くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アラビアンナイト 三千年の願い」「逆転のトライアングル」

アラビアンナイト 三千年の願い」

壮大な物語で、もっと胸に迫ってこなければいけないのですが、その描写が今ひとつうまく行っていないのか、ただシュールなだけの作品に見えてしまった。御伽話の人物と現実の人物の愛の物語を、まるで全体を寓話のような空気で包み込んだファンタジー作品という色合いが、今一つ成功していなかった気がします。面白い映画なのに残念でした。監督はジョージ・ミラー

 

鉄の翼が空を飛び、ガラスをなぞって会話をする、つまり現代をまるで遠い過去のような時代であるという語りから映画は幕を開ける。飛行機に乗っているアリシア古今東西の神話を研究する学者である。次の講演先イスタンブールへ向かっていた。空港でおりたち、小さな体の男にカートを握られるがすぐに霧のように消えてしまう。そして講演の壇上で、客席にファラオのような出立ちの人物を見かけたまま気を失う。

 

骨董店で小さなガラス瓶を買い求めたアリシアは、ホテルでその瓶を洗っていると、突然巨大な魔神が現れる。そして三つの願いをするようにと言われるが、物語の専門家でもあるアリシアは、そんな願い事の結末がハッピーエンドではないからと躊躇する。そこで魔神=ジンはこれまでの三千年の物語を語り始める。

 

かつて、シバの女王の所有物だったジンはシバの女王を愛していた。しかし、彼女はソロモン王の求愛に応える。ソロモン王は魔王の力を持っていた。そしてその魔法でジンは瓶に閉じ込められ大海に捨てられることになる。続いてその瓶を手にしたのは奴隷女のグルタンだった。彼女は王の寵愛を受けるが次第に権力争いに巻き込まれ、最後の願いをジンに告げる前に殺されてしまう。ジンはグルタンが隠したガラスの瓶に戻るに戻れなくなり、そこに誰かを誘導するべく画策、そして苦心の末、なんとか瓶を見つけさせるが、次に所有したのは天才ゼフィールだった。知識を要求した彼女だがそんなゼフィールにジンは恋心を持ってしまう。そしてさらに知識を得ようとするゼフィールの願いを封じたためにゼフィールは錯乱し、ついジンと会わなければ良かったと叫んでしまう。その言葉でジンは再び自由を奪われ瓶の中に入る。

 

続いて手にしたのがアリシアだった。アリシアは幼い頃から孤独な人生を歩んでいて、ジンもまたその孤独を知る存在だと知り、お互いに愛し合う存在になろうと希望を告げる。やがてアリシアはロンドンの自宅に戻り、ジンと一緒に幸せな生活を始めるが、ジンが住んでいた世界と打って変わっての雑音溢れる世界で、アリシアがある日自宅に戻ると眠らないはずのジンが眠っていて、塵のように消えかけていた。慌てて目覚めたジンだが錯乱してしまう。そんなジンにアリシアは、自分が生きていた世界に戻るべきだと告げる。そしてジンの姿が消えて三年が経つ。

 

この日、広い草原で執筆をして、散歩をしていたアリシアは丘の下から歩いてくる見慣れた人物に気がつく。それはジンだった。ジンはアリシアが存命の間、再度現れることを約束する。そして二人は丘の彼方に歩いていって映画は終わる。

 

語るべき部分で、ちゃんと語れていないために、全部ぼんやりとしたままに先に物語が進んでいく感じで、シュールな部分と寓話的な部分のコラボレーションが中途半端になったように思えます。もっと胸に迫ってくるストーリーのような気がするのですが、ちょっと気負いすぎた感じです。

 

「逆転のトライアングル」

階級社会を皮肉ったブラックユーモア満載の群像劇ですが、前半のゲロと汚物のオンパレードドはやりすぎに感じた。あそこまでやらなくてもこの監督ならもっと描写できるだろうにと思ったが、中盤から後半は、いわゆるよくある上下逆転とはいえ、それをテーマにした風刺劇は結構面白かった。と言っても、それほどのオリジナリティがないのはちょっと残念だし、前作同様、映画祭を意識しすぎた演出はちょっと鼻につきました。監督はリューベン・オストルンド

