「次郎長社長と石松社員」
高度経済成長時代の下着メーカーのたわいないドタバタ喜劇ですが、ストーリー展開のテンポが実に心地よくて、あれよあれよと散りばめられるコミカルなシーンの連続に気持ちが和んでいくのがわかります。職人監督らしい作りのちょっとした佳作という楽しい娯楽映画でした。監督は瀬川昌治。
一代で巨大下着メーカーになったシミロン下着、ここの社長の椅子が運ばれてくるところから映画は幕を開ける。一人の男石松はこの日、初出社だが、社長の椅子を運ぶのにトラックの後ろに乗って一緒に出社してくる。そして、入社式、社長の長次郎は挨拶もほどほどに次の会見場所に出向いてしまい、石松は社長の顔を知らないままに配属が決まる。配属先は倉庫番のようなところで、花田という係長が上司になるが、花田は石松の大学の先輩だった。
石松は葬儀屋の2階に下宿していたが、隣の小唄の師匠の家にいつもやってくる初老の男がいた。実は長次郎社長だったが、石松は顔を知らないので呉服屋のすけべ爺だと思っていた。
長次郎は、日々回ってくる伝票の一部にハンコが逆さまに押されているのを発見、そのハンコは花田係長のものだと部長らに進言される。しばらくして花田係長は北海道に転勤を命ぜられるが石松は納得いかず、社員らに嘆願書署名の奔走したりする。社長専用エレベーターガールの美里はそんなまっすぐな石松にいつの間にか惹かれ始めていた。そんな石松はある日、飲み屋で学友の譲次と再会する。譲次は投資関係の会社をしていて、シミロン下着の内情にも詳しかった。
いつものように妾の家にやってきた長次郎だが、そこに妻の蝶子が押しかけてきて、石松の部屋に長次郎は逃げ込む。しかしそこで足を挫いてしまう。社長が行方不明となり、室谷部長や柳秘書課長が暗躍を始める。実は会社の金を横領して株で穴を開けた彼らは、それを知られた花田係長を左遷し、さらに会社の新製品の情報をライバル会社に売って穴埋めしようと考えていた。それを知った石松は、たまたま美里から、下宿に転がり込んでいる男が社長だと知り、譲次らと手を組んで、室谷らの陰謀の証拠を録音して、社長に聞かせる。
長次郎は、石松らと料亭で室谷らを待ち伏せ、ライバル社長西野と一緒に室谷らを懲らしめて、関係者を左遷させる。花田は秘書課長となり石松も営業部に転属、この日、社長は社員らと慰安旅行に向かう姿で映画は幕を閉じる。
たわいない演出が散りばめられて小気味良い展開で社内の陰謀を描いていく様がとっても楽しい。完全にコメディながら、どこかしこに瀬川昌治の手腕が発揮された作りになっていて全体が実に充実した仕上がりになっています。紅一点の佐久間良子も抜群に美しいし、配役も妙を得ていて、エンタメの基本のような映画だった。
「馬喰一代」
三船敏郎版のリメイク作品ですが、こちらもなかなかの名編でした。三國連太郎以下俳優陣が充実していた時代の作品だからかもしれません。物語がしっかりと地に足がついている感じで、北海道北見の自然の中に息づく一昔前の無骨な男と、時代の変化に翻弄されていく親子の物語、夫婦の絆が切々と感動を呼び起こしてくれます。良い映画だった。監督は瀬川昌治。
北海道北見、この日、馬市が開かれている。この地で馬喰をしている米太郎は茶屋の二階で唸っていた。茶屋の女給ゆきにちょっかいを出した米太郎はゆきに股間を蹴られて寝込んでいたのである。そこへ、妻の出産の知らせが届き、馬で急いで戻る。まもなく男の子を出産したが妻はそのまま亡くなってしまう。赤ん坊は大平と名付けられ、米太郎は必死で育てるが、馬喰の仕事は斜陽化していく。
大平は学校でも成績優秀だったが、米太郎は、息子を馬喰にするべく厳しく育てていた。しかし、地元の学校では勿体無いという先生の勧めもあり、米太郎は留辺蘂の大きな小学校に大平を転校させる。一方、地元で成金となった幼馴染六太郎は、米太郎の馬喰仲間を雇ってやるという話を持ってくるが米太郎は断る。
