「東京カウボーイ」
映画のクオリティとかどうとかはともかく、とっても気持ちのいい映画でした。広大な大自然の景色を常に映し出して、そこで展開するさりげない人間ドラマを、今となっては古臭いかもしれないけれど丁寧に描いていく展開が心地よいし、なぜか癒されてしまいます。本当に気持ちが晴れやかになる映画でした。監督はマーク・マリオット。
チョコレートの老舗会社を買収するためにやってきたヒデキの姿から映画は幕を開ける。手際よく仕事をこなしその報告に社長達の前で結果を説明するヒデキに社長もいい顔である。そしてその会議の場でモンタナにある不採算の牧場の譲渡計画の案が持ち出される。報告したのは副社長でヒデキのフィアンセでもあるケイコだった。しかし、ヒデキは勢いでその牧場を和牛飼育で建て直してみたいと言う案を提案する。かなり冒険的な提案に社長が気に入り、しかも、和牛事業で有名なワダと交渉済みだと知ってヒデキに一任することになる。
ヒデキはワダと一緒にモンタナに飛ぶが、勢いで豪語したものの英語さえ頼りない有様でワダに任せきりになってしまう。しかも、最初に行ったバーでワダが酔っ払ってロデオマシーンで大怪我をして入院し、ヒデキは一人で牧場主と交渉する羽目になる。スーツ姿で颯爽といくが、初日から全く受け入れられず、現地で足の悪いハビエルの案内で牧場を教えてもらうことになる。
アルコールの飲めないヒデキだが、ハビエルの従兄弟の結婚式のパーティでしこたま飲んでしまい、次第に、自分がやっていることが間違っていると言う疑問を感じ始める。ハビエルは牧場の一角で牧場主に黙ってキヌアという作物を作り小遣いを稼いでいた。和牛に必要なコーンの栽培は牧場では育たないと牧場主に言われていたヒデキだが、農業と牧場のコラボに何か可能性があると判断する。一方、ケイコからはしょっちゅう報告連絡を求めてきていた。
ヒデキは牧場を、出資者を集めて買い取ることを計画し、その方向で牧場主と話がまとまってくるが、そこへ、ヒデキからの報告を待ちかねたケイコがやってくる。ヒデキはクビになっていた。ヒデキはケイコに全てを話し、さらに結婚についてこれまでケイコの気持ちを汲んでこなかったことを謝り、ヒデキの計画で進める方向になって映画は幕を閉じる。
広大な牧場の景色が実に気持ちいいし美しい。登場人物の描写も素直で優しい上に、みんな善人で心地よい。こういう映画もあってもいいと思うそんな素敵な一本だった。
「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」
映画としては普通の作品でしたが、こういう史実があったこと、こういう生き方もあることは、常に心に留めておくことで、自分の人生を見つめ直すには必要ではないかなと感じいる作品だった。すでにアンソニー・ホプキンスも名優の域に達して、その存在感だけで映画が高級になるからすごい。監督はジェームズ・ホーズ。
1938年、ナチスはオーストリアを併合し、チェコのズデーデン併合を要求、英仏伊は戦争を避けるために要求を飲んでしまうというテロップから映画は幕を開ける。ズデーデン併合により、大量の難民がプラハに集中する。ロンドンに住むニコラスはプラハのイギリス難民協会に赴く機会があり、そこで飢えに苦しむ難民の子供達を目撃、なんとかロンドンへ移送できないかと考える。
時は1987年、ひ孫ができるということで書斎を片付けるように妻に言われているニコラスは、机の引き出しのブリーフケースを取り出す。そのカバンの中には、1938年プラハから難民をロンドンへ送る作業をした際の様々な記事がスクラップされているものが入っていた。ニコラスは、山積みされた様々な資料を焼き始める。映画は、1938年、難民移送に奔走する若き日のニコラスと1987年、残されたスクラップブックをどうするか考えるニコラスの姿を交互に描きながら、迫り来るナチス侵攻という緊張感の中で一人でも多く子供達を列車で移送する難民協会の職員達の姿も描いていく。
やがて1939年、ナチスのポーランド侵攻によって第二次大戦が勃発、国境封鎖の前に最後の移民列車に250人の子供を乗せて出発しようとするが、すんでのところでナチスが列車を取り押さえてしまい、それを最後にニコラスの移民作業は終了してしまう。1987年、ニコラスの同志だったマーティンの伝手で一人の雑誌編集者にニコラスのスクラップブックが渡り、そこからテレビ番組での紹介へと物語が移っていく。
収録スタジオに招かれたニコラスは、そこでかつて救った子供の一人と再会。さらにその番組を見た当時ニコラスに助けられた難民の子供達から連絡が入り、二度目の収録では、スタジオに集まった人たち全てがニコラスに救われた子供達だった。やがて、ニコラスの家には、当時助けられ成長した子供達が孫まで連れて訪れるようになって映画は終わる。
奇抜な描写も、意図的な演出もなく淡々とニコラスという一人の人物を描いていくという真摯な作品で、アンソニー・ホプキンスの存在感も相まって良質の作品に仕上がっていました。難を言えば、ニコラスが全員救えなかった苦悩部分の描写がもう少ししっかり描けていれば秀作になったかもしれない。でもいい映画でした。