「美しき仕事」
2022年、世界のベスト映画7位に選ばれ、制作された1999年以来未公開だった幻の傑作と言われる一本。確かにクオリティは高いと思うけれど、では生涯に見るべき映画に選ぶほどのものかというのが正直な感想でした。ぼんやりと語られるジェンダー的な色合いが、美しい映像で描かれ、物語の組み立ても秀逸で、最後まで見た時に、確かによくできた作品だと納得します。しかし、普遍的に評価される映画ではない気がしました。主人公の一人語りで進む作りが嫌いというのもあります。でもラストのダンスシーンは見事というのは納得でした。監督はクレール・ドゥニ。
フランスマルセイユの自宅で、主人公ガルーが回想録を書いている場面から映画は幕を開ける。かつて彼はアフリカのジプチに外人部隊として赴任していた。上級曹長という位だったが、上官のフォレスティエを尊敬していた。というより憧れていた。そんな彼の部隊に新兵のサンタンがやってくる。
見た目の爽やかさもあるが、何かにつけ社交的だったサンタンは部隊で人気になる。そんな彼に嫉妬さえガルーは覚えてくる。そして、サンタンが憧れるフォレスティエにも好かれているかに思われてきたガルーは、サンタンを破滅させようと考え始める。その手段として彼のコンパスを細工し、部隊内である兵士に罰を与えたガルーに意見したサンタンと諍いになり、その償いに、遠方から一人で帰還するようにという命令を下す。
ところがサンタンは戻ってこなかったため、その責任を追及されたガルーはフォレスティエから、帰国を命じられる。そして軍法会議にかけられることになる。一方、サンタンは途中で衰弱して倒れていたが、通りかかった隊商に助けられていた。やがてフランスに戻ったガルーは、かつてを振り返りながら、鏡の部屋でダンスを始めて映画は終わる。
前半の一人台詞を駆使した淡々とした展開から、次第に感情的に昂ってきて、そしてラストのダンスへ流れるテンポはなかなかのものですが、驚くほどの作品とまではいきませんでした。
「人間魚雷回天」
第二次大戦中、空の特攻隊と並び海の特攻隊として存在した人間魚雷の乗組員の姿を群像劇タッチで描いた反戦映画です。娯楽映画として作られていますがその部分はやや非力な仕上がりで、と言って厳しい反戦映画かというとそれもやや弱い。普通の戦記映画という感じでした。監督は松林宗恵。
海に沈む人間魚雷回天の中、「未だ生存す」の文字から映画は幕を開けて、時は昭和19年、回天発進基地の部隊に移る。特攻艇回天の猛特訓の姿から、その訓練中に岡田が事故で亡くなる。基地では鼓舞する一方で、懐疑的な考え方も広がり始める。そんな時、すでに回天乗組員として出発して、亡くなったと思われた村瀬が生還して戻ってくる。故障が多かった回天は、時に始動不能になったりしていたのだ。
やがて出撃命令が降り、川村、玉井、朝倉、村瀬らが出撃する。途中、潜水艦が駆逐艦と遭遇したため、窮地を脱するため川村は回天で駆逐艦を攻撃する。そしていよいよ攻撃海域に着いたが本部から帰投命令が降る。ところがその途中、敵艦隊と遭遇し、玉井らは急遽回天に搭乗し戦艦、空母を撃沈するが朝倉の回天は故障して海底に横たわってしまう。朝倉は、「未だ生存す」、の文字を掘って映画は終わる。
これという仕上がりもない普通の戦記映画という一本でしたが、今やこの手の映画も作られなくなりました。