「Shirley シャーリイ」
アメリカ怪奇幻想作家シャーリイ・ジャクスンの伝記映画。幻想か現実か交錯するストーリーと、エロス、グロテスクを交えた展開、という面白い作りの作品なのですが、やや混沌としたカット割りとカメラワークに翻弄されてしまって、今ひとつまとまりに欠ける作品だった監督はジョゼフィン・デッカー。
列車の中、フレッドとその妻ローズは、フレッドの恩師スタンリー教授に頼まれて、教授の妻で怪奇幻想作家シャーリイの世話をするためにしばらく住み込むために向かっている場面から映画は幕を開ける。熱々の二人は列車の中でSEXをし、やがてシャーリイの家に着くが、偏屈で人当たりも悪いシャーリイの歯に絹を着せない物言いに初日から気分を害される。
シャーリイは「くじ」という短編小説発表後スランプに陥り、新聞で見かけたポーラという女子大生の失踪事件を題材に新作に臨んでいた。夫のスタンリー教授も変わった人物で、フレッドが提出した論文を罵倒するだけで自分の地位を脅かされることに人一倍プライドの強い人物だった。しかもローズに色目さえ使うようになる。
しかし、必死でシャーリイを世話するうちに彼女のカリスマ性に毒されていくのを感じるローズだった。実はローズは妊娠していて間も無く出産するが、ローズの心が不安定になるのを敏感に感じたシャーリイもまたローズに心を惹かれるように感じ始める。そんな人間同士のリアルな世界に、シャーリイが書いているポーラ失踪事件のフィクションの世界が絡んでくる。
フレッドは、大学で女子大生と浮気をしているというのをシャーリイに教えられたローズは、子供を連れて大学に乗り込み、その帰り、シャーリイの車に乗せてもらって、登山口の入り口に連れて行ってもらう。そしてローズは赤ん坊をシャーリイに預けて崖の上に行く。崖の上ではいつのまにかローズはポーラになっていた。今にも飛び降りそうになるローズに、思いとどまるように説得するシャーリイだが、二人は崖から飛び降りる。
やがて、新作は完成、ローズとフレッドはシャーリイの家を去る時がくる。ローズたちが車で去り、新作の完成を祝福してスタンリートーシャーリイがダンスをする場面で映画は終わる。果たしてどこまでがフィクションでどこまでが現実だったのかというラストである。
面白い脚本なのだが、やたら出てくるSEXシーンや出産の恐怖のグロテスクシーンなど趣味の悪い演出もあり、映像にする段階での演出スタイルが今ひとつ仕上がっていない感が伝わってしまう作品で、なんとも分かりづらい映画に仕上がった一本でした。
「ブリーディング・ラブ はじまりの旅」
凡作ではないかもしれないが、なんともつまらない映画だった。今更こういうテーマという陳腐さもあるが、エピソードの配分が良くなくて、終盤にかけて都合よく取ってつけたようにエンディングを迎えてしまう。ラストの映像は美しいので、これで締めくくりたいという意図は見えるのですが、娘役のユアン・マクレガーの娘がいかにも不細工だし、終盤までのクソ展開に辟易としてしまった。監督はエマ・ウェステンバーグ。
車に乗る父と娘、娘は薬物の過剰摂取で救急搬送されたらしく、父が施設に入れるために、画家の友人のところへ行くと嘘を言って連れ出したらしい。何かというとアルコールを飲もうとしたり薬物を探したりするクソな娘をなんとか連れ回す父。所々に幼い頃の娘と父の微笑ましいシーンが挿入される。
途中、車の修理で立ち寄ったヒッピーのような家族に翻弄されたり、ブロードウェイ舞台志望の娼婦と出会って、娘が用を足した際に何かに噛まれたところをアドバイスもらったり、ところどころのシーンは綺麗なのだが、いかんせん、娘に感情移入できない上に、かつてアルコール依存症で家族を捨てたらしい父のドラマが十分描かれていないので、娘がひたすらバカにしか見えない。
モーテルで母の電話を取った娘は、自分が施設に向かっていることを知って父と口喧嘩して飛び出し、見知らぬ男の車に乗って、男の家でドラッグを吸って気を失って路上に捨てられたのを通りがかりの車に発見され、父に連絡した娘はすっかり反省し、さらに父の日記を読んで素直になり、父に託された車のキーで施設に自分で向かう。施設に入った娘は一旦外に出るとそこに父が見送る姿があった。かつて子供の頃、学校へ送ってもらった時はドアを出ると誰もいなかったのとかぶって感動のラストシーンとなる。
終盤だけが映画としてよくできているように思いますが、それまでがいかにもご都合主義に展開する様がちょっと雑で残念。いずれにせよ、この手のドラマは鬱陶しいだけにしか感じませんでした。
「生きている画像」
たわいない人情噺ですが、良質の品のある一本でした。監督は千葉泰樹。
洋画の大家瓢人先生がこの日も帝展の審査をしている場面から映画は幕を開ける。公募展に応募するも落選の常連田西や、自分の作品に満足せず、特選に選ばれても自ら破ってしまう南原ら瓢人の門下生は様々。行きつけの寿司屋すし徳の主人はへんこつ者だが、ある日突然、瓢人の画風の絵を描き始めて帝展に応募するようになって家計は火の車になる。
田西はいつもモデルをしてもらっている美砂子と結婚することになるが、生涯独身の瓢人には反対される。しかし、美砂子の思いは強く、田西は美砂子と結婚、まもなくして妊娠するが、腎臓の病で美砂子は伏せってしまう。そんな田西を瓢人は何かにつけて助けてやり、画商に絵を買いに行かせたりする。南原は女の事で警察沙汰になるも瓢人が助けてやる。すし徳の借金は瓢人が内緒で肩代わりしてやる。
ところが、美砂子は赤ん坊を産んだ後この世を去る。田西は満身の思いで絵を出品、今回ついに特選になる。展示場で赤ん坊を抱く瓢人、駆けつけたな南原、田西がこれまでを思い出して感慨に耽る姿で映画は終わる。
なんのことはない映画ですが、全編に漂う上品な空気感が心地よい映画でした。