「ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US」
よくあるDV映画ではあるのですが、非常に練られた脚本と演出で、映画作品としてもなかなかの出来栄えになっているのは良かった。カメラワークも丁寧だし、DVとそうでない境目を見ごとなタッチで映像に表現したのは感心してしまいました。一見、女性が複数の男性への愛を曖昧にした結果のように見せながら、実は現実はこうだったと言うサスペンスタッチの終盤は見応えありました。若干、女性視点的な偏りが見えなくもないですが、映画としてはよくできていた気がします。監督はジャスティン・バルドーニ。
主人公リリーが、父の葬儀のために実家に戻ってくるところから映画は幕を開ける。静かな風景を捉えていくカメラがとっても良い。母は長年父のDVに悩まされていたが、ただ封建的な男性像として描写していく。リリーは、過去の様々を思い出すために勝手に高級マンションの屋上にいた。そこへ一人の男性が出てきて、何かの不満か椅子を蹴飛ばす。彼の名はライルと言った。二人はいつのまにかその場で会話を始める。ライルは脳外科医だった。良い感じになったふたりだが、ライルは急な呼び出しで職場に戻っていく。
それから数ヶ月、リリーはボストンで花屋を開こうと物件を手に入れる。この日、鍵をもらって引き渡してもらい、店内の片付けを始めるが、通りかかったと言って一人の女性がやってくる。求人の張り紙できたと言うが、以前の所有者の求人ポスターだった。しかし人手がいるリリーは彼女を雇うことにする。彼女はアリッサという名だった。
アリッサは、店内片付けの助っ人に夫マーシャルと兄を呼ぶが、何と兄はライルだった。あまりの偶然にリリーは驚いてしまう。映像が変わると、若き日のリリーは、向かいの廃屋から出てきた青年がゴミ箱を漁っているのを目撃する。翌日、リリーは食事などを廃屋の窓の外に置く。バスに乗るとその青年も乗ってきて礼を言う。青年の名はアトラスと言った。父の家を飛び出してきて家もないが間も無く海兵隊に入るのだと言う。当然ホームレスのアトラスにはバスの乗客らも冷たい言葉を投げるが、リリーとアトラスは次第に惹かれあい、両親がいない時は家に呼ぶようになる。そして二人は体を合わせるが、父が突然帰ってきて、アトラスは暴力を受け追い出されてしまった。
リリーの店は開店し、リリーとライルは付き合い始める。アリッサの誕生パーティーに行ったリリーはアリッサが妊娠したことを知る。リリーは、母をボストンで話題のレストランに連れていくが、ライリーも一緒に行きたいと言うので三人で向かう。ところが、そのレストランで、リリーはシェフになってレストランを経営しているアトラスと再会する。あれから八年の月日が流れていた。
リリーはライルのマンションで暮らすようになるが、ライルにはエマーソンという兄がいた。しかし幼い頃に銃の事故で亡くしている過去があった。ある朝、ライルは朝食を作っていたが、リリーが現れ、いちゃつく中、料理が焦げ、慌てたライルがオーブンを止めようとしてリリーを突き飛ばしてしまいリリーは怪我をしてしまう。後日、リリーとライルらはアトラスのレストランに行くが、そこでリリーの額の怪我を見たアトラスが、ライルが殴ったと思い、ライルと喧嘩してしまう。
翌日、アトラスがリリーの店を訪れ、何かあったら連絡したら良いと連絡先をリリーの携帯カバーに挟む。やがてアリッサは出産、アリッサの病室でライルはリリーにプロポーズする。ある日、ライルは執拗にリリーに絡み、言い争いになった際にリリーは階段から落ちてしまう。幸い軽傷だったが、ライルが治療する。それから何ごともなかったが、結婚が決まってから、たまたまリリーがスマホの充電をライルに頼み、ライルがスマホを落としてカバーの中のアトラスのメモを見つける。リリーは何でもないというもののライルは強引にリリーを抱こうとし、リリーは幼い頃の父と母の姿を思い出し、ライルを突き飛ばして家を出る。そしてアトラスのレストランにやってくる。これまでに全ての怪我はライルのDVだったと初めてわかる。このショットの演出が実に上手い。
アトラスはリリーを病院に連れていくが、そこで妊娠していることを知る。アトラスはリリーを自宅にしばらく泊めてやることにする。アリッサにこのことを話し、ライルが幼い頃エマーソンを銃で撃ってしまってから変わったと話し、これからも親友でいるためにライルと別れるように言う。
