃され、オルフェは追い詰められて行く。しかも女王への気持ちが募るばかりだった。次第に蔑ろにされるユリディスは体を悪くしてしまう。ウルトビーズはオルフェに、ユリディスの元へ行くように懇願するも叶わず、ユリディスは死んでしまう。

 

ようやくオルフェは、ユリディスを失った悲しみを知る。そんな彼にウルトビーズは、一つの手段を示す。自分と一緒に黄泉の国に行き、ユリディスを探し、裁判を受ける方法があるという。ウルトビーズにもらった手袋をはめて鏡を通り抜け、オルフェとウルトビーズは黄泉の国に入り込む。そこで黄泉の国の判事らは、女王がオルフェを愛するが故に殺さなくても良いユリディスの命を奪ったことを責め、それぞれの気持ちを確かめた上で、今後決してユリディスの顔を見ないという条件をつけてオルフェとユリディスを現世に返す。その監視人としてウルトビーズが選ばれた。

 

現世に戻っても、絶対に顔を合わせられないオルフェとユリディスは、お互いに耐えられなくなり始める。そんな彼らに、オルフェを非難する人々が押しかけて来る。車に乗り脱出しようとしたオルフェはバックミラーに映るユリディスを見てしまう。その途端ユリディスは消えてしまう。

 

外に飛び出し、ウルトビーズにピストルをもらい、脅すつもりで群衆に立ち向かうが、争いの中で銃で撃たれて倒れてしまう。死神の使いの二人のバイクの男が現れ、ウルトビーズと共にオルフェを黄泉の国に連れて行く。そこで、女王はオルフェの気持ちを汲み取り、最後の手段として全ての時間を元に戻すことを提案、その引き換えに自らは罪に問われて収監されることを選ぶ。

 

時が逆回転し始め、オルフェは、死の床だったユリディスのベッドに脇に立っていた。ユリディスは、妊娠による体調不良だけとなり、二人は以前の優しい夫婦に戻って映画は終わって行く。

 

ギリシャ神話をモチーフに現代的に焼き直し、美しい夫婦の物語にした展開がとっても素敵で、鏡の中に入り込んだり、逆回しを多用したトリック撮影など映像を駆使医した画面作りが全体に見事に効果を生み出していて、とってもファンタジックで美しいドラマに仕上がっています。気持ちのいい映画でした。

 

ブローニュの森の貴婦人たち」(デジタルリマスター版)

一人の女性の復讐劇を、今となってはやや古さを感じてしまうストーリーながら、淡々と描く中に大きなうねりを感じさせる演出が実に見事な一本。シュールさと毒々しさを兼ね備えた逸品でした。監督はロベール・ブレッソン

 

社交パーティの帰りでしょうか、一人の女性エレーヌは約束していた恋人ジャンが現れず一人馬車に乗っている場面から映画は幕を開けます。自宅に戻ると、ジャンが侘びながらやって来る。エレーヌは、さりげなく別れ話を切り出すがジャンはあっさりとその話を受け入れてしまう。プライドを傷つけられたエレーヌは復讐を誓う。

 

近所に住むアニエスという娘の仕事場にやってきたエレーヌは、自ら生活の援助をすると申し出る。アニエスはダンサーをしている商売女だった。アニエスと母はエレーヌの申し出を受け入れ、商売女だった過去を打ち消すべく住まいを変わる。エレーヌはある時、アニエス親子を伴ってブローニュの森に行き、そこでジャンと引き合わせる。ジャンは一眼でアニエスに惹かれる。

 

エレーヌは裏からアニエスの住所をジャンに教え、ジャンは強引にアニエスの家の前に行き、アニエスから傘を借り、さらに後日花を届けたりするようになる。エレーヌもアニエス親子をディナーに招待し、偶然を装ってジャンがやって来るように仕向ける。アニエスも次第にジャンに惹かれるようになるが、せっかく決めた新しい職場で、アニエスの過去が表に出て結局仕事を失ったりする。

 

エレーヌはジャンとアニエスをさらに近づけるようにし、とうとうジャンはアニエスと結婚することになる。結婚式の日、エレーヌはジャンに、来賓の人たちの顔立ちを観察するようにとアドバイスする。部屋に引きこもったアニエスに会いに来たジャンは、泣き崩れた末にエレーヌに全てを聞くようにと言って気を失ってしまう。

 

ジャンは帰り際のエレーヌに近づくと、エレーヌは、アニエスが商売女だったこと、これが自分の復讐であることを告白する。絶望に打ちひしがれるジャンは再度アニエスの部屋に行くと、あれから三度気を失い、心臓が弱っていると言われる。ジャンはアニエスの手を握り、愛しているから、死なずに戦ってくれと懇願し映画は終わって行く。果たしてアニエスは持ち直したのかは不明のまま暗転。

