「不死身ラヴァーズ」
シンプルで爽やかな青春ラブストーリーの佳作という感じの映画だった。とにかく、ファンタジックなロケーションとどこかシュールででもどこか心に思い当たるような一瞬を感じさせてくれるからいい。推しの見上愛の元気一杯の演技がとっても好感。素敵で気持ちのいい映画でした。監督は松井大悟。
暗闇の中からベッドに眠る7歳の少女の場面になって映画は始まる。間も無く死んでしまうという少女の声、傍に一人の少年が現れ少女の手に花を持たせて、自分は甲野じゅんと名乗る。すると、それまで瀕死の状態だった少女長谷部りのは突然ベッドを起き出して廊下に走りでる。そして彼女は高校生になって遅刻しそうに学校へ向かって走っていた。
ところが校門を入ったところで一人の男子高校生とすれ違う。なんと彼は甲野じゅんだと言う。りのは陸上部のリレー大会に出場するべくじゅんを誘い、夏休み、必死で練習するが、持ち前の明るさで参加メンバーはみんな大ノリになる。りのはじゅんに告白するが、次の瞬間じゅんが消えてしまう。その後、軽音楽部でギターを弾く甲野じゅんに出会うが、告白と同時に消える。さらに道で出会った車椅子の少年甲野じゅんにも告白した途端消えてしまう。クリーニング店でバイトを始め、そこの店長甲野じゅんに告白するが消えてしまう。その店にいた従業員花森に事情を話すが、なぜか花森も消えてしまう。りのの側には幼馴染の田中がいつもいた。
大学に入ったりのは、学食で、一人の元気な大学生甲野じゅんとまた出会う。新歓バーベキューで仲良くなったが、翌日、甲野じゅんに会うと彼はりのを忘れていた。一晩眠ると記憶が消える後遺症を持った大学生だった。りのは毎朝、じゅんの家に行き一緒に通うことにする。そして、毎日の終わりに告白するようにする。そんなことをバーで働く田中に話したりする。しかし、りのはじゅんに将来の夢で、じゅんと結婚して子供を作り、赤い屋根の家に住み、柴犬を飼うなどと話しても、結局じゅんは忘れてしまうことに虚しくなり始める。
ある日、大学の休みにりのとじゅんはデートするが、その後、ふとした事で離れてしまい、じゅんが家に帰っていないとじゅんの母に聞かされる。りのや田中がじゅんを探すが、そこで田中は、消えているのはじゅんではなくてりのの方だと告げられる。りのは人を好きになると強引に迫っていったり、その男性の未来を励ましたり、いろんな理由でみんな彼女の元を離れてしまうのだと言う。しかも、甲野じゅんではなくて皆別々の名前なのだ言われる。そしてその帰り道、りのは気を失って倒れてしまい、田中は病院へ連れていく。ベッドで横になるりののところに甲野じゅんが現れ、摘んできた花を手渡す。時が経ち、りのが理想にしていた赤い屋根の家と庭に柴犬がいる家で二人は暮らしていた。こうして映画は終わる。
ファンタジックなお話なのですが、パステル調の家々が並ぶ街並みの反対側に茅葺の甲野じゅんの家が立っていたりと舞台設定はなかなか面白くて、細かい絵作りの面白さと、不可思議な物語のフィクション感がなかなか面白い作品でした。
「またヴィンセントは襲われる」
ネタは思いついたもののその先はイメージが膨らまなかったと言う感じの適当そのものの映画だった。シチュエーションを変えたゾンビ映画という雰囲気の一本で、実につまらなかった。監督はステファン・カスタン。
パソコンの画面から会社で働く主人公ヴィンセントの姿になって映画は幕を開ける。どうやら建築関係の会社のようで、突然実習生の男が彼に襲いかかってくる。さらに、上司がボールペンで彼を刺しにくるが、しばらくすると、平静に戻っていた。ヴィンセントは、街で出会い系の女性と食事をしているとヴィンセントと目があった浮浪者がフラフラ近づいて来る。どうやら自分と目があった人間は自分に襲いかかってくることがわかる。
自宅の近所の子供にも襲われ、いられなくなって父親の家に行き、車を借り、別荘へ避難する。コンビニのそばで食事をしていて、一人の男に声をかけられる。同じ境遇だというその男は歩哨というサイトで情報を共有、犬を飼ったらいいととアドバイスして去る。ヴィンセントはある食堂でテイクアウトを依頼する。ヴィンセントは、自分に危害を加えられそうになりと飼っている犬が唸ることに気がつく。食堂で、注文品を届けにきた店員マルゴーにヴィンセントは惹かれる。
