「戦艦大和」
大和が撃沈される場面をクライマックスに描かれる乗組員達の群像劇。戦記物映画というだけの作品ですが、撃沈から八年後という制作年が一つの注目点かもしれません。監督は阿部豊。
戦艦大和を沖縄へ特攻作戦に出すかどうかという「天一号作戦」を議論する会議室から映画は幕を開ける。そして片道の燃料を積んで突撃することが決定される。その後は大和内での乗組員達の物語が延々と繰り返され、やがて出撃するもまもなくして敵航空編隊の猛攻撃の中沈んでいって映画は終わる。
クライマックスの特撮シーンこそ今となっては稚拙ではあるけれども、まだまだ戦争を知る役者さん達が演じる登場人物それぞれはそれだけでも迫力があります。娯楽映画とはいえ、見るべき一本かと思いました。
「憲兵と幽霊」
かなり荒っぽい展開ですが、ハイスピードにサスペンスが展開する小気味良さで楽しめる娯楽映画でした。あざといほどの斜めの構図や振り回すカメラワークも面白い。ラストは本当にここまでするかというやりたい放題でしたが、これがエンタメですね。監督は中川信夫。
暗い部屋で一人の憲兵がいて、向こうの暗い部屋が閉まる。そして物語は田沢憲兵伍長の結婚式の場面になって映画は幕を開ける。傍に新婦明子を実は慕っている波島憲兵中尉の姿があった。場面が変わり、憲兵隊の執務室、波島のところに部下の高橋軍曹がやってきて、軍の機密書類を無くしたという。そしてなんとかしてくれというので、波島はその事件を田沢のせいにすることを提案する。
田沢は拷問を受けるが当然白状せず、波島は明子と田沢の母を逮捕して拷問し、田沢に無理矢理自供させる。そして、田沢は銃殺刑になるが、実は田沢には瓜二つの弟がいた。兄の処刑現場で、兄が無実を訴える姿を目撃した弟は、正義のために憲兵隊に入ることを決意する。そんな頃、波島は何かにつけて明子の世話をし、懇意にしている中国人張を使って仕事を世話してやる。さらに体調を崩した田沢の母を入院させるが、巧みに責めてとうとう自殺させてしまう。
実は波島はスパイで、張に軍の機密情報を流していた。高橋がなくした機密文書も波島が盗んだのだった。高橋は、田沢に罪を着せたことの贖罪で酒に酔って波島に絡み波島はつい銃で撃って殺してしまう。波島は高橋の死体を自分のトランクに詰めて海に捨てる。
ところが母の自殺で明子の素性が職場にバレて明子は職を失う。そんな明子を見舞った波島は明子を酔わせて手籠にしてしまう。しかし、漢口への赴任が決まった波島は明子を捨てる。漢口へ赴任した波島の元に憲兵になった田沢の弟が現れる。そんな時、かねてからスパイだと疑われていた張を逮捕する命令が波島に下る。波島は田沢の弟らと張を逮捕しにいくが、事前に波島は張に身代わりを立てるようにアドバイスしていた。
田沢の弟らは張の身代わりの男を張として逮捕し、撃ち殺すつもりが助かり収監される。波島の取調べに身代わりの男は、自分は王という男で、張に頼まれたことを話し、身の潔白のために陸軍病院にいる明子を証人として呼んでほしいという。田沢の弟が明子を呼びに行くと、やはり兄の元妻明子だった。明子は波島への恨みから漢口まで追ってきたという。明子を連れ帰り王の身の潔白を証明するが、波島は王を騙して銃で撃ち殺し、憲兵隊から逃亡する。
波島が漢口へ行って直後、波島のトランクに死体の入ったものが海で発見され、波島はスパイだと疑われていた。そして波島の部屋から張との連絡用の通信機が見つかり、彼がスパイだと判明し、田沢達は波島の後を追う。波島は張の家に行き、張の妻香蘭と逃げようとしている波島を追い詰める。香蘭は張に撃たれ、張も香蘭に撃たれる。波島は逃げて墓地に辿り着くが、墓から田沢の兄や高橋らが現れる。そしてとうとう田沢らに撃ち殺される。全てが終わり、田沢の弟は明子に求婚するが、曖昧に返事され映画は終わる。
とにかくわかりやすい娯楽映画で、ありえないほどの見せ場の連続がとにかく心地よいほどに楽しい。これもまた映画の作り方だなあと思いました。
「静かなり暁の戦場」
悲惨な戦争の史実の中に埋もれたヒューマンドラマを丁寧に描いた作品で、芸術祭参加作品ということもあり、第二次大戦下の話とはいえ、真面目な作りに感動する一本でした。監督は小森白。
真珠湾攻撃と時を同じくしてマレー半島へ侵攻した日本軍は、現地のインド人によるイギリス軍に苦戦している場面から映画は幕を開ける。パトナイク中尉らインド人イギリス軍の捕虜が捕獲され、日本人部隊で唯一英語を話せ、インド語も若干話せる国井中尉は捕虜との通訳を任される。前進するために敵情報を強引に引き出そうとする部隊長らに人道的に接しようとする国井中尉に、部隊長らは懸念を見せるものの、国井中尉の熱心な説得に、しばらく国井中尉に任せられることになる。
国井中尉は次第にパトナイク中尉の信頼を得てきて、捕虜部隊の統括を任された国井中尉は、先に奥地に進む日本軍の後から捕虜達を率いて前進する。そして、次第に捕虜達からも信頼され始めた国井中尉は、インド人達の本当の目的は母国独立であると聞き、感銘を受けた国井中尉は彼らのためにさらに努力するようになる。国井中尉らに、日本軍戦車が通れる橋の補強の任務が与えられ、順調に工事が進んだが、偵察に来た上官らの前で、パトナイク中尉とフィアンセが抱き合っている姿を見られ、急遽、最前線に移動を命じられる。
最前線では、日本軍の別部隊が窮地に立たされていて、救援のためにある要塞を奪取する必要があった。部隊長は夜襲を二度強行するも二度とも全滅してしまう。そして国井中尉にも夜襲をするように命令されるが、パトナイク中尉に別れを言いに行った際、パトナイク中尉から、夜襲をかける要塞を守るインド人兵士はかつての仲間だから、説得に行かせてほしいと提案される。
最初は疑心暗鬼だった部隊長らだが、もし、うまく行かなかったら捕虜全員を殺すという条件でパトナイク中尉ら七人を要塞説得に行かせる。ところがしばらくして、部隊が攻撃を受け始める。説得が失敗だと思った部隊長らは捕虜達を最前線に進ませ、総攻撃することにする。
やがて要塞についた捕虜達と国井らは死を覚悟で前進するが、そこに、パトナイク中尉に持たせた作戦成功の際の合図の狼煙が上がり、そして要塞からインド人兵士が投降してくる。部隊長は国井中尉を称賛し、この時のインド人兵士たちがのちのインド独立軍の基礎になったというテロップで映画は終わる。
戦記物らしい厳しいシーンも描かれるものの、ひたすらヒューマンドラマに徹した作りで主題がぶれないのがいい。名作とか傑作とかいう仕上がりではないけれど、普通にいい作品だった。