 

非常にシンプルな物語ですが、女の情念がいたるところから迸り出てきるような怖さが垣間見られ、一方で、純粋に恋心を燃やすジャンの姿が対照的に描かれる様は見事です。今となっては古い物語ですが、それよりも映像の迫力に何故か囚われてしまうそんな映画でした。

 

「生きててごめんなさい」

軽快なテンポで始まる明るいオープニングから、どんどん物語が陰にこもり始めてそれに合わせてスローテンポに展開して行くリズム感がとっても面白い作品。結局ラストの締めくくりが見えづらくなってしまったものの、題名を含めて何かを感じさせてくれる秀作でした。監督は山口健人。

 

居酒屋、別れ話をしているふうな元恋人同士的なカップルのテーブルのショットから映画は幕を開ける。注文をしようと店員を呼んだ男性が、来た店員にメニューを指刺して注文するのだが今ひとつわからないまま、その場の空気を乱されたくない雰囲気に気圧されて店員は引き下がる。そして、多分これだろうと柚子サワーを持って行くが、相手はレモンサワーだとつっかえし、その反動でグラスを落としてしまい大騒ぎになって、それにキレた店員の女性がカウンターテーブルのカニの足を投げつけ大乱闘になる。この店員が主人公だったと気がつくところからのオープニングがとにかく見事。

 

カウンターにいた客がその店員をおぶって夜道を歩いている。踏切に差し掛かり、コミカルなやりとりから暗転してタイトル。この店員が莉奈で、おぶった客が園田修一。この二人が同棲している場面に移る。修一は出版社に勤めながら小説家を目指している。莉奈は何をやっても続かず、結局プー太郎のままで近所のペットショップでぼんやり過ごす日々。修一のデスクの隣の女性社員が、最近話題のTwitterを見せたりする。

 

修一は尊敬している作家の講演会に行く予定の日、同僚の失敗の穴埋めにその同僚の担当作家の原稿を取りに行く羽目になり講演会に遅れる。ところが会場で先輩の相澤今日子に出会う。そして、ひとときの酒の席を過ごすが、帰った修一は梨奈に、一緒だったのは男だったと嘘をつく。

 

そんな修一は、突然会社を辞めた同僚の代わりに、得意ではない啓発本の売れっ子作家西川の担当をすることになる。ところが取材のー現場で取材ノートも持っていない修一は西川に責められ、莉奈に、家からノートを持ってきてもらう。ところが西川のさりげない質問への莉奈の返事が気に入られ、臨時で修一の会社の社員になることになる。

 

一方、修一は相澤から、相澤の大手出版社の新人賞に応募することになり、必死で原稿を書き始める。莉奈はすっかり西川に気に入られ、修一は次第に嫉妬心まで生まれて来るにあたり二人の関係はギクシャクし始める。一時は、莉奈の提案でデートしてみたりして修復されそうになるのですが、ペットショップのそばに捨てられていた犬が訳のわからない処分屋に連れていかれそうになるのを莉奈が阻止し、その犬を家に連れ帰った莉奈は修一と大喧嘩となってしまう。そして、とうとう二人は喧嘩別れすることになり、莉奈は西川のアシスタントとして修一から離れて行く。修一は自暴自棄になり、西川の原稿を西川の了解なく勝手に仕上げて入稿してしまい会社に損害を与え、首になってしまう。

 

修一は原稿に打ち込むが結局締め切りに間に合わず、相澤からも愛想を尽かされる。修一は公園の遊具の管理の仕事につき、職場で修一に気のある女性社員なども現れる。そんな頃、莉奈は兼ねてから書いていたTwitterの記事が話題になり、出版されて一躍時の人になる。その本の発表会に出かけた修一は、公演の後、莉奈と居酒屋に行く。冒頭の居酒屋と同じ場面である。トイレに立った莉奈は突然修一の背後を走り抜けて飛び出す。修一が追いかけて行き、冒頭の踏切のところに着く。莉奈が「二人で一緒に渡っていいのか」と呟いて莉奈は一人修一をおいて踏切を渡り映画は終わる。

 

どう解釈するのかちょっと迷ってしまいますが、オープニングからの勢いが少し乱れてきて収拾に困ったエンディングになったように感じてしまいましたが、何らかの意味があるのかもしれません。途中、二度ある家の鍵を莉奈が落とし修一が拾うエピソードのあたりがもうちょっと生き生きしていたらもっと面白かった気もします。結局後半はどんどん混沌としたエピソードの羅列になったのは非常に惜しい。でもちょっとした佳作という感じの一本でした。