次第に知識が豊富になる大平に、読み書きもろくにできない米太郎は戸惑い始め、女学校も出たらしいゆきに、一緒になって欲しいと頼むが、心中の片割れの自分は相応しくないと断る。地元の馬喰の仕事が厳しくなり、米太郎は、大平を一人残して旅馬喰に出るが、戻ってみたらゆきが押しかけ女房で大平の面倒を見ていた。大平は中学進学の年頃になる。
担任の津田先生の勧めもあったが米太郎は大平を馬喰にする夢は捨てきれなかった。しかしゆきの説得もあり、また太平の思いも汲んだ米太郎は大平の中学進学を認める。やがて札幌の中学へ旅立つ日、大平が乗る汽車を米太郎は馬で追いかけていく。しかし、やがて走り去る汽車を見送った米太郎は、線路にうつぶして涙に咽んで映画は終わっていく。
若干、脇役やそのエピソードの描き方が不十分になっているきらいはあるものの、スクリーンに食い入るほどに演技陣の気迫が素晴らしく、やはりこの時代の作品は、少々の難があっても見応えがあると思える一本だった。
「アッと驚く為五郎」
当時一世を風靡したテレビバラエティのキャラクターをもとにしたたわいないドタバタ喜劇ですが、雑な作りかと思えば、意外にしっかりとストーリーが展開していく。ヒッピーやゴーゴーダンス、サラ金、トルコ風呂などの当時の風俗も散りばめられて、楽しい映画だった。監督は瀬川昌治。
時は大正、今にも生まれようという女性、突然関東大震災が起こり生まれてきたのは五番目の男の子、名前を為五郎と名付けられたが、成人した頃には第二次大戦真っ最中で従軍、怪我をして病院で看護婦の志乃と出会い恋に落ちる。ところが間も無くして原爆が投下されて二人は離れ離れになった。
時がすぎて昭和、為五郎は別の女性と結婚し娘、息子もでき、サラ金で大成して大儲けしていたが、かなり悪どい取り立てをしていて、この日も倒産したマネキン工場から質流品を部下の谷村と押収していた。ところが近くのクレーンの操作ミスで事故を起こし為五郎は病院へ担ぎ込まれる。そこでアッと驚くことができなくなったと診断される。
そんな頃、竜子という女サラ金業者が為五郎の顧客を奪い始める。志乃の死を知った為五郎は墓参りに行き、そこで志乃そっくりの梨枝とで会う。一方谷村は、夜の酒場でヤクザ者から逃げてきた梨枝と出会い、いつの間にか恋仲になっていく。為五郎は竜子の正体を探るべく谷村に後をつけさせていた。
為五郎は、梨枝のアパートを訪ね、そこで志乃の写真を見つける。そこへ帰って来た梨枝と出会い、懐かしむ。梨枝は北海道へ行きたいと谷村に告白し、ただヤクザ者に五百万の借金があると言ったので谷村は為五郎が預かっている五百万の手形を盗んで姿をくらます。谷村は竜子にその手形を預けて金を工面しようとしていた。為五郎は竜子のアパートへ乗り込み、手形をとりにくるヤクザの海堂と対峙する準備をするが、為五郎の娘はるみの友達でヒッピーの銀次郎が、違う海堂を拉致して来たため、間違った格好で、竜子の黒幕陣場の事務所に為五郎は乗り込む。
そこへ本物の海堂が現れ為五郎とサイコロ勝負をする。梨枝は海堂の娘だった。しかも、谷村も拉致されていて、為五郎が勝負に勝ったら谷村も梨枝も自由にしてもらうことを条件にツボを振らせる。そして、手形は一旦海堂に渡るも、海堂は梨枝と谷村を許してやり、持参金代わりに手形を為五郎に与える。為五郎は脱税などの容疑で全てを差し押さえられたが、庭の二宮金次郎の銅像の中に隠した金を谷村らに与えて祝福してやり、為五郎の息子がロボットを作っていてそれを動かして爆発させ映画は終わる。
まさにドタバタ喜劇なのですが、そのドタバタの中に、普通に物語が組まれている感がしっかりした仕上がりになっています。映画黄金期の一本という感じの作品だった。