くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「新米記者トロッコ 私がやらねば誰がやる!」「夏の終わりに願うこと」「チルドレン・オブ・ザ・コーン」(4K)

「新米記者トロッコ 私がやらねば誰がやる!」

期待を裏切らない最高に楽しい映画だった。一高校という小さな世界で展開する広い一般世界の物語をサスペンスフルに仕上げた佳作。終盤は若干先が読めるものの、素人臭い演技が次第に昇華されていく展開が抜群に面白い。楽しいひと時を過ごしました。監督は小林啓一

 

主人公所結衣は、文芸雑誌で読んだ緑町このはが書いた小説に感銘し、その原作者が通う櫻葉学園高校へやってきて、この日、緑町このはが所属するという文芸学部の入部テストを受けている場面から映画は幕を開ける。ところが、外でドローンを飛ばしていた生徒がいて、そのドローンが教室に飛び込み、所はドローンとぶつかり気を失ってしまう。試験途中だったもののルールは変えられず、所は入部できなかった。そんな所に文芸部部長でここ二年間文芸コンクール優勝していた西園寺茉莉が声をかける。

 

実は文芸部に緑町このはという生徒はいなくて、唯一、新聞部の取材に答えたことがあるという事実があるだけなのだという。西園寺は所に、新聞部に近づいて緑町このはの手がかりを掴むようにと提案、そして緑町このはの正体が分かれば、入部テストの再テストを検討すると持ちかけられ、所は西園寺から記念の万年筆を受け取って承諾する。

 

新聞部の記事の隅にあった入部応募のQRコードを辿っていった所は、とある印刷工場にある新聞部に辿り着く。そこには部長の杉原かさねと副部長の恩田春菜がいた。杉原は所を新米記者トロッコと呼んで一緒に特種探しを始める。教師のスキャンダルを暴き、ヘルメットを被って校内で号外を配るもののなかなか緑町このはのヒントはつかめなかった。

 

所は、ある日、杉原が何処かへ一人で出かけたのを後をつけていく。杉原は松山という家に入っていったため、てっきりその松山こそ杉原が隠している緑町このはだと乗り込むが、先輩でもある松山は西園寺のゴーストライターだと白状する。実は西園寺に文才はなく、松山と親しかった頃、松山は西園寺に恋心を持って書いた小説を西園寺の名前で文芸コンクールに応募し優勝したのだとわかる。

 

さらに、昨年は緑町このはの作品が一旦は優勝したが、急に松山が書いた二作目の西園寺の作品が急遽優勝したのだという。松山は利用されていたことを知り学校に行かなくなっていた。そしてどうやら、理事長沼原が影で糸を引いているらしいと杉原に言われる。しかも、所が西園寺からもらった万年筆は盗聴器で、全て沼原に筒抜けだった。杉原らは西園寺がゴーストライターを使っていることを暴くが、すんでのところで沼原の妨害に遭ってしまう。しかも沼原は新聞部を正式なクラブに採用する代わりに、学校のための記事を書くようにと杉原に強要、杉原は沼原を殴りそのまま退学してしまう。

 

西園寺の代わりに、なぜか春菜が文芸部部長になっていた。そして今年の文芸コンクールの締切が近づき、沼原は春菜に小説を書かせて西園寺の作品として無理やり優勝させようと画策、春菜や西園寺に自身の野望を話す。一方、所は沼原の陰謀を明るみにするべく、杉原に相談しにいく。かつて杉原がバイブルとしていたある記者の本に一部に、緑町このはの小説への引用があったことから、所が杉原にカマをかけると、杉原は自分が緑町このはだと白状する。

 

所は杉原に相談し号外の準備を進め、松山も巻き込んで、文芸コンクール優勝者発表の日に号外を巻く計画を立てるが、そのことは万年筆の盗聴器で、沼原と西園寺が食事している場で盗聴されてしまう。沼原は、西園寺を優勝させ、西園寺の父の建設会社に新校舎建設を発注する計画だと告白する。沼原は金で取り込んだ教師達を使って、所らを待ち伏せ、ヘルメットを被った所や松山を取り押さえるが、鞄に号外記事は持っていなかった。

 

会場では今年も優勝は西園寺茉莉と発表され、西園寺のスピーチが始まるが、彼女はそこで、これまで沼原に利用されていたことを告白、今回の小説も春菜の作品であると宣言する。西園寺も沼原に利用されていることに辟易としていたのだ。そして全て、杉原達が最初から沼原を糾弾すべく計画していたものだった。

 

外では、冒頭、ドローンを操っていたクラスメートの出口が号外を空から撒いていた。スキャンダルで沼原は失脚し自宅に引き篭もるが、そこに、学内の汚職事件以外の余罪の取材のため、杉原が憧れるジャーナリストがやってくる。時が過ぎ、所は新聞記者になることを決めて面接に行き、あの日以来会わなかった杉原らしい姿を見つけて映画は終わる。

 

主演の所結衣を演じた藤吉真鈴の素人臭い演技と杉原かさねを演じた高石あかりのこなれた演技のやり取りがとっても楽しいリズムを作り出して、高校内のスキャンダルを描きながらも世間一般の社会ドラマの如く笑い飛ばす展開が心地よい。決して大傑作ではないものの、小品ながら楽しめる傑作だった。

 

「夏の終わりに願うこと」

全てがラストのワンシーンのみのために全編淡々と語られる作品で、その緩急のうまさは絶品に近く、決して美しい画面でも、秀逸な展開でもないのだが、さりげない登場人物のセリフや仕草のそれぞれが、いつのまにかソルという一人の少女の願いに集約される。映画通好みの作品ながらなかなかいい映画だった。監督はリラ・アビレス。

 

