「ベルナデット 最強のファーストレディ」
実在の人物と実話を交えているとはいえ完全なフィクションとして笑い飛ばすコメディを作った作品。シラク大統領が完全にバカに描いているのですが対する切れ者のベルナデットが、いつまで経ってもオドオドした演技に終始したために、もうちょっと毅然とした雰囲気で演じればもっと緩急がついて面白かったかもしれない。合唱する場面など小手先の演出も散りばめられているのだが、結局カトリーヌ・ドヌーブの存在だけで完成させた映画だった。監督はレア・ドムナック。
ベルナデットは、夫ジャックを大統領にするために奔走し、ついにジャックは大統領になったが、夫やその側近、秘書としてついている娘のクロードらから軽視されるばかりだった。摂食障害の長女ロランスを交えて大統領就任のお祝いをしたが、ロランスはベルナデットに稀少なカメをプレゼントする。
その後も、ベルナデットは蔑ろにされたが、議会解散総選挙で、シラクの右派は左派に大敗する。解散に反対だったベルナデットだったが、その意見も聞き入れられず、まもなくしてジャックとイタリア女優との不倫が発覚する。クロードは何かにつけて問題を起こしかけるベルナデットの監視役に知事を夢見るベルナールをつけることにする。
ジャックの不倫で自室に引き篭もったベルナデットは、ジャックが、ベルナデットがプレゼントされたカメに放尿している現場を見るにつけ、意を決することにする。そしてベルナールと協力してメディア最重要人物と国民から認められるように行動を開始する。県議会議員でもあったベルナデットは地元の議会で、TGV延伸などを打ち出し、次第にメディアの注目を浴びるようになっていく。
やがてジャックの再選が近づいていた。ベルナデットの警告も聞かず側近の意見だけで走ったジャックは、左派に接戦という状況となるが、挽回の作戦ののち再選される。しかし、ベルナデットの存在は大きく、次期大統領候補と言われるサルコジがベルナデットに近づいてくる。そんな時、ジャックは脳卒中で倒れてしまう。とりあえず回復したものの、所々不安な状況だった。しかも、政治活動の中でさまざまな疑惑がジャック達に降りかかり、大統領から下されたら犯罪者になる可能性も出てくる。
ベルナデットはベルナールの助言もあり、自伝書を出すことにし、さらにサルコジらの攻撃を逆手に取るべくロランスのことも記述してしまう。結局、ジャックは次の大統領選は辞退するが、ベルナデットは家族を守るためにサルコジに接近して、サルコジを指名する代わりに家族を守るように約束させる。そしてサルコジは大統領となり、その後もベルナデットは県議会議員として活動するというテロップで映画は終わる。
ストーリー展開はかなり雑な上に、コミカル部分とブラックユーモア、さらにダイアナ妃の事故などを交えているにもかかわらず。妙にダラダラしている。せっかくカトリーヌ・ドヌーブを起用しているのだからもっと生かすべきだったと思います。
「本心」
原作のエピソードを全て詰め込んだような脚本になっていて、前半の導入部のさまざまが後半全く意味をなしていなかったり、無理やりより戻して挿入されたりで、悪くいうと支離滅裂な仕上がりの映画だった。ラストの、意味ありげなショットもそれゆえに効果が薄れてしまったように思いました。監督は石井裕也。
高校時代の朔也が、気になる女子高生を見つめている場面から映画は幕を開ける。大人になった朔也の母秋子が弁当を作っているが、朔也はいらないからと仕事に行く。今の職場では弁当は不要らしい。ところが、仕事中、母から、大事な話があるという電話をもらう。仕事の後、朔也は同僚の岸谷と飲んでいたが、秋子から、こっちは雨だから気をつけて帰るようにと連絡が入る。しかし、外は天気だった。
不審な思いで、帰途に着いた朔也だが、突然激しい雨が降ってくる。家のそばの川の流れも激しかったが、ふと見ると、岸に秋子が立っていた。朔也が車のライトで目が眩んだ隙に母の姿が消える。てっきり川に飲まれたと思い川に飛び込んだ朔也だが、気がつくと病院のベッドにいた。しかも一年昏睡状態の後だった。
母は、高齢者や病気の人などが死を選択できる制度を利用した自由死を選択していたと刑事に告げられるが、朔也は納得できなかった。同僚の岸本にあったが、職場ではAIの進歩で自動化され自分たちは首になっているという。岸本の勧めで、リアルアバターという、体の不自由な人に代わってバーチャル世界で様々なことを代行する仕事に就く。一方、バーチャル世界でAIを使って好きな人を甦らせることができるというヴァーチャルフィギアを開発した野崎という男を岸本に紹介される。
朔也は、母が最後に何を言いたかったのか知りたいため、秋子のデータを届ける。さらに、精度を上げるために、秋子が生前親しくしていたらしい三好彩花からもデータをもらうことにする。三好は人に触れることができなかった。三好が災害で避難所暮らしだと知った朔也は、三好を自宅の母の部屋にしばらく泊めてやることにする。一方岸本は野崎の娘の家庭教師をしていたが、野崎の娘は野崎の会社のシステムにバックドアを作って潜入したりしていた。そこで岸本は、朔也が母のヴァーチャルフィギュアを作ろうとしているのを知る。
まもなくして秋子のフィギアが完成し、朔也、三好と、ヴァーチャル世界で会話をするようになる。朔也はリアルアバターの仕事で生活を支えていたが、ある時、無理な依頼に振り回され、たまたま立ち寄ったコインランドリーで、係の女性が客に執拗にクレームされている現場に会う。かつて高校時代、憧れの女子高生が売春をしていたことがわかり、一人の教師が暴言を吐いたので、つい襲いかかって暴力事件を起こしたことがあった。朔也はその時と同じくクレーマーに襲い掛かり、暴力を振るってしまう。ところが後日、その時の動画が、暴力場面だけカットして拡散され、朔也が英雄になってしまう。秋子はネットに朔也の口座番号なども流したため、世界的なアバターデザイナーイフィーから大金が振り込まれる。
イフィーは朔也と実際に会いたいと言ってくるが、朔也は三好と高級レストランで食事をしていた。二人一緒でいいと言われて朔也と三好はイフィーの家に行くが、イフィーは半身不随で車椅子に乗る若者だった。自宅では生演奏が行われて、豪華な食事に招かれた二人はイフィーに言われるままに朔也は専属契約を結ぶことになる。しかし、後日イフィーは三好のことが好きになったので、仲を取り持ってほしいと朔也に頼む。バーチャル世界の朔也を通してイフィーは三好に告白するが三好は納得できなかった。その頃岸本は野崎の家庭教師をクビになり、自暴自棄でドローンテロを計画していた。
しかし、それからのちイフィーは正式に三好にプロポーズする。三好が朔也の元を去って、朔也は秋子とバーチャル世界で最後の会話をする。そして秋子の行きたかったところに行き、そこで、あの時言いたかったのは、朔也へのお礼の言葉だった。朔也は秋子の手を取ろうと伸ばすが、そこにもう一人の手、おそらく三好の手、が重なり映画は終わる。
野崎の娘のエピソードや岸本がドローンで首相の車の上で爆破して逮捕されるエピソードなど語られるが、主となる朔也と三好の話になんの意味も見えないし、イフィーの存在も非常に簡単に見えてしまう。どうにも未完成な脚本で走った感じがする仕上がりの甘い中途半端な映画だった。