「墓泥棒と失われた女神」
映画全体がシュールなファンタジーという感じで、フレームが次々と変化し、スタンダードの時は主人公アーサーの夢の世界であること、人物関係の描写がほとんどないこと、唐突にエピソードが展開すること、そしてラストの意味ありげなエンディング。全てが幻想の世界という映画だった。面白いといえば面白いがかなり独りよがり的なつくりなので、退屈に感じる瞬間もあった。監督はアリーチェ・ロルバケル。
アーサーが列車の中で夢を見ている。一人の忘れられない恋人の姿を見ているようである。彼は墓泥棒をしていて捕まり、ようやく出所して故郷の田舎町に向かっているらしい。列車の中では一緒に乗っている女性たちに嫌われ、靴下売りと喧嘩したりする。街についたがかつての仲間ピッロに迎えられたが、逃げ遅れた際に放っておかれた恨みで相手にしない。自宅はまるでホームレスの掘立て小屋で、歌の教師をしているフローラ夫人を尋ね、そこに最近習いにきているイタリアという女性と知り合うが彼女は他の生徒たちに嫌われていた。
ある日、イタリアが二人の子供を隠して住んでいるのを見つけてしまうが、アーサーは話さなかった。昔の仲間に誘われて、墓泥棒を再開するが、ある夜、飲み食いしての帰り、海岸のエトルリア人の遺跡で、アーサーは例によって墓を発見、仲間と中に入ると、美しい女神の彫像を見つける。仲間が首を壊して持ち出そうとするがパトカーのサイレンに気が付き、首だけ持って脱出する。ところが警官は追ってこない。
翌朝、遺跡発掘のバイヤー、スパルタコが首のない女神の彫像を掘り出す。彼女はアーサーが見つけるのを待っていたようだ。彼女はその彫像を船上でオークションにかけるが、それを知ったアーサーらはその船に乗り込みスパルタコに迫る。しかし、首を見せた後、アーサーはその首を海に捨ててしまう。
アーサーの家は取り壊され、イタリアも行方不明になるが、街で彼女の娘を見かけたアーサーが娘の後をつけていき、大勢の孤児を育てているイタリアと再会、一夜を共にする。しかし、恋人への想いが捨てられないアーサーはイタリアを残して出て行ってしまう。そして、建築現場で新たな墓を発見、アーサーが先に中に入るが、直後穴が塞がれてしまう。アーサーはライターの光を頼りに奥に進むと赤い糸を発見、それを引っ張ると地上の光が出て、アーサーは忘れられない恋人と再会して抱き合って映画は終わる。
忘れられない恋人はすでにこの世にいないらしく、それを伝えていないというセリフが前半に出るので、ラストでアーサーも死んでようやく再会したのかという理解でいいのだと思うが、間違えているのかもしれない。全体がアーサーの夢の中の世界なのではないかとも思え、列車の中で出会った人たちが、墓で盗んだ調度品を探しているなどというホラーチックなシーンもあることから、解釈は間違っていないかもしれない。ちょっと描写が曖昧で、勘違いしているかもしれないが、もう少しわかりやすいカットを挿入するなどの芸が欲しかった気もします。
「温泉シャーク」
いやあ楽しかった。期待を裏切らないチープな特撮と、完全に「ジョーズ」をパクったストーリー展開、やりたい放題の馬鹿馬鹿しいノリに終始面白くて仕方なかった。これが映画の醍醐味。映画ファンの醍醐味かもしれません。監督は井上森人。
温泉観光地で有名な厚海市、ここの若き市長万巻は、巨大リゾート施設を建設し、厚海市の発展を計画していた。しかし、温泉客が姿を消す難事件が頻発し始める。しかも、殺されたのは温泉に入っている時で、遺体の一部が海で発見され、その傷口からサメの仕業だと考えられるが、海岸沖のネットが破られた気配が無いことから謎が深まる。
調査のために派遣された海洋生物博士巨勢真弓は、リゾート施設建設により古代のサメが蘇り、そのサメは温泉の地下水脈を通って温泉から現れ人を襲っていると判断、温泉シャークと名づける。厚海市の警察署長束も、万巻市長も打つ手がなく、政府は米軍の協力で厚海市を街ごと完全破壊する計画を立て避難を始める。
厚海市を愛する万巻は、リゾート施設建設のための巨大3Dプリンターで深海艇を作り、サメを退治する計画を立てる。巨勢も参加し、謎のマッチョも同情して、深海艇をあつみ号は海に潜り、サメの本拠地を目指す。そして、大奮闘の末、リゾート施設を破壊してその瓦礫でなん百匹というサメを退治したが、そこにサメのキングが現れる。マッチョも食べられてしまうが、サメの体内で大暴れし、メタンガスを発生させ、深海艇からの最後の魚雷で爆破に成功する。厚海市破壊計画は中止になり、マッチョも無事海岸に戻ってきて、勇ましいエンディング曲と共に映画は終わる。エンドクレジットの後の、お決まりのお遊びでエンディング。
振り返れば馬鹿馬鹿しい映画なのだが楽しい。エンドクレジットの後のお決まりのシーンも嬉しくなってしまう。決してお勧めするものでは無いが、こういう映画を見に行ける映画ファンの醍醐味を味わわせてもらった。