めちゃくちゃ面白かった。「シャイニング」「カリガリ博士」「キャリー」「DUNE砂の惑星」などなど有名ホラーやSF映画のパロディを散りばめ、少々てんこ盛り感のあるストーリーも、独特のマペットアニメで突っ走っていく、まさにティム・バートンワールドでした。楽しかった。監督はティム・バートン。
ゴーストハウスという霊感番組で人気のリディアが収録している場面から映画は幕を開ける。ところが客席にビートルジュースの姿を見た気がして気分が悪くなる。そこへ、母デリアから、父チャールズがアマゾンで死んだという知らせが入り、急遽故郷へ戻ってくる。芸術家でもあるデリアだが、リディアは好きになれず、しかも、母をインチキだと思っている娘のアストリッドとも仲が悪かった。
一方冥界では、ビートルジュースの元妻ドロレスが、遺失物安置所でバラバラに保管されていた肉体をホッチキスで繋ぎ合わせて復活、死人の生気を吸い取ってビートルジュースの元を目指す。故郷に戻ったリディアだが、相変わらずアストリッドと仲が悪く、父の葬儀を飛び出したアストリッドは近所のツリーハウスに暮らすジェレミーと知り合う。
葬儀の日、なんとリディアの番組プロデューサーのローリーはリディアにプロポーズし、二日後のハロウィンの日に結婚式を上げることになってしまう。アストリッドは、その日、ジェレミーとデートする約束をする。実家は売ることになりハロウィンの日、不動産屋がやってくるが、その不動産屋はリディアに、ジェレミーというのは二十三年前両親を殺し、自分はツリーハウスから落ちて死んだのだと言う。アストリッドが危ないと思ったリディアはジェレミーの家に向かうが、その頃ジェレミーはアストリッドと命の交換をする契約を交わし二人で冥界に向かってしまった。
リディアは最後の手段としてビートルジュースを呼び出し、自分と結婚する契約を交わす代わりにアストリッドを助けて欲しいと頼む。リディアはビートルジュースの契約書にサインをして冥界へ向かう。折しもデリアは、毒の牙を抜いたはずの毒蛇に噛まれ冥界に落ちてしまう。アストリッドは危うくソウル・トレインで死後の世界へ行くのを間一髪でリディアが助け、リディアの夫とも再会し、彼の助けで地上へ戻る。そこではローリーが結婚式の準備をしていた。しかし、現れたビートルジュースはリディアに契約書を見せ、その場の参列者をスマホに閉じ込めて結婚式を始める。ローリーには自白薬を注射し、ローリーが金目当てだけだと白状させる。
そこへ、冥界から、法律違反を取り締まる刑事ウルフが駆けつけ、人間を冥界に連れて行った罪でビートルジュースに迫るがビートルジュースは時間を止めてしまう。あわやと言う時、ドロレスが現れる。しかしドロレスとローリーはビートルジュースらが床に作った穴からサンドワームを呼び出して食べさせてしまう。
ビートルジュースはリディアとの結婚式を進めるが、アストリッドが、ビートルジュースが法律違反しているから結婚の契約も無効だと主張、契約書は炎と消える。リディアはビートルジュースの名前を三回呼んで、ビートルジュースは風船のように膨らんで消えてしまう。デリアは冥界でチャールズと再会して二人でソウル・トレインに乗っていく。
時が経ち、リディアはゴーストハウスの番組を辞め大邸宅に住む。アストリッドは結婚し、この日出産予定だった。背後に「キャリー」のメインテーマが流れる中、産んだのはビートルジュースの赤ん坊。絶叫するリディアがベッドで目を覚ますと横にビートルジュースが眠っているかと思いきや全て夢。リディアとアストリッドは平和に暮らし始め映画は終わる。
ソウル・トレインの駅でのダンスシーンや、マペットアニメを多用したファンタジーンの連続、さらに冥界で並んでいる死人たちの中にシャイニングの双子がいたり、冥界の通路がカリガリ博士のセットのようだったり、サンドウォームがリディアらを襲ってきたり、極めつけ、リディアの出産シーンに「キャリー」のテーマというノリの良さに拍手してしまった。テンポもいいし、展開もリズミカルで楽しい。他にも映画のパロディがあるもしれないが、気が付いていないのもあったかもしれない。とにかく、これぞティム・バートンの世界。最高だった。
「Cloudクラウド」
期待しすぎたというのもありますが、焦点が見えてこなくて、ラストシーンもそれほど胸に迫るメッセージが見えなかった。結局、人間の性を露骨に描いていくという感じなのかもしれないが、寒気を感じるほどの怖さも見えないし、映画に分厚さが見えてこないために、ただの銃撃戦映画で終始した感じ。謎の組織の存在も今更という安易さがどうもしっくりこない映画だった。監督は黒沢清。
ある倒産したらしい精密機器メーカーの工場で、転売を仕事にしている吉井が商品を買い叩いている場面から映画は幕を開ける。ネットにアップして、予定の値段で売れたことから吉井は大儲けする。彼は同業の先輩村岡と付き合っているが、村岡は仕事がうまく行っていないらしかった。吉井はクリーニング工場に勤めていて、上司の滝本から昇進の話を聞いているものの気乗りしていなかった。
吉井は秋子という恋人と付き合っているが、彼女は金にしか興味がないふうだった。そんな吉井のアパートの階段に鳥の死骸が置かれていたり、仕事帰りにバイクで走っていて道に糸が張られていて危うく事故を起こしそうになったりする。転売が順調な吉井は湖畔の一軒家を借りてそこで仕事をすることにする。クリーニング工場も辞めるが、深夜滝本が吉井のアパートを訪ねてきたが居留守を使う。
