「型破りな教室」
思いの外、映像的にもクオリティの高い一本だった。メキシコの荒んだ現状を背景にした実話に基づく作品ということなので終始悲惨な状況ばかりかと思われたが、リアリティを踏襲しながら先生と生徒のヒューマンドラマ部分、小学生同士の心の機微も丁寧に描いていて胸を打たれる秀作でした。監督はクリストファー・ザラ。
薄暗い荒野、老婦人が乗った車椅子を押す幼い少年の姿から映画は幕を開ける。そこへバイクに乗った少年が通りかかり、隠れろと言う。続いてトラックに乗ったいかにも不良集団のような若者たちが通りかかりバイクの少年と共に走り去る。場面が変わるとメキシコ、マタモロスの小学校、生徒たちの教室に一人の新任の先生フアレスがやって来る。そして、机を救命ボートに見立てて、海に投げ出された乗客達をどうやって救出するかを聞いてくる。生徒達は戸惑うが、フアレス先生は考えておくようにと帰っていく。生徒達は、太った校長のチュチェの方がフアレスより浮かぶなどと言われて浮力についてや質量、体積のことなどに興味を持ち始める。
学校校長のチュチェは、迫る実力テストで、好成績を取ることしか頭にない。この地方では六割くらいしかまともに卒業できないと言うのが現実だった。家が貧しくて鉄屑を拾い集めて暮らすパロマの父、子沢山で次々と赤ん坊を産む母がいるルべ、リュックに何やら危険なものを入れてそれを知らずに搬送している少年ニコ。しかし、フアレス先生は天才的な数学の知識があるパロマや、哲学に興味を持つルべ、知識に目覚め始めるニコらに可能性を感じ始める。そして次々と斬新な実験的な教育方法で生徒達に知識を得る面白さを伝えていく。
ニコはパロマが好きだった。パロマが、自宅側のゴミ山に望遠鏡を置いていてそれを見せてもらったニコは、遥か彼方の景色の謎に興味を持つ。家のそばに捨ててあるボートが浮かぶように穴を塞いでみたりし始める。しかし、ニコの兄らが所属するグループは、ニコも仲間に入れるべく近づいて来る。たまたま。パロマと話しているところへ不良グループが来て、パロマに悪さをしようとしたので、ニコはリュックの中の銃で撃って、結果自分も撃たれて死んでしまう。
以前、フアレス先生は、ニコのリュックを開けずに中身を確認せず返したらことを後悔し、自宅に引きこもってしまう。しかし実力試験の日が迫っていた。チュチェの説得で、ニコの家に行ったフアレス先生はパロマ号と名付けた修理されたボートを見つける。さらにパロマの家に行き、パロマの父も娘が望遠鏡を自作していたこと、ベッドの脇にたくさんの本が積まれているのを見つけてパロマを学校へ送り出す。ルべは、赤ん坊の世話をし、学校へ行けなかった。フアレス先生も学校へ行き、実力試験が開始される。試験結果は、パロマの数学が全国トップになる。冒頭の車椅子の少年が小学校の門の前で中を覗くカットで映画は終わっていく。
冒頭のシーン、ニコのボートのシーン、などなど映像的にも非常によく演出されていて、さらにそれぞれの生徒のリアルな家庭事情も目を背けずに描いていく描写が細やかで、厚みがあってとってもいい映画だった。
「セカンドステップ 僕らの人生第2章」
ユダヤ教の宗教儀式バット・ミツバの存在意義がどの程度かわからない上に、目まぐるしく細かいカット割と振り回すカメラに翻弄されてしまい疲れてしまいました。精神障害の主人公の話なのですが、なぜかラブストーリーの如く展開していくし、ユダヤ教徒の家族のヒューマンドラマでもあるし、なんともまとまらない不思議な映画でした。正直退屈でした。監督はネイサン・シルバー。
作家でもあった妻を一年前に亡くしたのか離婚したのか定かでない精神的に不安定になっているベンとその家族の姿から映画は幕を開ける。ベンはユダヤ教の教会で先唄者という存在で、讃美歌をリードして歌う役割らしいが、声が出なくて教徒の前から退出してしまう。落ち込んだベンがバーで飲んでいて、一人の男に絡まれて殴られ意識を失ってしまう。
ベンを助けたのは子供時代に教えてもらった音楽教師のカーラだった。カーラはユダヤ教徒ではないのだが、バット・ミツバの儀式をしたいとベンに頼む。一年間の勉強の後で行われる、いわゆる成人になるための儀式のようなものらしいが、ベンはカーラと親しく勉強を重ねていくうちに心が通じ合っていく。しかし、カーラの家族と食事をした際に、カーラの息子からベンは阻害されてしまう。
カーラは脳卒中で倒れたりする中、バット・ミツバの儀式を早めて欲しいとベンに懇願する。ベンは教会のラビと相談し、一週間後に行うことを決める。ラビの娘ギャビはベンに好意を持っていて、ベンもそんな彼女と親しくしていた。バット・ミツバの儀式の前日はラビやベンの家族と一緒に食事をする風習がありカーラも招待されるが、その席でベンはカーラに愛を告白する。戸惑う家族達を後にしてベンは先に帰ったカーラを追って、途中で転んで気を失う。目覚めたのはカーラのベッドだっだ。翌日、二人で庭でバット・ミツバの儀式をしてカメラがゆっくり引いていって映画は終わる。
カーラと話しをしていたベンの目の前に若き日のベンが現れたり、いかにも精神的に錯乱している風で、最後の告白もまともに取り合っていいものかと言う周囲の戸惑いに見ているこちらも混乱してしまう。ハッピーエンドのようなエンディングながら、非常にテンポの悪い作品で、奇妙な一本だった。