「ロイヤルホテル」
期待しすぎたというか、宣伝を見る中でイメージを膨らませすぎていたのかもしれないが、つまらない映画だった。セクハラ、パワハラ的ホラー作品のような宣伝だったが、結局酒好きなだらしのない女と、やたら堅苦しい友達が遭遇する当然の末路のような作りになんの共感も生まなかった。監督はキティ・グリーン。
オーストラリアに遊びに来たハンナとリブ、この日、飲んで騒いでいたリブは自身のカードが使えなくなっているのに気がつく。おそらく支払い遅延か何かで使用不能にされたのだろう。店の外に出て現地で知り合った男性トリステンとキスをしている友達のハンナに窮状を訴える。二人はお金を作るために短期で高収入のバイト先を探し、辺鄙なところにあるロイヤルホテルというバーでの仕事を見つける。
バスで遠路向かったあとようやくついたのは鉱山地区で男たちが集まり騒ぐ薄汚れたバーだった。二人は働き始めるが、先に仕事をしていたイギリスから来た二人の女性は、酒を飲んで騒ぎ、男たちを手玉にとりながら遊ぶ姿だった。そんな姿にハンナは嫌悪感を覚えるが、しばらく頑張って金を稼ごうというリブの言葉に仕方なく仕事を続ける。しかし、オーナーのビリーは酒ばかり飲んでいるし、妻のキャロルがなんとかカバーしているものの、給料も支払われるか不安な空気が漂い始める。
やってくる常連客のドリーは暴力とセクハラでハンナたちを恐れさせるし、泳げるところへ連れて行ってくれたマティは一見好感ながら得体の知れないものを感じていた。内気でリブに気があるティースは、突然キレてしまう。やがてビリーが酔い潰れて倒れてしまい、キャロルはビリーを街の病院へ連れて行くからバスが来る二日後まで好きにしていいと言われる。
ハンナとリブは身支度しながら二日後のバスまでハメを外す。男たちがいつものようにに店にやってくる。酒ばかり飲むリブは男たちと戯れ、ハンナの気持ちは苛立つ。ビリーらがリブをどこかえ連れ去ろうとするのでハンナが実力で阻止するがリブはほとんど抵抗なく酔っ払ったまま。絡んでくる男たちを追い出したハンナとリブは店に火をつけて出て行って映画は終わる。
鉱山工夫ら荒くれの男たちを女性的な視点で嫌悪し、その主人公二人も自分勝手に人を見ているだけという描写がとにかく気持ちが悪い。一見真面目なハンナは冒頭ゆきずりの男とキスをしていたりと男好きのようであり、ロイヤルホテルで働く間、やたら男に無愛想というのもなんともイケすかない。物語として破綻した作品にしか見えないので、なんの面白さも感じなかった。
「めくらやなぎと眠る女」
村上春樹の原作短編をオムニバス風に繋ぎながら一つにまとめて行くというファンタジーアニメーションで、日本人を描いた絵が実にわかりにくい上に、交錯する物語がそれとなく繋がるものの、それぞれの描写は実にシュールで、わかる人にしかわからないのではと思えるような作品だった。監督はピエール・フォルデス。
一人の男が地下に降りて行くと地震が起こる。2011年の東日本大震災から数日後、東京安全銀行に勤める片桐は、会社では閑職で出世の見込みもない日々を送っている。ある日家に帰ると巨大なカエルが待っていて、間も無く東京に大地震が来るから阻止するためにミミズくんと戦おうという。東日本大震災のニュースを見ていたキョウコは夫の小村に置き手紙を残して姿を消す。
小村は中身のわからない小箱を届けるために北海道へ向かう。ホテルのウェイターはホテルのオーナーの部屋に食事を届け、オーナーから一つだけ望みを叶えてやると言われて何やら希望する。小村は自宅で飼っていたワタナベという猫が行方不明になり探していると隣にいる女性から誘われて、芝生でくつろいで眠って目を覚ますと女性はいない。
キョウコは引っ越し先で音がする箱を開けるとねこのワタナベを発見する。片桐は会社帰りに気を失い、病院でカエルくんと会う。どうやらミミズくんは退治したので東京の地震はないのだという。直後カエルくんは溶けて消えてしまう。片桐の会社ではリストラが行われ、片桐の上司小村が早期退職することになったという。小村は隣の芝生で退職する旨を会社に連絡し、体から魂のようなものが空に飛び立って映画は終わる。
で、何を言わんとしたのか、何を表現しようとしたのか、わからないままに、いくつかの話が一つに繋がる様をアニメで見せてもらったという感想で締めくくってしまう映画だった。
「時々、私は考える」
淡々と進む不思議な映画で、主人公の妄想の世界を静かに描きながら、心の変化を描写して行くというオリジナリティのある一本でした。監督はレオチェル・ランバート。
主人公フランが職場で淡々と仕事をしている場面から映画は幕を開ける。外には大きな船が停泊しクレーンが見えている。フランはクレーンの動きに合わせて自分が首を吊るような妄想を抱いたりする。職場の同僚キャロルが定年で退職することになり一言書くためのメッセージカードが回ってくる。差し障りのないことを書くフラン。
キャロルに代わってロバートが入ってくる。自己紹介の場でもフランはあえて目立つこともしなかったが、ロバートは社内メールで備品請求の方法を聞いてくる。実は彼は今まで仕事というものをしたことがないのだと告白する。フランはさりげなくメッセージを返し、ロバートに映画に誘われる。
映画についてこれという感想も言わないフランにロバートもあえて逆らわずに受け答えし、いつも行くパイ屋へフランを連れて行く。そこの店長にパーティに誘われ、フランとロバートは出かける。パーティでは、殺人事件ゲームが行われ、フランは酸を飲まされて殺された演技をし絶賛される。
ところが、帰り道ふとした言葉でロバートを傷つけてしまい、フランは振られたように別れてしまう。翌朝、フランは職場にドーナツを差し入れようと店によるが、そこで退職してクルーズ船に乗るつもりだったキャロルと再会する。キャロルは夫が脳卒中で亡くなり予定が狂ってしまったのだという。
職場についたフランはドーナツを配り、ロバートを備品室に誘って先日の言葉を謝る。そして、自分は死んでいくのを妄想しているのだと告白、ロバートはフランを抱きしめて映画は終わる。
原題は「時々、私は死ぬことを考える」であるように、フランは車を運転していても突然追突される空想をしたりする。自分に自信がないのかどうかという単純なキャラクターではなく、と言って自虐的に生きているわけでもなく、抜け出すきっかけを探していたという静かなクライマックスがとっても良い。好みの映画ではないのですが、なかなか独創的な作品だった。