「他人は地獄だ」
韓国WEBコミック原作だけあってかなりグロテスクなシーンが連続するが、それを無視すれば、なかなかよくできた面白いサスペンスホラーだった。東洋思想を背景にした作劇もこれはこれで面白いし、若干、ラストは思った通りという予想が八割ほど的中したが、ホラー映像の作りの演出も思いのほかうまいし、人に勧めないまでもまあこれはこれで楽しんだ気がします。監督は児玉和土。
一人の男が椅子に固定されている。なんとかテープを外して廊下に逃げ出したが廊下の奥に何かを見つけて絶叫の後タイトル、場面が変わる。こうして映画は始まる。ユウは何かを成し遂げようと田舎から都会に出てきて、タクシーに乗ろうと並んだが、横入りしていた男が、前に並んでいた男を押し除けたので喧嘩になる。ユウは運転手に促されて車に乗ろうとするが、けんかが見ていられずつい仲裁してしまう。
タクシーに乗ったユウは運転手からこんなことに関わらないほうがいいと言われる。ユウは一人都会で暮らす恋人のメグミのところへ行き、泊めてもらおうとするが断られる。なぜか必死で走っているユウの場面になるが、これはラストで明かされる。仕方なく立ち寄った方舟というシェアハウスにやってくる。受付の気の良さそうなおばさんに部屋を案内されるが、いかにもヤクザ風の男山口に絡まれ、乗り気でないままにとりあえず一晩泊まる。しかし図々しい山口と話したのだが、翌日なぜか山口の姿がなかった。不気味な住人マル、ゴローらを気味悪がってすぐ出て行こうとするが、安い宿も見つからない。
そんな時大学の先輩小山に出会う。そしてデザイン会社をしている小山の会社で働くことになる。しかし会社では先輩のクボタに横柄に接しられ、歓迎会でつい本音をクボタにぶつけたユウはさらにいじめに近い扱いを受け始める。ユウは方舟の部屋に誰かが入ったきた気配があり、キリシマというさらに不気味な男から、人肉だと言って焼肉を勧められたりする。そんな方舟に映画監督志望の若者ジュンが入ってくる。ユウはジュンとこのアパートを出ようと相談するが、ジュンは、適当にしてれば大丈夫だと取り合わない。
ユウは再度メグミに同居を頼むが、親に助けてもらって部屋を借りているのでそれは無理だという。そんな時、ジュンとも連絡がつかなかくなる。ユウがアパートの上の階に行くと、不気味な音が聞こえてきて、ユウが携帯でジュンに発信すると部屋の中で音がしているのに気がつきその場を逃げ出す。そんなユウをキリシマやマルは見逃す。イライラするユウはとうとう会社でクボタにキレて殴りかかってしまい会社を飛び出す。
ユウはメグミとレストランで会う。そこに小山がやってきてユウを諭すが、そこへキリシマが現れる。ユウは小山やメグミには手を出すなとキリシマに頼む。キリシマは先にレストランを出るが、小山はユウを勇気づける。小山が一人帰宅すると、突然マルが飛び込んできて小山は殺されてしまう。全てキリシマの指図だった。キリシマは小山の部屋で壁に貼った大きなメグミの写真を見つける。さらにパソコンの映像も見る。
ユウの携帯にメグミの眠っている画像が届いたので、ユウは方舟に飛び込んでくる。そこへキリシマが現れ、ユウは部屋に案内されるとメグミはベッドで死んでいた。そしてキリシマが小山の部屋で見つけた動画を見せる。実はユウが最初にメグミの部屋に行った際、いざこざになってメグミを突き飛ばし、メグミはテーブルに頭を打って死んでいた。慌てたユウはその場を逃げ出したのだ。その頃、マルはニュースで自分が過去に犯した殺人が明るみになったのを知り、狂ったようにゴローを殺し、屋上のキリシマを殴り殺す。そんなマルをユウは刺し殺すが、そこにキリシマが現れる。
乱闘に末、キリシマも殺してしまう。しかし、外に飛び出したユウの前にまたキリシマが現れ、ユウに近づいた瞬間車に轢かれる。ユウは精神病院に隔離され目が覚める。刑事が取り調べにやってくる。刑事はユウに、キリシマが見ていた動画の続きを見せる。ユウが出て行った後、小山がやってきてメグミを殺していた。小山はメグミのストーカーで、同じマンションに住んでメグミの部屋を盗撮していた。さらに、キリシマが存在したという証拠がアパートにないという。
刑事たちは、一体キリシマはユウの妄想だったのかと疑問に感じる。看護師たちがユウの部屋にやってきたがユウの姿はなかった。その少し前、ユウは部屋に入ってくるキリシマの幻覚を見る。部屋には看護師たちの死体があり、カメラが病院の廊下を引いて行って映画は終わる。
先がどうなるのかと思いながら最後まで見てしまう作品で、その意味でストーリーテリングは面白い。ただ、グロテスクシーンが次々と出てくるので、若干辟易としてしまう。そんな映画だった。