公衆トイレで、ソルとその母がふざけている場面から映画は幕を開ける。どうやらこれからいくパーティで二人で何か一芸をやる手筈らしい。二人は車に乗り、これから向かう、離れて暮しているソルの父トナが暮らす祖父の家に向かう。ソルはさりげなく「パパが元気になりますように」と呟いて場面は祖父の家に着く。トナの誕生日のパーティ準備で忙しい叔母達は、トナは体調を整えているのだとか、パーティに備えているのだとか言って、ソナはなかなか父と会えない。トナはどうやら余命わずかな病らしい。

 

やがてパーティが始まるが、叔母は準備していた誕生ケーキが失敗し、焼き直しに焦る。ソナは大人達の会話に加われず、大人達はめいめいに話をしていて、ソナの気持ちは苛立つばかりだった。そして、ようやくソナは父に会わせてもらう。なんとかパーティ会場へやってきたトナの前で、ソナは母の肩に乗って服を羽織り、大人の振りで歌を披露してトナに聞かせる。もちろん歌声は歌手の声である。それを微笑ましく見つめるトナは、歌が終わったソナを抱きしめる。

 

やがてバースデーケーキが出され、蝋燭に火が灯される。トナは「願い事は時にない」と呟くが、ソナはじっと蝋燭の前でこちらに視線を向ける。まるで、自身の願いを込めるかのような長い時間の後暗転、誰もいない部屋がワンカット挿入されて映画は終わる。

 

クオリティの高い映画とはこういうものだと言わんばかりの一本で、トナがパーティに加わるまでの参加者のさりげない言葉や、ちょっとしたエピソードがこれまでのトナの姿、あるいは、彼らの辛辣な現実を語っていく。その一方で、真っ直ぐに父への思いを向けるソナの思いが微妙にラストでもっと奥の深いなにかで昇華されるワンカットに集約される。決して面白いという作品ではないものの見事な映画だった。

 

「チルドレン・オブ・ザ・コーン」

スティーブン・キングの短編小説を元にしたシリーズ第一作で、長らく未公開だったが、今回初公開となり見にいった。典型的なB級ホラーで、いきなり本編に入ったかと思うと、訳も分からずストーリーが展開して、ラストはややこじ付け的にスペクタクルシーンで盛り上がってエンディング。気楽なエンタメホラーという一本でした。監督はフリッツ・カーシュ。

 

ネブラスカ州ガトリンの街、今から3年前、妹のサラは風邪で寝込んでいて家で留守番をしている。教会に父と出かけた兄のジョブは、カフェに立ち寄る。他の大人達もカフェにいるが、窓の外では不気味な少年アイザックが中を伺っている。カフェの店員がコーヒーに何やら薬を入れ、それを飲んだ大人達は苦しんで死んでしまい、さらに乱入してきた子供達が大人を惨殺、ジョブの父も殺され、そしてこの街に大人はいなくなって3年が経つ。

 

一人の少年がトランクを持ってジョブとサラに何かを告げてトウモロコシ畑を駆け抜けるが、途中でマラカイという少年が襲い掛かり、喉を引き裂く。医師のバートと恋人のヴィッキーが車を走らせていてネブラスカ州を通りかかる。しかし途中で一人の少年を撥ねてしまう。さっき、マラカイに殺されかけた少年である。その死体を不審に思ったバートは、トランクに少年を積んで電話を探して街へ向かう。しかし、途中のガソリンスタンドで道を聞くが隣町に行けと言われる。

 

言われた通りバートは車を走らせるが、なぜかガトリンの街に近づくばかりで、再びガソリンスタンドに戻ってしまう。そこにはさっきの老人がマラカイに殺され横たわっていた。ガトリンの街にきたバートらは、子供の人影を見つけて後を追うが、なかなか捕まらない。街に大人は一人もいず、不気味な雰囲気である。途中立ち寄った家でサラという少女を発見、ヴィッキーを残してバートは、街を捜索に行く。

 

ところがマラカイら子供達がヴィッキーを襲う。そしてヴィッキーを拉致してトウモロコシ畑に連れ去る。バートが戻り、サラを助け出して教会へ行くと、19歳になったエイモスという少年が生贄になるべく儀式をしていた。バートは儀式をやめさせるが、子供達はコーン教なる不穏な宗教に染まっていて、アイザックという教祖の元大人達を殺戮していた。子供達からなんとか逃れたバートはサラの兄ジョブに導かれて隠れ家に逃げる。一方、ヴィッキーは十字架にかけられ今にも殺されかかるが、アイザックに反感を持つマラカイはアイザックを十字架にかけ、バートを誘き寄せるためにヴィッキーを下ろす。

 

バートはヴィッキーを助けるべくトウモロコシ畑の中の広場に向かう。そして、子供達の中に飛び込んでヴィッキーを助ける。そして隠れ家の納屋に逃げたバート達だがトウモロコシ畑には不気味な何者かが現れる。サラはそれを畝の後ろを歩く者と呼んでいた。地面が盛り上がり彼方から赤い雲が舞い上がり、十字架のアイザックに迫ってくる。

 

かつて化け物に対抗した街の保安官の行動をジョブに聞いたバートは、トウモロコシ畑を焼こうとした事を知り、スプリンクラーのホースにガソリンをつなぎ、火をつけようとする。化け物はアイザックを取り込んで殺したかに思えたが、アイザックは不気味な存在となってマラカイを襲う。化け物がさらに巨大になるところで間一髪ガソリンに火がつきトウモロコシ畑は大爆発を起こす。全て終わったかに思われたバート達はサラとジョブを連れて隣町へ旅立って映画は終わる。

 

短編小説が原作なので余計な説明は全くなく、化け物が何なのかも分からないままだが、不気味なエンディングは余韻を残します。カルトムービーというだけある面白い作品でした。