やがて、リリーは出産、ライルも病院に駆けつけ、出産後の病室で、ライルは赤ん坊を抱く。女の子だったが、リリーはライルの兄エマーソンの名をもらってエミーにしたことを伝える。ライルはもう一度戻って欲しいと頼むがリリーは離婚しようと言う。そして、父から始まったDVに終止符を打つためエミーとリリーふたりで終わらせようと誓う。実家に行ったリリーとエミーは母と一緒に父の墓を訪れる。この日、大きくなったエミーを連れて市場に来たリリーはアトラスと再会、離婚したことを告げる。こうして映画は終わる。
ただの事故であるかのような演出で綴っていきながらラストで、全てが夫のDVだったと記憶が鮮明になる描写が実に上手い。ライルとの日々とアトラスとの日々をさりげないカットバックで見せていく手腕も秀逸で、さりげなく、裕福なライルと貧しいアトラスの対比も垣間見られる脚本も上手い。なかなか重層に描かれたヒューマンドラマだった気がします。
「BACK TO BLACK エイミーのすべて」
グラミー賞を受賞し、2011年、27歳でこの世を去ったエイミー・ワインハウスの恋に燃えた全盛期を描いた作品で、がむしゃらに生きる荒んだ彼女の姿を赤裸々に描きながらも、次第に前に進んでいく中で映像が美しく変わっていく演出がちょっと見応えのある一本でした。監督はサム・テイラー=ジョンソン。
エイミーが走る姿を真上から捉えて映画は幕を開ける。祖母シンシアは元ジャズ歌手で父ミッチも母ジャニスも音楽家という一家で育ったエイミーは、この日も作曲に勤しみ、クラブで歌う日々だった。日々の自身の生き方をそのまま歌にしていく彼女の曲は共感され注目されていく。ニッキは彼女を大手音楽プロモーションに紹介し、デビューアルバムは成功するが全米進出は見送られる。酒と大麻に溺れる日々は時にエイミーを自堕落な姿にしていた。
そんなある日、ビリヤード場のあるバーで飲んでいた彼女は、ブレイクという青年と知り合う。妙に気が合ったもののーブレイクには恋人がいた。しかしエイミーはそんなブレイクに惚れ込んでいく。まもなくしてブレイクは恋人と別れ、エイミーと付き合い始める。お互い惹かれあった中で、恋は燃え上がっていくが、エイミーはブレイクの元カノをネタにした歌をクラブで披露しブレイクの気分を害し、間も無くしてブレイクは元の恋人とよりを戻してエイミーの元を去っていく。
エイミーは酒とドラッグに溺れ始め、ブレイクとの失恋を歌ったBACK TO BLACKが大ヒットし、マスコミは彼女が泥酔いする姿をカメラに納め始める。そんな彼女に父ミッチや祖母シンシアが寄り添う。シンシアの応援もありエイミーはさらに人気者になり歌手として成功していくが、彼女の人気を当てにしてブレイクから連絡が入る。今もブレイクを忘れられないエイミーはブレイクの元に走る。これが冒頭のシーンである。
エイミーはブレイクと暮らし始め、やがて結婚する。しかしドラッグ中毒のブレイクの影響もあり、エイミーはますますアルコール漬けとなる。ある日、暴力沙汰を起こしたブレイクが逮捕され収監されてしまう。そんなエイミーをマスコミは追い回すが、その頃、最愛のシンシアが肺癌で亡くなってしまう。エイミーは自分が死んだらシンシアの遺灰の横に自分の遺灰を置いて欲しいとミッチに頼んだりする。
この日、エイミーはブレイクに面会に行くが、ブレイクはお互いに依存症になってこのままでは自分も壊れてしまうから別れようと言う。エイミーはその足でミッチに、自分も施設で療養すると言い、そのままリハビリに入る。リハビリを終え、アルコールからも遠ざかったエイミーは次々とヒットを生み、この日はグラミー賞の発表の日だった。そして見事5部門で受賞、エイミー、ミッチ、ジャニスらとステージで抱き合う。自宅に戻ったエイミーは、応援してくれたミッチを送り出し、一人階段を登っていく。暗転して、2011年エイミーは、それまで絶っていたアルコールを飲み急性アルコール中毒で亡くなったとテロップが出て映画は終わる。
壮絶に燃え尽きた一人の天才ミュージシャンの生き様を描いたと言う感じの一本で、音楽のことはほとんどわからないまでも、こう言う人生もあるとしみじみ胸に迫るものを感じた映画だった。