「クルージング」
初公開以来だから四十数年ぶりの再見。ムード作りの上手い監督なのは分かっていたが、初めて見た時の印象が殆どなく、今改めて見ると流石に良くできている。監督はウイリアム・フリードキンですが、彼の作品の中では中の下の出来栄え。でも、じわじわと忍び込んでくるような主人公の狂気がラストに至って一気にスクリーンから溢れてくるつくりはそれなりに見事なものです。終始ゲイバーのシーンと変態行為が映されるので勘違いしがちですが、あくまで主人公が心の病にかかって狂う様を描いている作品だと思います。
川に浮かぶバラバラ死体の腕が発見されるところから映画は幕を開ける。近頃頻繁に起こるゲイの殺人事件の一つだと警察は判断する。ある夜、二人のゲイが警官に誘われてパトカーに連れ込まれる。クロスして、革ジャンを着た男が一軒のゲイバーに入っていき、男を見つけてホテルに行く。ことが済んで、男は連れ込んだ男をうつ伏せにして後手に縛り、ナイフを突き立てる。
ホモ殺人事件が続き、捜査本部長のエデルソンは、捜査に行き詰まる中、上司からのせっつきに焦っていた。襲われる男が若くて体格も小柄というのに目をつけ、一人の若い警官スティーブに囮捜査することを提案する。スティーブは、成功すれば出世できると考えて引き受ける。彼には恋人のナンシーがいたが、当然、任務を明かすことはできなかった。
来る日も来る日もゲイバーに入り浸って情報を集めるスティーブだが、一向に手掛かりが見えてこない。毎夜見せられる変態行為に、次第に辟易とし焦りが出てくる。バーのマスターからの情報でキレやすい一人の男に目をつけ、自ら囮になってホテルに連れ込まれ、警官に踏み込ませる。刑事は男を逮捕するが、非人道的な取り調べをする刑事の姿にスティーブは嫌悪感を覚えるが、結局その男は無実だった。
スティーブが潜り込んだアパートの隣にテッドという戯曲作家を目指す青年がいて、スティーブが捜査のため移り住んだ初日から親しくなる。テッドにはグレゴリーという役者の同居人もいた。なかなかホシが見つからず、ナンシーとの関係も疎遠になり、次第に精神的にも参ってきたスティーブはエデルソンに任務を辞めたいと懇願するが、エデルソンはスティーブしかいないと思いとどまらせ、殺された大学教授の教え子の写真を見せる。スティーブはその中で、いつも見るゲイバーの常連を一人みつける。
留守の間にその男の部屋に入ったスティーブは、男が父宛に異常なくらい大量に手紙を送ろうとしているのを見つけたり、警官の革ジャンなどを見つけ、犯人と特定、夜、彼を誘って公園に行く。そこで取っ組み合い、スティーブはその男を刺す。被害者の一人の現場にあったコインの指紋とこの若者の指紋が一致したことから、この男を犯人と断定、事件は解決したとエデルソンは判断する。スティーブは、昇進を約束されエデルソンと別れる。
ところが、スティーブが住んでいたアパートの隣のテッドが惨殺される事件が起こる。同居人のグレゴリーが疑われたが、現場に来たエデルソンは、隣の部屋がスティーブの偽名ジョンの部屋だと知り驚愕する。一方スティーブは、恋人ナンシーの部屋に行く。帰ってきたナンシーに、全ての任務が終わったと告白する。ゲイバーに革ジャンの男が入っていく。ナンシーは部屋の隅にあるスティーブが持ってきたらしい革ジャンや帽子、サングラスをかける。川に船が走っていく。スティーブが髭を剃っているアップで映画は終わる。
ラストは意味深で、スティーブがついに精神的に破綻して殺人鬼と入れ替わったのか、あるいはそれは考え過ぎなのか、エデルソンの驚く姿は何を意味するのか、謎に包まれて映画が終わるがこの辺りの演出は流石に上手い。冒頭のシーンと重複させるラストの繰り返し、ナンシーの姿も謎を呼ぶ描写になっている。見直していろんなものが見えてくる作品でした。
