「花嫁はどこへ?」
これは掘り出し物の秀作だった。素直にめちゃくちゃ良かった。インドというお国柄がないと存在しない話ではあるけれど、ヒューマンドラマ部分にサスペンスを織り込み、さらに女性の自立というインドの時代の流れを背景に描いて行く緻密な脚本が実に上手いし、二つのシーンを交互に重ねるテンポもとっても良い。さらに警察署長のラストの粋な計らいも全盛期のハリウッド映画を思わせる粋さで拍手してしまう。良い映画だった。監督はキラン・ラオ。
可愛らしい花嫁プールの結婚式の場から映画は幕を開ける。夫のディーパクとは恋愛した結果の結婚で幸せそのものだが、インドでは夫の名を呼ぶことも普段はできず、結婚式では花嫁はベールを被ったままだった。二人は列車に乗り、ディーパクの村を目指す。しかし列車の中には複数の花嫁がベールを被ったまま乗っていた。プールたちの席にももう一組の男女が乗っていた。ディーパクがトイレに立った間に席が詰められ、ディーパクが目的の駅で降りる際、つい一人のベールの花嫁の手を取って一緒に降りてしまう。しかし当のプールは窓際で眠っていた。
ディーパクが、村まで女性を連れ帰るが、ベールを取るとプールではなく驚いてしまう。彼女はプシャハと名乗り、別の村に行く予定だったという。しかし、インドでは花嫁は嫁ぎ先の村や実家の村の名前さえ定かではなかった。仕方なくディーパクは警察署へ行きプールの捜索を依頼する。その頃、プールは終点まで行ってしまい、降りたら誰もいなくて路頭に迷ってしまう。その駅の売店の女性マンジュと、駅に住んでいる少年ショトゥがプールの窮状を見かねて泊めてやり、売店で働けるようにする。
その頃、ディーパクが届けた警察の署長マノハルは、プシャハが結婚詐欺の女ではないかと疑い始め捜査していた。プシャハは持参金の腕輪を売り、どこかへ送金し、ネットカフェに入って、いかにも怪しかった。その頃、プシャハの夫のなるべき男パーディプは捜索願を出していたが、その名前はジャヤと言った。その届けがマノハルのところにもファックスされてくる。
プシャハは、ディーパクの家で、若いお嫁さんベラが絵の才能があることを知る。また農作物が虫にやられているというディーパクの父の悩みに、有機農法による防虫方法を教えたりする。まもなくして、マノハルは、プシャハはジャヤであることを突き止める。そして、ディーパクの家に行きジャヤを逮捕する。
プールはマンジュと意気投合し、自分でお金を稼ぐ術を手にれて自立心が芽生えていた。しかしディーパクに早く会いたいという心は捨てていなかった。そんな時、プールの似顔絵を描いたチラシが回ってくる。一方、ジャヤは、マノハルに問い詰められ、全てを告白していた。有機農法を勉強したくて母に頼んだが母はまずは結婚するようにと婚礼を進めてしまった。しかしジャヤの嫁ぎ先の元妻は自殺か殺されたかわからない不審死をしていた。ジャヤは諦めて婚礼に向かうが、列車の中でディーパクに手を取られ、運命を感じたのだという。
ジャヤは、姉に送金して大学の授業料を振り込んでもらい、ディーパクの家を出ようとしたが、ディーパクのプールを思う気持ちに打たれて、似顔絵を描いてもらってチラシを撒いたのだという。プールはマンジュらに別れを告げてディーパクの住む村の駅を目指し列車に乗る。マノハルは、パーディプにも連絡をし、迎えに来させる。
パーディプが迎えにきたが、目の前でジャヤを殴ったりするのを見たマノハルは、一旦は引き渡して職務を全うした後、改めて、ジャヤを解放するように要求する。このくだりが実に粋である。その頃駅に迎えに行ったディーパクはプールと再会、自宅に連れ帰る。ジャヤは、この日みんなに見送られて大学へ向かう。こうして映画は終わる。
ストーリー展開のテンポが実に良いので、二つのエピソードが絶妙のバランスで交互に展開するから、見ていてワクワクしてしまう。ジャヤのミステリアスな登場から、クライマックスの真相があらわになる爽快感と、それに絡んでプールのヒューマンドラマ部分の味付けが見事にコラボして映画が一つにまとまる流れは絶品。さりげなく流れる楽曲のリズムも相待って、とっても素敵な映画に仕上がっていました。
「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」
初公開以来なので四十数年ぶり、しかも初公開時は日本語吹き替えのみだったので今回初めてオリジナル音声となる。こんなに絵が美しかったかと改めて感動してしまいました。構図も見事ですが、色彩が抜群。やはり名作ですね。良かった。監督はマーティン・ローゼン。
シンプルなアニメーションでウサギの神の伝説が語られ、やがてウサギが今のように耳が長く後ろ足が発達した姿になって穴の中に住むようになった経緯が語られてタイトル、本編になる。
英国ハンプシャー州、そこに住むウサギのファイバーと兄のヘイズルはこの日も大好きな草花を探しに出ようとするが、ファイバーが嫌な予感がすると出るのを躊躇う。兄のヘイズルが無理やり連れ出して草花を食べに行くが、そこでファイザーは木の構築物を発見、やがて襲ってくる恐怖を予見する。
ファイバーの進言を長老に伝えようとヘイズルと二匹で長老のところに行くが聞き入れられず、仕方なく周りの仲間たちだけでここを脱出することにする。ついてきたのは、巣を守るビグウィグ、カイスリップたちだけだった。ヘイゼルたちは後を追ってきたホリーから、人間たちが開発しにきて全ての巣穴は埋められたくさん殺されたことを知る。
ヘイズルたちは途中の農場で養兎場の雌たちを逃がそうとして失敗したり、人間に撃たれて怪我をしたりしながら、最後は独裁体制を敷く将軍ウーンドウォートの集団と戦う。渡り鳥のキーハーに助けられ、ヘイゼルの知力とビグウィグの勇気などでピンチを切り抜け、そして将軍の元からメス兎たちを救出し、静かな丘の上にたどり着く。時が経ち、ヘイゼルのところにも死を司る黒ウサギが現れ、ヘイゼルを連れ去って映画は終わる。
絵が美しいのにまず感動してしまうのですが、ハイテンポで展開するシーンが実に小気味良くて、ラストの切なさにいつの間にか感動してしまいます。こういう名作はいつまでも見る機会を残すべきだと思いました。