「女吸血鬼」
今一つお話の脈絡がチグハグなところもあるけれど、適当に作ったホラー作品の面白さを楽しめる一本だった。天知茂の吸血鬼が見ものでした。監督は中川信夫。
新聞記者の大木がタクシーで許嫁伊都子のバースデイパーティに向かっている場面から映画は幕を開ける。ところが途中で飛び出して来た女性を轢いてしまう。しかし、車の前に何もなくて、大木は伊都子家に到着するが、そこでもさっきの女性を見かける。一方、伊都子の家ではパーティが開かれケーキを切ろうとした伊都子が誤って指を怪我してしまう。しかも、二十年間開かずの間から呼び出しベルがなり、爺やらが行ってみると二十年前に失踪した伊都子の母美和子が眠っていた。しかも、二十年前の若さの姿だった。
奇怪な出来事に落ち込む伊都子を慰めるため、大木は絵画展に誘う。そこで、作家が行方不明の特選の絵に美和子の姿を見つける。作家の名は竹中だという。伊都子のそばに黒眼鏡の謎の男が現れる。実は伊都子の家系は天草四郎の血を引いていると父に聞かされる。黒眼鏡の男こそ絵画の作家竹中で、小人を従え、ホテルに滞在していたが、月の光を浴びると吸血鬼になる魔物だった。しばらくして美和子は気がつくが、姿を消してしまう。
二十年前、伊都子の両親が島原に行った際、美和子が突然姿が見えなくなる。美和子は、絵を描いていた竹中と知り合い、竹中に拉致され吸血鬼にされたのだった。竹中は、更なる繁栄のために天草四郎の血縁の伊都子を狙っていた。そんな時、大木は島原で三百万円強盗の事件の犯人が化物屋敷の話をしているのを耳にする。そこに伊都子の母美和子がいると判断した大木は警官たちと化物屋敷に向かうが途中伊都子が拉致されてしまう。
竹中や手下の小人たちを追ううちに化物屋敷にやってきた大木は竹中と対決することになる。その争いの中、竹中は月の光を浴びて年老いた吸血鬼になり、熱湯に沈んで死んでしまう。美和子はすでに竹中によって蝋人形にされていた。伊都子を助け出した大木は、崩れる屋敷を見ながら、映画は終わる。
お話や空間がチグハグで、適当感満載のホラー映画で、二本立ての一本の添え物作品的な色合いの映画でした。
「箱男」
安部公房原作なので覚悟はしていたが、終始シュールな展開に何度も睡魔に襲われてしまった。カメラワークやカット割は流石にうまいし、不思議なリズムを生み出しているのですが、結局箱男になることの意味を追求していく展開に変わりはなく、冒頭の面白さがどんどん抽象的な流れになってくると、どうにもしんどくなって、ラストはおそらくこうだろうという予感通りのエンディングも、面白いながらも素直に楽しめなかった。監督は石井岳龍。
1973年の日本、その他過去の様々な出来事をスタンダードで説明した後、箱男になっているわたしのショットになって映画は始まる。箱の中から世の中を伺うが、箱男を写真にとらえようとする者、武器で襲ってくる浮浪者などが現れる。怪我をした箱男のわたしに、一人の女が金と病院の場所を教えにくる。
近くにある診療所では、偽医者と病院の医師、そして偽看護師の葉子が、何やら研究をし、医師は箱男にならんとする。わたしがやってきて偽医者に治療を受け、葉子らと出会う。治療の後、わたしの帰り際に葉子は自分を助けて欲しいと呟く。偽医者は箱男になり、医師は葉子といかがわしい行為をする。偽医者は病院の医師を殺し箱男の姿で海に捨て、刑事は箱男でうろついていて誤って海に落ちたと判断する。
偽医者も箱男になり、わたしの箱男と取っ組み合いをし、葉子が見つめる。やがて、偽医者の箱男が真の箱男となり、わたしはボロボロの箱で箱男となり葉子の前に現れる。葉子とわたしは病院の中で体を合わせ、病院を箱に変えるべく窓に段ボールを貼るが、やがて葉子は外の世界へ出ていく。わたしは箱の中から外を見つめるが。それがスクリーンに変わり、映画館で観客を見つめる画面となる。そして、箱男はあなただというセリフで映画は終わる。
どういう話かと言われれば、物語として語り難い映画ですが、会話シーンのカメラワークやカット割、画面の構図などは流石にクオリティが高い。とは言っても、感覚で感じ取っていく映画なので、全体のリズムが乗っていないと一本の作品として楽しむにはかなり無理があり、自分には波長の合わない映画だった。