 

ファッションモデルのオーディションに来ているカールの姿から映画は幕を開ける。からかってるようにしか見えないインタビュアーに応えるカールは、面接の会場へ。そこで、どうでもいいような動きを要求されて終わる。この日、トップモデルのヤヤのステージを見に来ているカール。まもなくして二人は付き合うようになり、レストランに来ている。会計のタイミングでカールはヤヤが払おうとしないので、金に絡めて言い争いになる。ヤヤが結局払おうとするがカードが使えず、カールが支払う。取ってあったホテルのエレベーターで再度カールはヤヤをなじり、そのまま部屋へ。しばらくしてヤヤが部屋にやってくる。

 

二人は豪華客船クルーズの旅に来ていた。その船には武器売買で儲けた成金や、ロシアの大富豪で有機肥料で大儲けしたディミトリ、脳梗塞の後遺症で「雲の中」しか言えない婦人、連れの女性が来られず一人参加したヤルモなどが乗り込みまさに魑魅魍魎の世界。しかもクルー達もなんとか高額チップにありつこうとあれこれ画策をしている。船長のトーマスは怠慢でクルーチーフのポーラと一等航海士のダリウスが呼びかけても出てこない。キャプテンディナーの日取りを、低気圧が来ることがわかっている木曜日に決めてしまったりする。

 

そしてディナーの夜、客達は豪華な食事を楽しみ始めるが、間も無くしけが来て船は木の葉のように揺れ、客達は次々と船酔いしてゲロを吐き始める。トーマスは共産主義者だと自称するディミトリと飲んだくれてしまう。一夜が明けた客船に海賊達が襲ってくる。そして船は難破して無人島に流れ着く。助かったのがカールとヤヤ、ディミトリ、ヤルモ、ポーラ、黒人のネルソン、脳梗塞の夫人、そして救助船に乗ってきたトイレ掃除婦のアビゲイルだった。

 

サバイバル術に優れたアビゲイルと、セレブだが何もできない客達と地位が逆転する。よくある展開である。そして、リーダーとなったアビゲイルは救助船に住み、食料をとったり、火を起こしたりする代わりに、若いカールを救助船に引き込んで好き放題にし始める。そんなカールの事が我慢できないヤヤは何かにつけてカールを責めるが、カールがアビゲイルに奉仕する代わりに食料を手にするのでどうにもならなかった。

 

ある時、ヤヤは山の中で何か探そうとアビゲイルを連れ出す。ところが、山を抜けた反対側についた二人は、そこにエレベーターを発見する。この島はリゾート島だった。アビゲイルは、この事を隠そうと、岩を持ってヤヤを殴り殺そうとそっと近づくが、寸前で、ヤヤは、「私の付き人に雇ってあげる」と告げ、アビゲイルの手が止まる。脳梗塞の婦人は、帽子や雑貨を売り歩いている黒人を見つけるが「雲の中」しか言えないため気持ち悪がられてしまう。森の中をカールが叫びながら疾走している場面で映画は暗転、エンディング。

 

アビゲイルが食糧調達の手段を持ち、リーダーとして自由に振る舞っていく展開はわかるが、途中、ヤルモは野生のロバを殺したりして

アビゲイルに頼らなくなってもアビゲイルが自由に振る舞っている展開がちょっと矛盾してる気がします。結局、一旦は最下層のアビゲイルが階級の頂点に君臨したにも関わらず、リゾート地とわかって再度転落する様はかなりの皮肉なブラック劇になっています。インターナショナルが背後に流れたり、至る所にシュールな映像を盛り込む前半に比べて後半からエンディングまでがちょっと息切れした感が見られるのは勿体無いけれど、毒を散りばめた絵作りは大したものです。でも、やや賞狙いですね。