「ぼくとパパ、約束の週末」
いい映画だった。本当にいい映画だった。自閉症の子供と父親の話なので、よくあるパターンを想像するが、この監督は前作も同様の作品だったが、映像と音楽のセンスが抜群にいいので映画がポンポンとリズミカルに展開するので、妙な湿っぽさが全くなく、しかも脚本もしっかり練られているので、セリフの一つ一つが光る。クライマックスに至って映画がどんどん膨らんでいく様が手に取るように感じられるとっても素晴らしい佳作だった。監督はマルク・ローテムント。
ミルコと妻ファティメの仲睦まじい夫婦の姿、そして息子のジェイソンが生まれる微笑ましいシーンから映画は幕を開ける。ところが、ふとした時にジェイソンに違和感を感じ、病院で自閉症と診断される。やがてジェイソンは小学校に入るが、学校で揶揄われたり、先生にくってかかったりしてトラブルを繰り返す。レストランの統括指導の仕事をしているミルコはその度に妻と呼び出される。ファティメは次第に限界が来てミルコと喧嘩ばかりするようになるが、そんな夫婦に祖父母はなんとか穏やかに過ごせないかと考える。
そんなある日、ジェイソンは学校で推しのサッカーチームを聞かれ、アインシュタインと答えてしまう。ミルコもファティメもそれぞれに推しのチームがあり、祖父母も大のサッカーファンでもあったことから、ジェイソンの思いに応えようと考え、推しのチームを提案するが、ジェイソンは実際にスタジアムで試合を見てから決めると言い出す。ミルコは会社の上司に相談し、時間を取れる仕事に変えかつ昇給を頼み込み了承を得る。
ドイツ国内56チームの試合に回り始めたジェイソンとミルコだが、ジェイソンにはチームを選ぶにあたってのルールがあった。ミルコは献身的に仕事とサッカー観戦を続けていくが、ある時、どうしても外せない仕事にぶつかる。ジェイソンはその仕事場の近くの試合に行くと提案する。しかも、ジェイソンはある計画があった。深夜に現地に着いたジェイソンたちだが、ジェイソンはスタジアムにミルコを連れていく。そして深夜、照明が消され、空を見るとオーロラが覆っていた。感動した二人はグランドで朝を迎えてしまうが、荷物が持ち去られたことに気がつく。しかもトイレが汚く、そこで若者とトラブルになってミルコの服が汚れ、仕事へ行くことができなくなる。
ミルコは観戦よりも仕事を優先するという最初のルールを持ち出すが、ジェイソンはガンとして聞き入れず、ミルコはつい感情的な言葉を投げてしまい、ジェイソンはどこかへ消えてしまう。探し回ったミルコはエレベーターの中で上下に移動しているジェイソンを見つけ、自分たちがジェイソンのエレベーターに乗らなければいけなかったと反省する。仕事を放棄して自宅に戻ったものの、ジェイソンはミルコを許さず部屋にも入れてくれなかった。
窮地を救おうと、ベルリンで開かれる大試合に家族で行こうとチケットを取るが、ジェイソンは受け入れない。そんな時、近くの科学館に行くことをファティメが提案する。ジェイソン、ファティメ、ミルコらは科学館へ行き、ジェイソンは館長のジーバー教授に会いたいという。ジェイソンが量子理論の話や宇宙の高レベルの話を知るので、教授はプラネタリウムに案内する。それに感動したジェイソンは毎週二日ここに来るといい、ベルリへの試合もみんなで行くことを了承する。
ベルリンについたジェイソンたちだったが、スタジアムがナチスが建設したものだと知ったジェイソンは入場を拒否し、近くの4部リーグの試合に行くと言い出す。ミルコは仕方なくジェイソンと二人でその試合に行く。その試合はこぢんまりしたものだったが、ジェイソンが決めたルール通りのチームだった。試合の帰り、一旦は辞職願を出したミルコの会社の上司から、自分たちは家族だから辞職願は破棄すると連絡が入る。ジェイソンはミルコに、自分がパパのことが好きなのは言わなくてもわかってるよねと言う。場面が変わり学校の教室、ジェイソンはクラスメートの前で、自分が自閉症で、何がしんどいかを素直に語る。こうして映画は終わり、ジェイソンらは今もヨーロッパ中のサッカー試合を回っていると言うテロップが流れる。
とにかく観戦シーンが抜群に上手い。試合も見せるが観客席の声援の姿、その中のジェイソンたちのカットがリズミカルな音楽で軽快に見せていく。そして合間合間の細かいセリフの数々や、家族での食事の場面それぞれが実に心地よくて、終盤のプラネタリウムからオーロラ、そして4部リーグの試合観戦からラストシーンまで実に物語構成が上手い。いい映画だった、本当にいい映画だった。