「リングの王者 栄光の世界」
たわいない娯楽映画と言えばそれまでですが、70分ほどの尺に見せ場を盛り込んで、クライマックスに徹底的なエンタメ演出を施した作りはまさに職人芸の世界。決して名作とかではないけれど、娯楽映画としてはよくできた一本でした。監督は石井輝男。デビュー作である。
市場で働く新一郎の姿から映画は幕を開ける。彼には京子という恋人と足の悪い妹がいた。新一郎は妹の手術の金を稼ぐために、兼ねてから畑という新聞記者に勧められていたボクシングの世界へ足を向ける。かつて実力のあるボクサーだったが、ふとしたことからボクシングを離れた岩崎を訪ね、トレーナーとして新一郎を育ててもらうことにする。
岩崎の頼みもあって、畑は新一郎から京子を遠ざけるべく、新一郎がチャンピオンになるまで身を引いて欲しいと頼む。やがて新一郎は連戦連勝し、ついにタイトルマッチ戦、チャンピオン三田村に臨むことになるが、新一郎に、モンテカルロというダンスホールのママルリ子が近づいてくる。すっかりルリ子の毒牙にハマってしまった新一郎は、深夜ルリ子に入り浸るようになる。そして三田村との試合で、コテンパンにやられ岩崎はタオルを投げる。
納得いかない新一郎はルリ子の元へ行くが、強くない男は嫌だとあっさりふられてしまう。ようやく目が覚めた新一郎は、再びチャンピオンを目指し猛練習を開始、妹の手術も成功し、畑は新一郎に京子を会わせる。そして再挑戦のタイトルマッチで新一郎は見事三田村を破りチャンピオンとなる。新一郎と京子、そして妹はどこまでも歩いて行って映画は終わる。
クライマックスの、三田村と新一郎の試合場面が、クローズアップと細かいカットのつなぎで迫真のシーンに仕上がっていて、シンプルながら全体としての位置付けも見事な出来栄えになっています。まず面白く飽きさせないことという単純な作りが完成された作品だったと思います。
「女の暦」
壷井栄原作の典型的な文芸作品という出立ちの一本で、脚本がうまくまとまっていないのか、若干物語の構成が良くないのは残念。終盤も無理矢理終わらせるために力が入っているという雰囲気が否めないけれど、小豆島を舞台にした姉妹のドラマとしてのんびりと楽しむのはいい作品だった。監督は久松静児。
小豆島で教師をしているクニ子が、妹の実枝と二人暮らしをしている場面から映画は幕を開ける。十人姉妹だったが、五人亡くなって今は五人姉妹で、上の三人はそれぞれ小豆島を離れて嫁いでいる。クニ子にはいつも縁談話がくるがクニ子は結婚する気がない。二人は父の法事をしようと計画、外に嫁いだ姉たちを招待することにする。
実枝が手紙を書き、クニ子はたまたま東京へ仕事で出ることになったついでに姉たちを訪ねることにする。広島のミチは子沢山と年寄りの世話で右往左往、大阪のカヤノは後妻で、夫がケチで何かにつけて飛び出したいと思っている。東京の高子の夫は刑務所にいるらしい。そんな中、久しぶりに五人の姉妹が小豆島に集まる。実は実枝には農園に勤める石田という恋人がいた。姉たちがきた機会に告白しようとしたが、姉たちが笑い飛ばすばかりで、すっかり落ち込んでしまう。
石田は仕事で盛岡に行くことになり、やがて姉たちも帰っていく。夫や家庭の愚痴ばかり言う姉たちだが、やはり家庭を大事にする姿にどこか矛盾を感じながらも頼もしく見る実枝とクニ子だった。実枝はクニ子にも告白できないママ、一人高子を訪ねようと家を出ていくが結局途中で引き返してくる。そして仏壇の前で結婚することを間接的におどけてクニ子に宣言、自分も母と同じように十人子供を作ると言ってクニ子と笑って映画は終わる。
法事に姉たちが集まるくだり、実枝と石田の恋物語、村にいる少しおかしな老婆のエピソード、法事での懐かしい話、実枝の苦悩。それぞれが噛み合っていなくて、結局一つずつ描いて無理やり締め括った感じがする作品で、久松静児作品の中では、中レベル以下の出来栄えの一本だった。
「肉体女優殺し 五人の犯罪者」
典型的なプログラムピクチャーという作品で、エロとサスペンスを程よく混ぜ合わせて、ラストは全てを台詞で説明して、あっさり終わる。所々に監督のこだわりの映像が見られて、それなりの美女と男前の主人公が活躍する。なんのことはないけれど、肩が凝らないし、それなりに楽しめる。映画は娯楽、そんな時代の一本だった。監督は石井輝男。
フランス座の新聞広告、踊り子が殺されるという宣伝文句から映画は幕を開ける。そしてストリップ劇場のステージ、所狭く踊る美女たち、やがてクライマックス、一人のダンサーベティがピストルを発射、撃たれる役は浜野千鳥というダンサーだったが、なんとピストルには実弾が入っていて、殺人事件となる。千鳥の夫徳島の指紋がピストルにあったことから徳島が容疑者となる。徳島はベティと愛人関係だった。どこか不審に思った新聞記者の西村は、徳島の妹かほるに事情を聞き始める。
かほるは隅田川のアパートに住んでいて、下の川を通る船からおかずを買っていた。同じアパートにベティも住んでいた。まもなくしてベティも舞台で事故を装って殺されてしまう。船でおかずを売っている森元が怪しいと考えた西村は、実はおかずを売っているのではなく麻薬をベティに届けて運び屋をしていたのではないかと考える。ところが森元も水死体で発見されてしまう。
西村は森元の家にあったカレンダーから関根という精肉店の男が怪しいと考える。関根はかほるを手籠にしようと狙っていてフランス座に侵入する。関根は精肉店の裏で麻薬密売をしていたのだ。全てを知った西村がフランス座に乗り込みかほるを助ける。そこへ警察が駆けつける。関根は下水道に逃げ、警察が追うが、放水の警告が聞こえ、警察や西村は避難するが関根は水にのまれてしまう。全てが終わり、かほるはトップダンサーとしてこれからも頑張ると西村に告げて映画は終わる。
今なら、テレビドラマレベルの作品ながら、スクリーンで見ると、少し味がついて楽しいから不思議ですね。面白い一本でした。