くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「月の寵児たち」「トスカーナの小さな修道院」「ある映画作家の手紙。白黒映画のための七つの断片」「素敵な歌と舟は行く」

「月の寵児たち」

誰が主人公とか、どういうお話だとかいうのを全て取っ払って、次々と展開するエピソードの端々に散りばめられた小道具や場面の数々で何かを語りかけてくる。あまりにハイレベルな作品ゆえに、受け入れられないところもあるのだが、なぜか面白くて、映画を楽しむということを教えてくれる作品です。監督はオタール・イオセリアーニ

 

スープ皿にスープが入れられ食卓に運ばれるが、大型犬がやって来て皿を落として割ってしまう。どうやら貴族の邸宅なのか。カットが変わると陶芸家がさっきの皿を焼いていて、大量生産して荷車に積まれて出荷される。裸婦を描いている画家が映され、一人の女がモデルとなりそしてタイトル。

 

18世紀の名品として先ほどの皿がオークションにかけられている。絵画もオークション会場に置いてある。その場面へ映画は移る。食器が落札されるが、至る所でこの皿が割れるシーンが挿入される。さらに絵画も盗まれるたびに横の構図から縦の構図、さらに顔だけとどんどん小さくなる。娼婦と客のエピソード、爆弾を作っている男のエピソード、銅像を破壊しようと爆弾を依頼する男たち、次々と泥棒を繰り返す男、汚職警官、その家族、様々な人間のドラマを皿や絵画などを絡ませながら、群像劇として描いていく展開が見事。

 

やがて銅像は破壊され、その背後の建物も取り壊されるが、そこは冒頭の裕福な家庭の建物のようでづが全て崩壊していきます。冒頭の屋敷の庭で悠長なお茶を飲むモノクロ場面で映画は終わります。

 

オーバーラップして繰り返すドラマと、交錯する人物像、そのそれぞれに名前を明確にせずにどんどん時間と空間を先に進めていく。その独特の空気感が見事な一本でした。

 

トスカーナの小さな修道院

トスカーナ地方の五人の修道士が集う修道院を、その周辺の街並みと共に描くドキュメンタリーです。監督はオタール・イオセリアーニ

 

修道院の説明と、そこに住まいする修道士たちの姿を写して映画は幕を開ける。修道院がある街並みを丁寧に捉えながら、その姿を映し出していく作品でした。

 

「ある映画作家に手紙。白黒映画にための七つの断片」

イオセリアーニのパリの街の観察映画。彼の作品の様々なシーンを丁寧に捉えていく一本です。監督はオタール・イオセリアーニ

 

「素敵な歌と舟は行く」

登場人物を交錯させながら、それぞれの人物のドラマを重ねていくこの監督らしい演出で展開する一本で、上流階級と庶民の関係を皮肉った毒がちらほら見える作品でした。監督はオタール・イオセリアーニ

 

一人の少女が積み木で遊んでいると母親が入って来て片付けるように言い、机でお絵描きでもしなさいと叱る。間も無くコウノトリでしょうか、大きな鳥が届けられ、母親はその鳥を連れてホームパーティの会場へ入っていく。タイトルの後、三人の女の子が乗馬をしながら家に帰って来る。先ほどのお城のような邸宅の庭先。彼女らの兄であろうか、一人の青年が部屋を出て外に出て行こうとする。母親は仕事に行くのにヘリコプターがやって来て乗り込んで飛び立つ。

 

駅で作業貨車に乗っていた一人の男はカプセルホテルのような部屋に戻り、スーツを着込んで、大型バイクを借りて女の子を誘って、停泊しているヨットの中でいちゃつく。裕福な家の青年は街に行き、物乞いの準備をしている知り合いに、段取りを手伝ってやる。カフェの少女をナンパするが、先にバイト先に駆け込んで皿洗いを始める。しかし、汚れが取れていなくて叱られる。

 

バイクの男はカフェの女の子を誘ってどこかへ出かけ、裕福な青年は彼女を取られる。しかしバイクの男はレイプまがいに女の子に迫ったので女の子は罵倒し、その場に置いていかれる。そこを通ったのは冒頭の邸宅に勤める女中で、彼女は邸宅にその女の子を連れていく。一方、裕福な青年は、不良仲間を邸宅に誘い込む。一人の男がこの邸宅の主人と気があって飲み明かす。

 

女主人は浮気をしていて、ヘリで戻って来て、女中を追い出し、夫が連れ込んだ男も追い出す。裕福な青年は、街で、不良仲間と銃を使って銀行強盗に入り捕まってしまう。しばらくして出所するが、一緒に入った友人を放って、行きつけのカフェに行くと、ナンパしようとした女の子は結婚していた。家では女主人が愛人を交えてパーティを開いている。夫は気のあった男の助けで邸宅を抜け出し、ヨットで大海原に脱出する。青年も母と一緒にパーティに入る。どこまでも海を進むヨットの場面で映画は終わる。

 

黒人の執事のエピソードやそのほか様々が展開の中に挿入されていて、そのそれぞれがオーバーラップするように物語を形成していく。面白いのですが、この監督作品をまとめてみるとやや混乱してしまいます。ハイレベルな映画なのですが、大手を振って大傑作といえないところも無きにしもあらずな映画でした。