「夜の外側 イタリアを震撼させた55日間」
全編340分を前後編に分けて上映しるアルド・モーロ誘拐事件を扱った作品。重厚な演出で淡々と描く物語は見応え十分ではあるが、いかんせん、イタリア本国の部外者には、ローマ法皇の存在やイタリア政治の現実が身をもって理解されていないので、正直なところかなりしんどい。しかし、前半終盤に至って次第にサスペンス色が盛り上がってくると画面に惹きつけられていくから凄い。後半は若干ドラマ部分がウェイトを占めてきて、映画のメッセージに踏み込んでくるので前半よりも娯楽性は薄れたもののラストへ収束する構成は見事だった。監督はマルコ・ベロッキオ。
ある病院に政府官僚のフランチェスコらがやってくる。そして解放されたアルド・モーロの姿を認めてタイトル。1978年3月、戦後30年にわたるキリスト教民主党の党首アルド・モーロは政権安定のために共産党との連立を模索していた。しかし、当初からアルド・モーロの政策に拒否反応を持つ極左武装グループ赤い旅団は、その組織力から事あるごとにアルド・モーロへの圧力を強めてきていた。アルド・モーロは友人の教皇パウロ6世、内務大臣フランチェスコらと心のうちを相談する。
そして、党の信任決議の朝、議場へ向かうアルド・モーロは赤い旅団に拉致されてしまう。アルド・モーロの護衛達は殺され、アルド・モーロ一人が何処かへ連れ去られてしまう。フランチェスコらは赤い旅団との交渉する手立てを考えるも、断固テロに立ち向かうと言うアンドレオッティと手段を選ばず救出すべしと言うフランチェスコらと政府内に意見がまとまっていかなかった。事態を憂慮するパウロ6世は、巨額の身代金を用意してアルド・モーロを救出しようと画策する。しかし、それは交渉相手が赤い旅団を名乗る詐欺師だと判明し白紙に戻ってしまう。
打つ手立てを模索するパウロ6世は、赤い旅団宛に直接メッセージを届けることを決意、手紙の文面をクリオーニ神父に電話で相談するが、パウロ6世の電話はフランチェスコらに盗聴されていた。ここまでで前半部分が終わる。全部を六部に分けて描く後半は、赤い旅団の実行メンバーモレッティ、ファランダらの姿から幕を開ける。アルド・モーロ誘拐のために、武器を揃え、訓練をしている姿から、アルド・モーロ誘拐へと進む。
しかし、誘拐したもののファランダは、執行本部の指示で動くだけの姿に疑問を感じ始める。一方、アルド・モーロの妻エレオノーラはこの日、夫との不仲を教会で懺悔をしていたが、ヘリコプターの音で外に出てアルド・モーロが誘拐されたことを知る。エレオノーラの思いと裏腹に、キリスト教民主党の面々は、救出よりも対面を気にしているようにしか見えず、有力情報さえ一笑に伏した上、アルド・モーロが狂人であるかの記事まで載せる。
映画は、このまま、それぞれの立場での対処を淡々とそして辛辣な視点で描いてくが、そのうち世間の興味が薄れてくる。そんなある時、ある修道女が、アルド・モーロが拉致される現場を見たと言う情報がエレオノーラに届く。警察に言ったが取り合ってもらえなかったのだと言う。エレオノーラは政府の対応を待っていられず、自ら修道女のいう建物に行くと、そこでは今回の事件を演劇として研究している学生らがいただけだった。
時間だけが過ぎていく中、赤い旅団はアルド・モーロに司教と面会を許し、その後、解放すると言って外へ連れ出す。そして、ある通りにアルド・モーロを放置し、警察に連絡する。警察が駆けつけ、アルド・モーロを保護し、冒頭の場面となるが、実はアルド・モーロは赤い旅団に殺され、その遺体の場所の連絡が来ていた。そして、葬儀の場面からその後のアルド・モーロに関わった人々の出世した姿を写して映画は終わる。
幻想と現実を織り交ぜた映像演出や、込み入った人物関係を巧みに操ってドラマをどんどん深みに引き込んでいく演出など映画のクオリティはなかなかですが、随所に出てくるキリスト教の教義や考え方はさすがに私たちには身をもって理解できず、政治的な駆け引きの映像の面白さを楽しむまでという感想になってしまう映画でした。