マルゴーは、嫌な男に追われているからとヴィンセントの車で一時避難したことがきっかけで急速に親しくなり、彼女の自宅兼ヨットでSEXするが、マルゴーが襲ってこないように手錠を準備する。やがて世間では暴力事件が起こり始め、どうやらヴィンセントが巻き込まれたのはなんらかの原因があるようだった。いつのまにかヴィンセントは襲われなくなったのだが、今度はマルゴーを襲ってしまうようになる。ヴィンセントに目隠しをし、マルゴーは自分の船に乗せてどこかへ旅立って映画は終わる。
とまあ、導入部のストーリー展開が、結局なんの進展も、なんの鮮やかな謎解きもなく、そのまま二人はどこかへ去って終わるというのはいかにも芸がない。しかも、登場する脇役キャラクターがなんの意味もなしていない脚本も雑だし、B級と割り切ればそれまでだが、正直全く面白くなかった。
「胸騒ぎ」
なんとも後味の悪い最低の映画でした。サイコホラーや悪魔付き映画の方がよっぽどマシ。子供をああいう風に扱うのは北欧の国柄なのかもしれないが、いかにも観客の感情を逆撫でする展開には終始気分が悪かった。監督はクリスチャン・タフドルップ。
暗闇の中、車が走っていく車内の場面から映画は幕を開ける。イタリア旅行にデンマークから来たビャアン、妻のルイーセ、娘のアウネス。アウネスがお気に入りのウサギのぬいぐるみをどこかに忘れたと言ったのでビャアンが探しに行き、戻ってきたら、ルイーセらはオランダから来たというパトリックと妻のカリン、息子のアベールらと親しげに話をしていた。そして二組の家族は一緒に食事をして、それぞれ帰っていく。
しばらくして、ビャアンはパトリックからの手紙を見つける。そこにはオランダの自宅に招待するというものだった。ビャアンたちは最初は戸惑うが、週末だけならということで車で8時間の道のりを出かけることにする。旅で知り合っただけのパトリックたちはビャアン達を大歓迎するが、初日から何か不穏なものをルイーセは感じる。
パトリックたちの息子アベールは、生まれつき舌がなくて喋れない。アウネスのベッドは床だし、ベジタリアンだというルイーセに強引に猪の肉を食べさせたりする。さらに、近所の居酒屋に食事に行くことになるが、パトリックたちは勝手にアウネスをベビーシッターの預けて家に残してしまう。
夫婦同士で出かけた居酒屋では、パトリックたちは勝手にイチャイチャするし、勘定もビャアンに奢らせる始末。しかも帰りの車ではパトリックは大音響で音楽をかけ、泥酔い運転。帰ってから、ビャアンとルイーセがSEXをしているのをパトリックがのぞいていたり、ルイーセがシャワーを浴びているそばでパトリックが歯を磨いていたりする。さらに、ビャアンたちのベッドで寝たいというアウネスを勝手に自分たちのベッドに寝かせたりする。
パトリックたちの異常さを恐れたルイーセは、早朝にビャアンとアウネスを連れて帰ることを決意し車を出すが、途中、アウネスがぬいぐるみを忘れたと泣き出し仕方なく引き返し、パトリックらと遭遇する。謝罪するパトリックらの姿につい絆されたビャアンたちは後1日一緒に過ごすことにし、パトリックとビャアンは何故か意気投合する。一見、丸く治ったかに見えたが、アウネスがアベールを誘って両親の前でダンスを披露すると、パトリックはアベールを異常なくらい罵倒し、ルイーセは耐えられなくなり外に出てしまう。
その夜、明日の帰宅の準備をしてビャアンたちは眠るが、気になるビャアンが離れのプールを見に行き、アベールが死んでいるのを発見、さらに壁に無数に貼られた家族の写真に異常な違和感を覚え、この家を脱出することを決意する。そして三人で車を出すが、途中で車がクラッシュして立ち往生してしまう。そこへパトリックらが駆けつけ、ビャアンら家族を乗せて引き返すが、いつのまにか遠回りし、気がつくと、何やら別の男が彼らの車を迎え、アウネスを無理やり連れ去ってしまう。ビャアンとルイーセは、別の場所に連れて行かれ服を脱がされて殺されてしまう。アウネスが何処かへ連れて行かれる車内で映画は終わる。
結局、人身売買に巻き込まれたバカな家族の話で、一番怖いのは人間だと言わんばかりの犯罪映画だった。とは言っても、犯罪の違法性を訴えるわけではなく、ホラー形式で子供が犠牲になる展開は受け入れ難い嫌悪感を抱いてしまう。冒頭からいかにもな音楽を背後に不用意に挿入する作りも今ひとつ気持ちが良くないし、個人的には最低の映画でした。