くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「少年と犬」

「少年と犬」

小品ながら、短編SFの常道を踏襲したちょっとした佳作。ユーモアとブラックな色合いを織り交ぜながら、巧みに人間を風刺した展開がとっても面白い作品でした。これまで公開されなかったのもわかる一方で、どこかでやっていてもいいんじゃないかというレベルの映画でした。監督はL・Q・ジョーンズ。

 

キノコ雲が次々と映され、第四次世界大戦で世界が滅ぶ様子が映されていく。世界が滅んだ五日間の最終戦争から十七年が経った2024年、テレパシーを操る犬ブラッドと相棒の青年ヴィックは、女の悲鳴を聞いて現場に急いでいた。と言っても女を助けるのではなく、ヴィックは女を求めているのである。この世界では、遺伝子異常で新たな女性が生まれなくなっていて、男は欲望のために女を探していた。

 

食料と女を求めて地上ではならず者集団や化け物たちが暗躍していた。なぜかブラッドのテレパシーを聴くことができるヴィックは、ならずものたちに殺されかけたところをブラッドに助けられたらしく、その後、ブラッドは食料を得るためにヴィックを利用し、ヴィックは女を得るためにブラッドを利用する協力関係で一緒に行動を共にしていた。

 

ブラッドは、丘の奥にあるという理想郷へ行こうとヴィックに話していたが、食料は農業で栽培し、女たちもいるそんな世界を信じていなかった。ヴィックとブラッドはお互いに悪態をつきながらもいい相棒として日々を送っていた。ある時、地下世界から来たクイラという少女を発見したヴィックは、クイラをものにしようと迫っていく。クイラはなぜか素直にヴィックに身を任せ、二人は心を惹かれるが、クイラは姿をくらましてしまう。ヴィックはクイラの残した地下世界へ行くカードを手にしてクイラを追うとブラッドに告げる。しかしブラッドは反対し、地下への入り口で二人は別れる。

 

ヴィックが地下世界にたどり着くと、そこでは白塗りの人間たちがいて、委員会という集団に所属する一部の人間が「お仕置き会議」なる裁判によって、反抗する人間を農場送りにすることをしていた。農場送りとは、マイケルという人造人間によって殺されることを意味しているらしかった。

 

ヴィックは、地下世界で拉致され、地下世界の女たちを孕ませるための装置に拘束されてしまう。クイラは委員会の命令で地上世界から若者を連れて来て、新たな人間を生み出すための計画に加担していた。そして、任務を果たしたクイラは、委員会のメンバーに入れてくれるように言うが、委員会のリーダーらは受け入れなかった。結局利用されただけだと思ったクイラはヴィックを助け、地上世界へ脱出を試みる。アンドロイドのマイケルが迫ってくるが、ヴィックの反撃で倒す。

 

ヴィックとクイラは無事地上世界に戻ったが、ヴィックにはブラッドが必要だった。テレパシーで呼びかけるヴィックにブラッドの声が聞こえる。ブラッドは食べ物も取らずヴィックを待っていたのだ。瀕死のブラッドを前に、クイラはヴィックに一緒に逃げようと懇願する。しかし、ブラッドを捨てていけないヴィックはクイラを殺し、ブラッドに食べさせ、丘の奥を目指して旅立つ。こうして映画は終わる。

 

利己的に迫るクイラに愛想を尽かすヴィックの視線から暗転して、次のシーンでブラッドが嫌味を言いながらもクイラを食べたことを感謝するラストシーンが、ブラックながらもどこか心地よい。決して傑作とか名作とかいう作品ではないけれども、どこか心の隅に覚えておきたい作品でした。