くらのすけの映画日記

大阪の社会人サークル「映画マニアの映画倶楽部シネマラムール」管理人の映画鑑賞日記です。 あくまで忘備録としての個人BLOGであり、見た直後の感想を書き込んでいるので、ラストシーンまで書いています。ご了承ください

映画感想「菊豆」「ILike Movies アイ・ライク・ムービーズ」

「菊豆」

圧巻の愛憎劇だった。初めてみた時はまだ若かったこともあり、こういう中国の不倫劇は十分理解できていなかったのかもしれないけれど、今回約三十数年ぶりに再見して、ドロドロの展開に終始圧倒されてしまった。共同監督なので、張芸謀らしい色彩演出は見られるもののやや影が薄く感じるのは初見の時と印象が変わらないが、スタンダード画面に詰め込まれたドラマに引き込まれてしまいました。監督は張芸謀(チャン・イーモウ)と楊鳳良(ヤン・フォンリャン)。

 

叔父金山が経営する楊染物公房に勤める天青が、品物を届けてロバを引いて帰ってくるところから映画は幕を開ける。最近、金山は新しい妻菊豆を買って跡取りを作らんと励んでいたが、その行為が暴力的なので先の前妻二人は亡くなり、菊豆も毎夜叫び声が絶えなかった。ある時、馬小屋の節穴から天青が覗くとちょうど菊豆の入浴場が見えることに気がつく。そしていつのまにか天青は菊豆に恋心を抱いていく。

 

そんな菊豆は、納屋の節穴をたまたま見つけ、自分が覗かれていたことに気がつく。連夜の金山の暴力に、時に天青も耐えられなくなり、その気持ちを察した菊豆は、わざと天青に体を見せるようになり、とうとう二人は体を合わせてしまう。間も無くして菊豆は妊娠するがそれは天青の子供だった。そうとは知らず、生まれた息子天白を我が子として可愛がる金山だった。その後も天青と菊豆は密会を続けていたが、ある日、金山が使いに行った帰り道で脳卒中で倒れてしまい、天青が連れ帰るが金山は半身不随になってしまう。

 

天青と菊豆は堂々と密会するようになり、菊豆は天白が天青の子供だと告白する。金山は天白にも憎しみが募るようになり殺そうとする。そんな金山を天青らは樽に車をつけて座らせ、いかにも大事にしている風を装いながら暮らすようになる。やがて天白は少年になり、金山は天青らが留守の時に天白を染色液のツボに突き落とそうとするが、気がついた天白は、それまで口を聞かなかったのに金山のことを「父ちゃん」と呼ぶ。以来、天白は金山のことを父ちゃんと呼び、天青はお兄さんと呼ぶようになる。

 

間も無くして、菊豆は再び妊娠するが、今度は金山の子供とは言えないためなんとか堕ろそうとする。しかしうまくいかず、その処置のせいか、日中に気を失ってしまう。天青が菊豆を診療所に連れて行き、帰りはバラバラに戻ってきたが、その頃、天白と遊んでいた金山は誤って染色液のツボに落ちて死んでしまう。しかも、その様子を天白は笑って見ていた。そこへ菊豆が帰ってくる。そして金山の葬儀が行われ、天青は染物公房を出て菊豆と別々に暮らすようになる。

 

天白は成長して少年になったが、相変わらず天青を憎んでいた。天白の視線が気になるばかりの天青と菊豆は、公房の地下の穴蔵で抱き合うが、空気が薄く気を失ってしまう。二人の姿を探していた天白は菊豆を助けるが、菊豆が天青のことを呼ぶので、天白は天青を助け出し染色液のツボに投げ込む。天青は必死で這いあがろうとするが、天白は木切れで天青の頭を殴り殺してしまう。それを菊豆が目撃して絶叫、自ら公房に火をつけ燃え上がる炎に包まれる姿でストップモーション、映画は終わる。

 

胸焼けするほどの愛憎劇で、染物の赤や黄色、菊豆のブルーや黄色や赤の衣装が鮮やかで、殺戮シーンで吊ってある反物がスルスルと落ちていく演出など実に映像的にも見事です。初見時は先に見た「紅夢」の衝撃が強過ぎて、印象が薄れていた感がしましたが、今回見直してこの作品のものすごさに圧倒されてしまいました。すごい映画でした。

 

 

 

「ILike Movies アイ・ライク・ムービーズ」

思っていた物語と違っていたものの、ちょっと変わった作りの作品だった。中盤から次第にシリアスな面が表に出て来るので、作品の空気感が変わっていくが、そこまでの展開も微妙に重かったことにその辺りから気づいてくる。要するのloveではなくlikeであるというところがラストシーンで見えてくる流れは、なかなか念の入った作品だった。ただ、終盤がややクドクドとして雑になったのは残念。監督はチャンドラー・レバック。

 

高校の思い出ビデオを任されている映画オタクのローレンスが、自身の自主映画を披露している場面から映画は幕を開ける。親友のマットとふざけたバラエティタッチの映画を撮るパフォーマンスをしながら、ローレンスの家で映画を見たり一緒に寝泊まりしながらの生活。ローレンスの父は四年前に自殺し、以来ローレンスは情緒不安定だった。夢はニューヨークの大学に進学して映画の勉強をすることだったが、かなり難しかった。

 

学校では思い出ビデオの進捗状況を詰められるがローレンスは適当に流していた。ローレンスは、大学の進学費用のためもあって近くのレンタルビデオショップでアルバイトを始める。そこの店長アラナは、真摯にローレンスに接してくれて、楽しいバイト生活が続く。しかし、いつまでも思い出ビデオが進まない上に、何かにつけて見下すような態度を取るローレンスに、マットは愛想をつかし、同じく映画編集が好きな女子ローレンと組んで思い出ビデオを撮り始める。

 

親友だと思っていたマットに疎遠にされたローレンスは情緒不安定になってバイトに遅れた上、更衣室に引きこもってしまう。しかも、家に帰れないと、店長に無断で店に泊まってしまう。ところが翌朝、セキュリティパスを入力せずに店を出て帰宅したために、店が盗難に遭ってしまう。しかも、ローレンスが帰宅してみるとニューヨークの大学から不合格の通知が来ていた。滑り止めにオタワの大学に受かっていたとは言えショックを受けたローレンスだが、ビデオショップの社長から呼び出される。そこで、店長のアラナらから罵声に近い非難を浴びせられ、ローレンスも言い返してしまう。そして、結局ショップをクビになってしまう。

 

やがて、ローレンスは卒業式を迎え、マットとローレンが撮った思い出ビデオが披露されローレンスも胸が熱くなる。帰りにマットに謝り、アルバムにサインをもらう。ローレンスはオタワの大学に行く日が来た。母に送り出され大学の寮に入ったローレンスは、同じく寮に入った同級生に誘われて会話を始めて映画は終わる。

 

父の死でどん底に落ちたものの、かねてからの映画オタクの思いで必死に乗り切ってきた主人公が、ようやく前に踏み出していくまでを描いた青春映画という感じの一本で、かなりシリアスな作品だった。店長のアラナが映画の女優を目指していてミートゥに遭遇した経験を語ったり、母親がローレンスに、経済的な余裕のなさを告白したりと、なかなか重い中身が詰まった一本で、好き放題に甘ちゃんトークをする主人公の心情をキャッチするまではちょっと戸惑ってしまった。個人的にはそれほど評価できる映画じゃなかったし好みではないのですが、面白い作りの映画だった。