「プリンセス・シシー」
今は作られなくなったロイヤルウェディングラブストーリー。コミカルに展開する様は古き良き映画黄金期の余裕を感じさせるし、クライマックスの結婚式の場面は圧巻のスケールで目を奪われます。なかなかの大作で見応えのある映画だった。ロミー・シュナイダーの出世作です。監督はエルンスト・マリシュカ。
バイエルン侯爵家のルードヴィカ公妃は、長女ネネをオーストリア皇帝フランツの妃に推薦しようとしていた。オーストリア王室のハプスブルク家は、度重なる暗殺劇に見舞われ危機に瀕していたが、皇帝フランツの母ソフィ大公妃は妹ルードヴィカ公妃の娘へレーネ妃ネネをフランツの妃に迎え安定を計らおうと晩餐会にルードヴィカ公妃らを招待する。
ルードヴィカ公妃は、ネネを連れてソフィの招待を受けようとしていたが、ネネ一人ではあざといので妹エリザベート妃シシーも一緒に連れて行こうと計画する。そんな話をしているところへ、シシーが暴れ馬を乗って戻ってくる。こうして映画は幕を開ける。父のマックス公爵は自由人で、事あるごとにシシーを連れて猟に出かけたりしていた。
ルードヴィカ公妃はマックスを残してネネとシシーを連れてソフィの元へ行くが、最初からシシーはついでだったので、失礼がないように部屋に閉じ込めてしまう。シシーは二階の窓から外に出て、一人で釣りに出かける。その頃、馬車でフランツが宮廷に向かっていた。途中、道にリュックが落ちているのを見つけて馬車を止めるが、そのリュックはシシーのものだった。フランツは馬車を停めた際、シシーの釣り針が服に引っかかって、シシーと出会う。
フランツとシシーは意気投合して、フランツは馬車を降りてしばらくシシーと話をして、夕方一緒に猟に行く約束をして別れる。フランツは宮殿に戻り、ソフィに紹介されてネネと挨拶するが、翌日の自身の誕生日の祝賀会に出ることを約して、猟の約束に出かけてしまう。フランツはシシーと猟に出てしばらく話をするが、シシーはそこで、フランツがネネと婚約発表することを知り、自身は身を引くべくフランツの元をさる。しかし、いつのまにかシシーはフランツを愛していた。
やがて祝賀会が開かれるが、シシーは出席を拒む。しかし、シシーの相手をルドヴィカ公妃は見つけてくれて、シシーにも出席を促す。気乗りしないままに祝賀会に出たシシーは、フランツと再会する。猟に一緒に行った女性がルードヴィカ公妃の連れてきたへレーネ妃ネネの妹エリザベート妃シシーだと知ったフランツは、ソフィの思いとは裏腹にシシーと結婚するとソフィーに告白する。そして、最後のダンスの場で、婚約者としてシシーにプロポーズし公の場でフランツはエリザベート妃を迎えることを公言する。しかし、ネネからフランツを奪ったような形になったシシーは悩んでしまう。ネネはルドヴィカ公妃の計らいで別の皇室に一旦身を引く。
やがて結婚式が迫った日、新しい皇太子と結婚が決まったネネはシシーの元を訪れお互いに祝福をする。気持ちの整理がついたシシーはドナウ川を下ってフランツの元へやってくる。結婚式の朝、シシーはソフィに行儀の悪さを責められるもフランツの優しい計らいで仲をとりもたれやがて壮麗な結婚式が執り行われて映画は終わっていく。
コミカルなシーンを散りばめながら、夢のような王子と王妃のラブストーリーが展開していく様はまさに古き良きロマンティックストーリーで、オーストリア王室が危機に瀕しているという歴史背景などあっさりと流すだけで、実にほのぼのした作りになっている。まだまだ十六歳だった初々しいロミー・シュナイダーのあどけなさが見どころの爽やかな映画でした。