湖畔に移り、秋子と暮らし始めた吉井は地元の青年佐野を雇って順調に仕事をこなしていく。ところが、車の部品が投げ込まれたり、不審な車が通り過ぎたりする。警察に行った際、偽物を扱っているのではと言われ、慌てて品物を処分し、街へ出掛けてレアフィギアを買い占めてくる。しかしその間に佐野は、勝手に吉井のパソコンをチェックし、吉井のハンドルネームが調べられているのに気がつく。秋子はここでの生活に飽きたと出て行ってしまう。
戻ってきた吉井はパソコンが佐野に触れられたのに気がつき佐野を首にするが、佐野は何かあれば呼んでくださいと去っていく。そんな頃、仕事がうまくいかない村岡は闇サイトで吉井のハンドルネームを痛い目に合わせようと声掛けしているリンクを見つける。そして待ち合わせ場所に行った村岡は、そこに集まった数人と吉井の湖畔の家に向かう。メンバーには滝本の姿もあった。
吉井は一人仕事をしていたが、滝本らが襲ってきたので、その場を逃げ森を逃げ回った挙句、自宅に戻ると秋子が戻っていた。逃げようと準備しているところへ襲撃メンバーが戻ってきて吉井を拉致して廃工場で監禁する。その頃、佐野は一人の男から拳銃と吉井の位置を見つけるソフトの入ったタブレットを受け取っていた。
村岡ら襲撃班は吉井を嬲り殺しにし、その様子を配信しようとしていたが、佐野がやってきて次々と襲撃班を撃ち殺し、吉井を助け出して一緒に襲撃班と銃撃を始める。そして、村岡らも全て殺してしまう。佐野は後始末を謎の組織に依頼し、そこへ秋子が現れ、吉井にクレジットカードを要求するが、結局吉井に銃を向ける。使い慣れない秋子に佐野は発砲し、秋子は死んでしまう。佐野は、吉井に、金儲けだけ考えて貰えばあとは自分が担当すると言って、吉井はこれが地獄の入り口かと呟き車で去って映画は終わる。
吉井が逃げる下りは緊張感が弱いし、襲撃班の狂気性も今ひとつ迫力に欠ける。さらに金だけを目的にする秋子のキャラクターも弱い。佐野の存在の不気味さも映画に厚みを生んでこないし、ちょっと不完全燃焼のような映画だった。
「傲慢と善良」
なんとも緩い演出の映画だった。出だしはしっかり考えたのだろうが、そのあとが全く力が入っておらず、脚本も甘いのだが、原作の機微が全く把握されておらないまま、役者も生かしきれず、ゆるゆるの平凡な作品に仕上がってしまった映画でした。辻村深月原作なので少し期待したが残念な作品でした。監督は萩原健太郎。
夜の交差点の前で、渡らずに佇む一人の女性のカットから映画は幕を開ける。女性が持っている花束の花を握りしめてその場に捨ててタイトル。小さなクラフトビールの会社の若き社長西澤が婚活アプリでさまざまな人と会っている場面から物語は始まる。所詮この程度だと思いながら婚活を繰り返していた西澤は、坂庭真実という女性と出会う。そして控えめで気の利く真実と付き合い始める。
西澤は友人大原のホームパーティに真実を連れて行き、友人の美奈子らに紹介する。ホームパーティの後、西澤は美奈子らと飲んでいて、真実と結婚するのは70%くらいだと自慢げに話す。真実はストーカーに付き纏われていると言っていたことがあり、飲んでいる西澤に真美から電話が入る。ストーカーが部屋に忍び込んでいるのだという。西澤は真実を自分の部屋に泊め、まもなくして真実と婚約する。
ところが後日、真実は会社の送別会で遅くなると家を出たが、そのまま帰ってこなかった。そして半年が経つ。西澤は真実の行方を探すために真美の実家に行き、ストーカーの疑いがある真美の以前の見合い相手にも会ったが、手がかりは掴めなかった。その頃真実はボランティアで遠方へ出向きそこで暮らしていた。
西澤はたまたま美奈子らに会い、真実が行方不明だと話すと、美奈子らは真実が送別会に行った日の帰り偶然出会って飲んだことを話す。その場で美奈子らは真実に、西澤が真美のことを70%の女性だと思っていること、ストーカーは作り話だと見抜いたことを話す。真実は美奈子らに見抜かれ、西澤にその程度に思われていることが悔しいのか冒頭のシーンに続く。西澤は、ストーカーのことが嘘だと初めて知る。しばらくして、真美から連絡があり、ストーカーについては嘘で、自分に気持ちを向けるために行ったことを告白し、西澤と別れてしまう。
一方、真実はボランティア先で、泊めてもらっているバーのママよしのと親しくしてもらっていた。農園の作業で耕太郎という青年とも知り合っていた。たまたま、役所の人らがよしのの店で飲んでいて、町おこしの方法を考えているという話題になった際、地ビールはどうかと提案する。そして、そのアドバイスに西澤がやってきた。この展開だと真実が紹介したかに見えるのだが、完全に偶然の出来事というのが原作の流れで、ここも脚本がおかしくなっている。
西澤は、偶然真実と再会するが、もう一度やり直そうという西澤の言葉に応えられない真実だった。真実は耕太郎にデートに誘われていて返事を保留していた。そんな真実によしのは、西澤が好きだから心のどこかにあるのではないかとアドバイスする。真実は耕太郎にデートにはいけないことを告げる。耕太郎は真実に車を貸し、帰る西澤を駅に追いかけて行くようにいう。真実は駅まで行き、西澤に再度向き合って、素直な気持ちを告げて、やり直おそうと言う。こうして抱き合って映画は終わる。
なんとも緩い脚本と演出、さらに演技だろう。今時テレビドラマでもここまでやらないだろうと言う展開にガッカリの一本だった。